for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:米インフレと中国経済のリスク、年明けも市場変動要因に=藤戸則弘氏

[東京 9日] - 米連邦準備理事会(FRB)は引き締め姿勢を堅持するようだ。注目された11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)及びパウエル議長の記者会見では、確かに「利上げ幅縮小」が示唆された。既に、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が10月21日に報じていた「引き締め策の緩和」が具現化した形である。

 11月9日、米連邦準備理事会(FRB)は引き締め姿勢を堅持するようだ。写真は10月、上海の街頭の株価ボード前で撮影(2022年 ロイター/Aly Song)

<緩和シフト期待は拙速>

しかし、パウエル議長はこの「利上げ幅縮小」に関して「引き締め策とその効果が経済情勢やインフレに影響を与える際のラグを考慮し、利上げペースをいったん緩めて効果を検証する」と述べており、直接的な「緩和シフト」を意味するものではない。

また、「いつ利上げペースを緩めるか」という問題は、「どれくらいの水準まで政策金利を引き上げるか」、あるいは「引き締め策をどの程度長く維持するか」といった問題に比べると「はるかに重要度が低い」とも付言している。WSJの観測報道で、市場の一部では「引き上げ幅縮小─利上げ停止─緩和策への転換」まで先読みしていた。

しかし、こうしたパウエル発言を見ると、やや拙速に緩和期待が先行していた印象を受ける。一方では「データはターミナルレート(最終的な政策金利水準)が、従来予想よりも高くなることを示唆している」と述べ、政策金利の一段の上昇を予測している。

9月FOMCのドット・プロット(政策金利予測のコンセンサス)では、2023年末に4.6%だったが、一段の上方修正の可能性が高まったようだ。11月8日時点のフェデラルファンド・レート先物は、政策金利のピークが来年6月に5.086%と5%超を織り込んでいる。

<サマーズ氏、FFレート6%に言及>

昨年から高インフレリスクを指摘して来たサマーズ元財務長官は「ターミナルレートが6%超になっても驚かない」と述べている。さらにパウエル議長は「利上げ停止はあまりに時期尚早であり、歴史的記録は時期尚早な緩和に対して強い警告を発している」と、8月ジャクソンホール中銀会合における講演以来の警告を繰り返した。

FOMC結果発表直後には、米長期金利が低下する局面もあったが、引けにかけては一連のパウエル発言を受けて上昇へと状況は一変した。今年になって何回も経験したように「期待で買って事実で売る」パターンを繰り返したことになる。やはり根底には、FRBの高インフレ抑制に対する強い決意があると解釈すべきだろう。市場の期待とは逆に、FRBの引き締め姿勢は継続しそうである。

<中国指導部のイデオロギーシフト>

もう1つ世界マーケットの変動率を高めているのが、「中国ファクター」である。共産党大会で習近平総書記の3期目就任が確定した。共産党の最高指導部である中央常務委員会は7人で構成されているが、再任となった趙楽際、王滬寧(おうこねい)氏を除いて、新たに任命された李強、蔡奇、丁薛祥(ていせつしょう)、李希の4氏は習近平国家主席に非常に近い関係と報じられている。

特に、党内序列第2位の李強氏は来年3月の全国人民代表大会(全人代)で首相に就任することが確実視されている。副首相経験なしでの首相登用は異例で、いかに習近平総書記の信認が厚いかが分かる。

李強氏は地方官僚としてのキャリアが長く、今年4月の上海ロックダウン(都市封鎖)を地方のトップとして実施したことで有名だ。厳しいロックダウンで中国経済の減速が進み、批判も激しかったが、「ゼロコロナ政策」を順守し続けた。

つまり、習近平総書記に極めて忠実な側近と言える。「実務派」として中国経済をサポートした李克強首相の来年3月退任は決まっており、米中貿易交渉で活躍した劉鶴副首相も退任する。世界的には「上海ロックダウンを実施した忠実な部下」としての印象が強い李強氏の首相就任となるだけに、外国人は「中国政策のイデオロギー・シフト」を懸念したのだろう。

外国人投資家は、10月第4週に上海証券取引所と香港証券取引所の相互接続制度において、約18億ドル売り越しと資金引き揚げ姿勢を強めた。香港ハンセン指数は10月31日に安値1万4597ポイントまで売り込まれた。今年2月10日高値2万5050ポイントからは41.7%の厳しい下落である。

さらに長期的に見た場合には、2018年1月高値3万3494ポイントから半値以下の急落で、リーマン・ショック後の2009年以来の低水準に沈んだ。外国人が自由に売買できる香港市場の方が、中国本土株よりも値下がりが大きかった。

中国国家統計局発表の10月購買担当者景況指数(PMI)は、製造業が49.2、非製造業が48.7、総合が49.0と、いずれも景況判断の分岐点である50を割り込んでいる。上海ロックダウン解除後は、いったん回復傾向をたどったが、世界的な景気減速や依然として頻発する地域的なロックダウンの影響は大きい。

直近でも、iPhoneの大規模組み立て工場がある河南省鄭州市でロックダウンが実施され、一時工場閉鎖で大騒ぎになっていた(現在は復旧と報じられている)。

<期待と失望のサイクル>

加えて「不動産バブル崩壊」によるストック調整は深刻で、長期化の気配が強まっている。今年1─9月の不動産投資は前年同期比マイナス8.0%で、毎月データが更新されるたびにマイナス幅が拡大している。こうしたファンダメンタルズの悪化に、政治リスクが加わって大幅な株価下落を招いたと思われる。

ところが、11月1日から香港ハンセン指数は急反発を見せ、10月31日安値1万4597ポイントから11月7日高値1万6821ポイントまで、5営業日で15.2%の急上昇を見せた。

予想外の相場反転だったが、その材料とされたのは「ゼロコロナ政策からの脱却を模索する委員会が設置された」とか、「習近平総書記の要請で王滬寧常務委員がコロナ専門家と会合した」といった未確認情報がSNSで話題になっていたに過ぎない。相当に不透明な内容で、中国の外務省報道官は「知らない」の一言で片づけている。

また、11月5日には中国国家衛生健康委員会の疾病予防管理局が「ゼロコロナ政策は最も効率的かつ効果的なことが、これまでの実践で証明された」と表明している。こうした報道のたびに中国株は二転三転しているが、確実なのはハンセン指数が2009年以来の水準にまで売り込まれた後だけに、不透明材料でも買いを誘発したことである。

この「中国コロナ規制緩和期待」はコモディティ市場にも及び、原油、非鉄金属をはじめとして大幅高となった。また、関連する資源・エネルギー株や米国上場の中国株まで大幅上昇する展開となり、中国だけでなく世界にも影響を及ぼしたことになる。

ここでも、不確実な材料をベースとした「期待」と「現実」の相克が見られ、もし、今後「厳しい現実」に直面した場合には、相場が急反落するリスクを内包しているように思える。

<過去2回の石油危機との共通点>

米国ではリセッション・リスクが従来になく高まっているが、FRBの引き締め姿勢は強いままだ。通常のパターンでは、リセッションが意識されれば金融緩和策を採るのがセオリーだが、景気減速・後退懸念の高まる中でFRBが引き締め策を続けるのは、第2次オイルショック以来のことである。やはり、高インフレ抑制がFRBの最大命題になった際に起こる異常事態と思われる。

消費者物価指数(CPI)の総合が前年比8%を超える上昇となったのは、近年では第1次オイルショック時(ピークは1974年12月の12.3%)、第2次オイルショック時(ピークは1980年3月の14.8%)だけである。

第2次大戦終了後の1947年3月には19.7%の異常値があるが、経済・金融構造が全く異なる1947年を参考にすることはできない。結局、2度にわたるオイルショック時を参考にするしかないが、当時の政策金利のピークは、第1次オイルショック時が13.0%、第2次オイルショック時は当時のボルカーFRB議長が断行した20.0%である。

<年明けも米中リスクにくぎ付けか>

現状では、パウエル発言でターミナルレート5%超が視野に入ってきたが、これで高インフレが鎮静化するか否かは不確実な情勢である。しかも、ウクライナ戦争は泥沼化しており、エネルギー価格へのインパクトは当然だが、最悪シナリオとして「ダーティ・ボム」(放射性物質を散布する爆弾)や、小型の戦術核兵器さえ使用するリスクが懸念され始めている。

一方、中国も、3期目を迎えた習近平体制に、外国人投資家の懸念は高まっている。「ゼロコロナ政策」による減速リスクと、「不動産バブル崩壊」に伴うストック調整リスクを抱えた状況だ。しかも、政策の「イデオロギー・シフト」を考えると、経済・金融面のみならず、台湾問題をはじめとする外交・地政学的リスクにも注意を払う必要がある。

結局、米国、中国ともにこうした懸念を抱えているが、折に触れては「FRBへの緩和期待」や、「ゼロコロナ規制緩和期待」が高まる局面もあり、これが資産価格の騰落に直結する動きが続いている。今年から来年に向けて、依然としてボラタイルな相場展開を想定しておくべきだろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up