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コラム:来年の日本株、世界景気後退リスクと円高進行に直面か=藤戸則弘氏

[東京 7日] - パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の政策スタンスの振幅は大きい。昨年までは「物価高は一過性」、「利上げには忍耐強くなれる」との見解を終始一貫して繰り返していた。ところが、昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)から変化の兆候が顕在化し、今年に入ってからは「高インフレ抑制第一主義」を標榜するようになった。

 12月7日、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の政策スタンスの振幅は大きい。藤戸則弘氏 のコラム。写真は東京証券取引所で2020年10月撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

今年3月から0.25%の利上げ開始となったが、5月には0.5%へと利上げ幅を拡大。6─11月には4回連続の0.75%利上げを実施した。9月からはバランスシート圧縮(QT)を毎月950億ドルに拡大し、まさに引き締め策に疾走して来たと言える。

FRBが超緩和策継続から一転して強い引き締め策に急変したことが、今年の世界的な債券安・株安・ドル高の大きな要因となった。

<パウエル議長、景気配慮型に転換か>

ところが、再びパウエル議長のスタンスは変化したようである。11月30日のブルッキングス研究所主催の講演では、11月FOMCで確認されたように「利上げ幅の縮小」、「政策金利の抑制的な水準維持」、「ターミナルレート(政策金利の最終到達点)の若干の上方修正」、「雇用の逼迫継続」といった文言が並んだ。

こうした内容のみを見れば「従来見解を維持」との解釈も可能だった。ところが、注意深く発言内容を吟味すると「既にかなり積極的な利上げを行っており、インフレ早期鎮静化のためだけに、一段の大幅利上げで経済を破綻させるつもりはない」といった注目すべき変化が表れていた。

また、高インフレの継続に警戒姿勢を維持しながらも、最大の懸念要因である住居費の高騰については「来年後半には住宅サービスのインフレ率は下げ始めるだろう」との楽観的な見通しを表明した。

さらに、QTに関しても「2019年のようにオーバーシュートさせず、経済に影響を及ぼさない範囲に留めたい」と述べ、償還による自然減を中心とした緩慢なアプローチを継続することを示唆した。

こうした諸要素を考慮すると、パウエル議長は「高インフレ抑制第一主義」から、景気とのバランスを考慮した「景気配慮型引き締め策」へ、再び変容したと見ることができよう。

<23年の世界経済、景気後退に直面>

パウエル議長のスタンス変化には、やはり来年の景気が相当厳しくなるとの見通しがあるのだろう。経済協力開発機構(OECD)の2023年世界経済見通しでは、米国、ユーロ圏はわずか0.5%成長である。この低成長予測では、ちょっとした環境変化でリセッションに陥るリスクがあることになる。

中でも、ドイツはマイナス0.3%、英国もマイナス0.4%のリセッション想定で、欧州の停滞感は憂慮されるものとなろう。他の新興国も概ね鈍化傾向で、世界経済の減速・後退は具現化する可能性が濃厚だ。

重要なのはFRBスタッフエコノミストも「向こう1年間でリセッション確率は5割」との見解を表明していることだ。さらなる大幅利上げは深刻な景気後退を招くリスクがあることを、パウエル議長は懸念したと思われる。

今回のパウエル講演の前までは、FRBタカ派の論客が「金融市場は楽観論に傾斜し過ぎている」との見解を述べていただけに、市場は警戒していた。特に、ブラード・セントルイス地区連銀総裁は「政策金利は最低でも5.0─5.25%、テイラー・ルールで厳格に見れば7.0%」との見解を表明していた。11月30日の講演直前には「債券安・株安・ドル反発」で投資家は身構えていた。

だが、「景気配慮型引き締め策」の表明で、一気に「債券高・株高・ドル安」の流れがわき起こった。10月米消費者物価指数(CPI)が鈍化していたことから、既にこうした動きは起こっていたが、まさにパウエル議長がお墨付きを与えた形になった。

10年米国債利回りは10月21日ピーク4.335%から12月2日日ボトム3.470%、ダウ工業株30種平均も10月13日安値2万8660ドルから12月1日高値3万4595ドル、ドル/円相場も10月21日の151.95円から12月2日の133.63円まで、各アセットともに大変動となった。

ただし、一部では「市場の過剰反応」との慎重な見方もある。11月米雇用統計では、平均時給が前月比0.6%・前年比5.1%の高い伸びを見せており、依然「賃金インフレ」の様相が濃い。11月ISM非製造業景気指数も56.5の高水準で、足元の米景気の底堅さを示している。利上げ幅が縮小するにしても、なおFRBの引き締め姿勢は続くとの見方は根強い。

しかし、今年最大の株価抑圧要因であった米長期金利の上昇モメンタムが緩和しつつあるのは事実であり、フェデラルファンド・レート先物が示唆するように政策金利のピークが5.0%前後だとすれば、今次利上げ局面は既に8合目に達していることになる。

直近の米株式はやや軟化しているが、今後12月13日発表の11月米CPIや14日のFOMC結果発表を無事に乗り切れば、短期的に米株式相場が堅調となる可能性もあろう。

<揺らぐEPS増の大前提>

一方、中長期的に見た場合には、やがて景気減速・後退懸念に直面せざるを得ないと思われる。OECDのような厳しい予測では、マクロ景気の減速が企業業績悪化へと波及する可能性が濃厚である。しかも、欧米だけではなく、世界的な減速、あるいはリセッションとなれば、米企業業績についても減益となるリスクが台頭しよう。

ここ数年間はコロナショックによる一時期を除いて、時間の経過とともに企業の1株当たり利益(EPS)が増加するのは当たり前になって来た。しかし、2023年はこの前提が崩れる恐れが強まることになろう。長期上昇波動を継続したITの超大型株は、既に業績の陰りから株価は大きく反落傾向にある。

また、好調な受注が続いた電気自動車(EV)は、早くも価格競争の様相が強まり、関連銘柄の株価も大幅調整を演じている。来年は、景気減速下でも安定的な収益を稼ぐディフェンシブ株を除いて、厳しい展開が想定されよう。おそらく、来年前半にS&P500種指数は、今秋の安値を試す局面が到来すると考えている。

<円高リスク、日本企業の収益圧迫>

今年の日本株は、現地通貨ベースで見れば、欧米株を凌駕するパフォーマンスが継続して来た。その背景には、1)日銀超緩和策の継続、2)円安進行による輸出関連・グローバル企業の業績底上げ、3)相対的に割安なバリュエーション、4)コロナ規制緩和・総合経済対策による内需株の業績好転、5)下値での確固たる買い主体の存在(年金基金・個人現金・事業法人の自社株買い)──という「5つのポジティブ要因」があったと考えている。

しかし、急速に円高が進行し、2)の大部分がはく落する可能性が濃厚になった。各企業のドル/円想定為替レートは、上期に極端な円安進行があったことから、各社ともに7─9月期決算発表の席上で大幅に円安方向に修正している。自動車・電機・精密の輸出関連企業や、グローバル展開企業は、ドル/円相場の通期想定レートを135─140円程度に上方修正した企業が多い。ところが、今や急速な円高進行で、想定レートを下回るような状況となっている。

7─9月期までの日本企業の業績は、エネルギー・資源高、原材料高、運送コスト上昇、半導体不足といったネガティブ要因にもかかわらず、堅調に推移した。特に、自動車は、半導体・部品不足による生産面のネックや、原材料・費用高を、急速な円安進行による為替差益が相当部分を相殺してくれていた。

欧米自動車株に対して日本の自動車株がアウトパフォームしていた大きな原因にもなって来た。これは、他の輸出企業や、グローバル企業でも同様な展開で、EPSの上昇にも寄与した。結局、この企業業績面の健闘が、先程の3)の相対的な割安感にも直結していた。ところが、急速な円高進行で、前提が大きく変わってしまった。

<日銀政策修正の思惑、円高加速の可能性>

注意すべきは、FRBの再度のスタンス変更のみならず、中長期的には日本サイドでも来年4月の日銀総裁人事が、材料として浮上することだ。黒田東彦総裁の後継新総裁が誰であっても、10年間継続した非伝統的超緩和策を、また5年間延長するとは思えない。遅かれ早かれ、主要国では稀有となったマイナス金利政策は修正される可能性が高いと想定される。

つまり、米国要因のみならず、日本の金利水準の上昇もいずれ視野に入ってくるはずだ。来年3月末までは、黒田総裁の下で現行の金融政策は維持され、日米金利差も厳然と存在しているため、一方的な円高が続くとは想定しにくい。

しかし、輸出・グローバル企業に追い風となっていた極端な円安進行は、止まる可能性が高いと思われる。10月米CPI発表以降には、欧米株の急反発に比較して、日本株の戻りは極めて緩慢である。

特に、来年4月の日銀新総裁就任後は、世界的な景気減速に加えて「周回遅れの日銀引き締めシフト」に注意する必要があると考えている。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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