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コラム:円安進展と米欧株変調の綱引き、下落リスク注視すべき秋のジンクス=藤戸則弘氏

[東京 7日] - 米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれていた経済シンポジウム(ジャクソンホール会合)には、世界の投資家の注目が集まった。欧米中銀の関係者は、軒並み高インフレに対する危機意識と金融引き締め策の強化を訴えていた。

 ドル/円相場は、9月7日午後に144.01円と140円の大台を大幅に突破して来た。今後は為替相場特有の円高方向へのブレも挟むことになろうが、大勢的にはドル高・円安傾向が続くと見るのは無理のない相場観と思われる。写真はドルと円紙幣。6月15日撮影(2022年 ロイター/Florence Lo/Illustration)

<目立った黒田総裁の緩和姿勢と円安>

この中で超緩和策の継続を滔々(とうとう)と主張したのが、日銀の黒田東彦総裁だった。黒田総裁は、1)日本のインフレのほぼ全てが、商品価格上昇によるものだ、2)日本のインフレ率は年内に2─3%に近づく可能性がある、3)しかし、2023年にインフレ率は1.5%に向けて再び減速する、4)賃金と物価が安定的かつ持続可能な形で上昇するまで、持続的な金融緩和を行う以外に選択肢はない──と述べた。

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の歴史的とも言える引き締め継続宣言や、欧州中銀(ECB)関係者の高インフレに対する強い警戒感を聞いていた世界の投資家にとっては、改めて「カルチャー・ショック」を受けるような内容と言えるだろう。

確かに、日本の7月消費者物価指数(CPI)の上昇率は、総合が前年比2.6%、ベンチマークである「除く生鮮」が2.4%、「除く生鮮・エネルギー」は1.2%に過ぎない。

7月米国の総合CPIの上昇率は前年比8.5%、ユーロ圏は8.9%(8月は9.1%)、英国は10.1%、カナダは7.6%であり、隔絶した水準である。

民間エコノミストのコンセンサスであるESPフォーキャスト(8月調査)でも、日本のコアCPIの前年比上昇率は、2022年度が2.21%ながら、23年度は1.14%と再び鈍化する見通しだ。物価に関しては、ほぼ日銀と同様な見解と言える。

また、日本の実質賃金も低迷が続いており、年初から停滞した後に、4─7月は4カ月連続で前年比マイナス推移である。こうした物価・賃金動向をベースにすれば、日銀の超緩和策は長期間にわたって継続される可能性がある。

ジャクソンホールにおける黒田発言は、為替市場を直撃した。ドル/円相場は、利上げを継続するFRBと、延々と超緩和策を継続する日銀の政策スタンスの格差を考えれば、自然体でドル高・円安と見るのは素直な解釈だろう。

フェデラルファンド・レート(短期の政策金利)先物のインプライド金利を見ると、来年3月のピークでは3.958%であり、日本のオーバーナイト・インデックス・スワップのインプライド翌日物金利は3月0.014%だ(9月6日時点)。少なくとも、来年4月8日までの黒田総裁の任期中は、日米の金利差は拡大傾向を描く可能性が高いと思われる。

ドル/円相場は、9月7日午後に144.01円と140円の大台を大幅に突破して来た。今後は為替相場特有の円高方向へのブレも挟むことになろうが、大勢的にはドル高・円安傾向が続くと見るのは無理のない相場観と思われる。1998年の1ドル=147.66円も「届かぬ高峰」とのイメージが徐々に薄れつつある。

<日本株に3つの買い材料>

日本の株式相場にとっても、第1に日銀超緩和策の継続、第2に円安傾向の輸出株業績支援は大きなサポート要因になっている。後者に関しては、日経平均の構成ウェイト上位銘柄が、値がさの輸出株、グローバル企業で多く占められている構造要因も寄与している。

もちろん以前と比較すれば「現地生産・現地消費」、「現地生産・国内輸入」のパターンも増加しており、円安の業績寄与度が逓減しているのも事実だ。

しかし、4─6月期決算でも明瞭だったが、日本の輸出企業の想定為替レートは慎重かつ保守的なだけに、結果として円安の業績貢献が大きくなっている。

典型的なのは、日本の自動車株の欧米株に対するアウトパフォームである。8月末時点の年初来上昇率は、三菱自動車が74.1%、マツダが39.1%、SUBARU が23.3%、ホンダが15.3%などと良好である。

トヨタはマイナス0.2%、日産がマイナス1.1%とほぼ横ばい水準だが、GMがマイナス34.8%、フォルクスワーゲンがマイナス19.9%、メルセデス・ベンツがマイナス17.0%(為替考慮なし)などと比較すれば、明らかに円安の恩恵を享受していると思われる。

これは自動車株だけでなく、電機、精密といった代表的な輸出企業にも、同様な効果を与えていると言えるだろう。

加えて、日経平均の予想PER(株価収益率)は12倍台に過ぎず(QUICKデータ)、第3の要因として相対的に割安なバリュエーションも、日本株のポジティブ要因として挙げられるよう。

この結果、8月末までの主要株価指数の年初来騰落率を比較すると、米S&P500種指数がマイナス17.0%、独DAX指数がマイナス19.2%、仏CAC指数がマイナス14.4%、伊MIB指数がマイナス21.2%、アジアでも台湾加権指数がマイナス17.1%、韓国総合指数がマイナス17.0%、香港ハンセン指数がマイナス14.2%と、やはり8月後半の再反落で苦しい展開になっているところが多い。

ところが、日経平均はマイナス2.4%と相対的に良好な成績である(為替考慮なし)。

<8月後半から強まる米株調整色>

しかし、注意を要するのは、8月後半から米国株の調整色が深まっている点だ。パウエルFRB議長が「物価目標を達成するまでは、家計や企業に痛みを伴っても引き締め策を継続する。時期尚早な利下げは1970年代と同様な政策の失敗につながる」と明言して以来、米株式は脆弱な動きを継続している。

S&P種指数は6月安値3636ポイントから8月前半までリバウンドを見せていたが、再び75日移動平均線を下回っており、6月安値に対する「二番底」模索の動きとも解釈されよう。

1928年からのウォール街の経験則では「9月は年間で最もパフォーマンスが悪い月」とされているが、はっきりした原因は分かっていない。ただし、なぜか歴史的な事件が起こるケースが多く、2001年9月には「同時多発テロ」、2008年9月には「リーマン・ショック」が起こり、米国株は大幅安を記録している。

続く10月も1929年の「株価大暴落」、1987年「ブラックマンデー暴落」を経験しており、投資家に「秋は危険」との心理的要素が刷り込まれているのかもしれない。

<欧州・中国・新興国にも景気減速リスク>

さらに問題なのは、米国のみならず、欧州、中国、新興国でも景気減速・後退リスクが懸念されていることだ。欧州はエネルギー価格高騰による高インフレと苦闘しており、ブンデスバンク(独連銀)は、10─12月期の総合CPI上昇率(前年比)が10%に達するとし、イングランド銀行(英中銀)も11月に同13.3%に達するとの公式見解を出している。ECBは高インフレ抑制のために、景気後退リスクを意識しながらも大幅利上げを選択する可能性が高いように思える。

また、中国も、景気循環的な減速以外に、恒大集団のデフォルト(債務不履行)に象徴される「不動産バブル崩壊」によるストック調整の色彩が濃厚だ。

加えて、足元でも四川省成都市や貴州省貴陽市の一部地域がロックダウン(都市封鎖)を発動した。2100万人の人口を抱える成都市は、トヨタをはじめとする自動車産業や、アップルのサプライヤー(部品供給会社)等のIT産業でも重要な都市だ。世界的な景気懸念が、株式相場を抑圧することになる。

<日本株の主役は海外短期筋>

こうした状況を考えると、既述の「ポジティブな3要素」がある日本株も、無縁ではいられない。

日経平均は8月17日高値2万9222円をピークとして既に反落傾向になっているが、今後の米国株の動向によっては、さらなる軟化も警戒される状況だ。

昨秋の日経平均も、1)8月20日安値2万6954円─9月14日高値3万0795円まで14.3%急騰、2)9月14日高値3万0795円─10月6日安値2万7293円まで11.4%急落──という極端な値動きだった。

菅義偉首相(当時)の自民党総裁選不出馬、米中の景気減速・恒大集団の債務問題が騰落の材料とされていたが、実態はヘッジファンド等の短期筋が、デリバティブで膨大な売買を仕掛けた「需給要因」があったと思われる。

東証の投資主体者別売買動向(現物株プラス先物)において、外国人投資家は昨年8月第4週─9月第3週の4週間で2兆2893億円の買い越し、9月第4週─第5週の2週間で2兆0377億円の売り越しという荒っぽい大ディーリングを行っていた。

今年も、外国人投資家は7月第1週─8月第3週の間に2兆8735億円(同)の買い越しだ。しかも、この買い越し額全体に対する現物株式の買い越し額はわずか1887億円に過ぎず、株式先物は2兆6848億円の圧倒的な買い越し額である。

年金等の長期投資家であれば現物株が主体となるはずだが、どうも海外投機筋の関与が疑われる売買内容である。既に8月第4週に外国人は計3759億円の売り越しに転換しており、世界的な株価軟調で、日本株にもアンワインド(ポジションの巻き戻し)が始まったようである。

中長期的な観点では、日本株の秋の調整局面は押し目買いスタンスが有効と考えている。しかし、通常以上の価格変動も想定されるため、米株動向を慎重に見極めながら、時間分散を十分行った段階的な買いで対処したい。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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