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コラム:高インフレ長期化ならFFレート5%台も、激変する投資環境=藤戸則弘氏

[東京 12日] - 世界的な高インフレは、長期化するリスクが高まっているように思える。「OPEC(石油輸出国機構)プラス」は、11月から日量で200万バレルの減産を決定したが、減産規模としては2020年のコロナ・ショックに対応した大幅減産以来だ。

10月12日、世界的な高インフレは、長期化するリスクが高まっているように思える。写真は米ドル紙幣とインフレのイメージ。6月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

すでにサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は8月時点で「原油先物市場の極端なボラティリティと流動性の欠如が、原油価格をファンダメンタルズから一段と逸脱させつつある」とし、「OPECプラスは減産の行動をとる可能性がある」と警告を発していた。それが具現化したことになる。

<サウジが重視する1バレル=80ドル>

重要なのは、世界景気の減速・後退による原油需要の鈍化が起こった場合には、「OPECプラス」が原油価格維持のために、さらなる減産を辞さない姿勢を見せていることだ。その背景には、サウジアラビアをはじめとする中東産油国の財政事情が深く関与しているように思える。

国際通貨基金(IMF)によると、サウジアラビアの財政収支が均衡する原油価格は、1バレル=79.2ドルと推測されており、他の中東産油国も大同小異である。つまり、1バレル=80ドル割れは湾岸産油国の財政を直撃することになり、防衛すべきラインとして意識されたと思われる。

サウジアラビアの開発が早かった油田は、採掘コストが非常に低いものが多い。この低採掘コストと膨大な生産量による石油収入にもかかわらず、財政均衡点が1バレル=79.2ドルになっているのは、サウジの実権を握るムハンマド皇太子が、膨大な「脱石油のための投資」を続けているためだ。キング・アブドルアジズ空港の大規模リニューアルや、メッカとメジナを結ぶ中東唯一の高速鉄道といったインフラ投資はもちろんだが、巨大石油精製・石油化学コンビナートの建設にまい進している。

中でも、北西部の砂漠に建設中の「直線型高層スマートシティ・NEOM」は、幅200メートル・高さ(海抜)500メートル・全長170キロメートルの壮大な未来都市で、900万人が居住見込みだ。現代版「万里の長城」建設とも言える巨大プロジェクトだが、総工費は約5000億ドル(約73兆円)と、膨大な石油収入を惜しげもなく投入している。

また、イエメン内戦にサウジアラビアが介入したことから、国防費も急増している。イランが支援する武装組織「フーシ派」とサウジアラビアの代理戦争の様相を呈してきたが、今年4月からは国連の仲介により停戦が実現して来た。

しかし、国連は10月2日に「停戦延長の合意には至らなかった」と発表し、再び緊張が高まっている。過去には「フーシ派」によるドローンやミサイルによるサウジアラビアの石油関連施設やパイプラインの攻撃があっただけに、攻撃再開となれば原油相場へ影響を与える恐れも台頭しよう。

つまり、サウジアラビアの財政均衡点である1バレル=79.2ドルの背景には、こうした巨額支出があることになる。今後の原油価格は、1バレル=80ドルを下限値とした相場展開を想定しておくべきだろう。

WTI原油先物価格は世界的な需要減少観測を背景に、9月26日には安値1バレル=76.2ドルまで下落する局面があった。世界の原油価格のベンチマークである北海ブレント先物価格も、同日には83.6ドルと80ドル接近の事態となっていた。ところが、「OPECプラス」の減産発表を受けて、10月10日にはWTIが1バレル=93.6ドル、北海ブレントも98.7ドルまで反発する局面があった。

米国のガソリン小売価格にも底打ちから反発傾向が見られている。全米自動車協会が発表しているレギュラー・ガソリン平均価格(全国ベース)は、6月13日に史上最高値1ガロン(3.785リットル)=5.016ドルをマークしたが、その後は原油価格の反落傾向に連動する形で下落トレンドを描いてきた。9月19日には安値3.674ドルまで低下し、ピークから下落率は26.8%に達していた。だが、その後に緩慢な上昇に転じ、10月10日には3.923ドルと6.8%の反発に転じている。

この原油・ガソリン価格の底打ちから反発に加えて、ロシアの欧州向け天然ガス供給停止は、欧州のみならず世界的な天然ガス価格の上昇を引き起こしている。これから冬場の需要期を迎えるだけに、天然ガスやヒーティング・オイルの一段高が危惧され、エネルギー価格の高騰が続くと思われる。物価上昇圧力は長期化する可能性が濃厚である。

<米で継続する賃金インフレ>

もう1つの重要なファクターは、依然として「賃金インフレ」の様相が続いており、広範囲でのサービス価格上昇へ直結していることだ。9月米雇用統計において、失業率は3.5%と過去50年間の最低に並ぶ水準に低下し、平均時給も前年比5.0%上昇。週平均労働時間も34.5時間の高水準を維持している。

こうしたことから、米消費者物価指数(CPI)統計で最大のウェイトを占める住居費の高騰が続き、輸送費、医療費や身の回りのサービスにかかわる価格も上昇傾向が続いている。つまり、エネルギー価格の動向を反映するCPI総合だけではなく、コアCPIも、米連邦準備理事会(FRB)が目標とする2%到達には、相当な歳月を要する状況と思われる。

これに対して、FRBは強い引き締め策の継続を示唆している。新任のジェファーソン、クック両理事の講演には注目が集まったが「景気抑制的な政策金利水準への引き上げ・継続」が、両理事に共通したフレーズだった。おそらく、FRB内の統一見解として練られた文言とみられる。

また、シカゴ地区連銀のエバンス総裁は「政策金利は2023年春までに4.5─4.75%に達する」とし、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁も「政策金利はいずれ4.5%近辺に上昇」と、より具体的な数値に言及している。

<甘い希望的観測、パフォーマンス劣化のリスク>

フェデラルファンド・レート(短期の政策金利)先物は、11月0.75%、12月0.5%の利上げを確実視しており、インプライド翌日物金利のピークも来年3月の4.673%と、両者の発言を織り込んでいる(10月11日時点)。ただし、既述のように、高インフレが予想以上に長期化した場合には、政策金利の5%からそれを超えるリスク・シナリオも覚悟しておくべきだろう。

ウォール街には「市場が動揺すればFRBは手綱を緩める」との期待が残っている。しかし、ウォーラーFRB理事は「金融市場に動揺があっても、インフレとの闘いを優先する」との強い決意を述べ、セントルイス地区連銀のブラード総裁も「FRBの利上げ継続のメッセージを市場は正しく解釈している」と冷静に述べている。この程度の資産価格の変動は想定内ということだろう。

パウエル議長を筆頭に、FRBは最大命題である高インフレ抑制のために、大幅利上げと月間950ドルのQT(バランスシート圧縮)を粛々と実施すると思われる。

私の長い相場経験でも、FRBをはじめとする各国中銀がリセッション・リスクを意識しながらも、強い引き締め策を継続する状況は、1979年の第2次オイルショック以来のことである。

当時のボルカーFRB議長は、政策金利20%の「荒業」を発動したが、米国景気、物価、株価がノーマル化したのは1983年以降のことであり、約4年の歳月を要している。今回も同様な歳月を要すると言うつもりは毛頭ないが、少なくともFRBの利上げ継続中は、甘い「希望的観測」がパフォーマンスの劣化に直結する恐れがあることを認識すべきだろう。

昨年から今年冒頭までのような超過剰流動性相場ならば、順張りの強気スタンスが成果を得ることもできた。しかし、今や各国中銀の強い引き締め策下にあり、投資マネーがシュリンクする方向性は明白になっているように思える。しかも、世界的な景気減速・後退リスクが懸念される状況となれば、順張りの「モメンタム・プレイ」が機能する可能性は極めて低いと想定されよう。

つまり、株式相場も中銀の金融政策の方向性や、マクロ、ミクロのベーシックな分析に基づいた逆張り・押し目買いを志向しなければ、パフォーマンスの獲得は困難と考えている。投資環境は昨年とは劇的に変化しており、それに対応した慎重姿勢が重要となろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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