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コラム:超緩和の副作用、インフレ懸念と暗号資産の急落に要注意=藤戸則弘氏

[東京 2日] - 現在の株式相場に大きなインパクトを与える第1の要因は、米長期金利の動向である。大勢的に見た場合、米10年国債利回りは昨年8月の0.502%でボトムアウトし、上昇トレンドを形成している。米国経済はコロナショックからの回復が鮮明化しており、5月マークイットのPMI(購買担当者景気指数・総合)は68.1と過去最高をマークしている。

 6月2日、現在の株式相場に大きなインパクトを与える第1の要因は、米長期金利の動向である。大勢的に見た場合、米10年国債利回りは昨年8月の0.502%でボトムアウトし、上昇トレンドを形成している。藤戸氏のコラム。写真はニューヨーク証券取引所。3月19日撮影(2021年 ロイター/Brendan McDermid)

バイデン政権の矢継ぎ早の追加経済対策発動もあって、個人消費、設備投資、住宅ともに極めて良好である。パンデミックからの反動という要素がなければ、「好況」と評しても良い高水準のものが多い。米国のコロナワクチン累計接種者が3億人に迫っていることを考えれば、「米国経済のノーマル化」が今後一段と進むと思われる。

<米好況下の超緩和継続>

ところが、こうした回復傾向にもかかわらず、米連邦準備理事会(FRB)は未曾有の緩和策継続を主張し続けている。米国経済の回復は「まだら模様」で、特にコロナ・ダメージ業種の厳しい状況が続き、アフリカ系・ラテン系マイノリティ市民の失業率が高止まりしていることを強調している。しかし、各種経済統計が示唆する回復感とのギャップは拡大しており、これで毎月1200億ドルの債券購入を続ける量的緩和策の妥当性には、次第に疑問が高まっている。

また、FRBの物価ベンチマークであるPCE(個人消費支出)コア・デフレーターは、4月に前年比プラス3.1%と1992年7月以来の高水準となった。世界的に急速な需要回復が顕在化する一方で、コロナ・ショックによるサプライチェーン寸断からの復旧は未整備で、物価上昇圧力が高まっている。

また、非鉄金属、鉄鉱石、鋼材、海上運賃や、穀物をはじめとする農産物等のコモディティ価格上昇も顕著になっている。PCEコア・デフレーターの2000年以降のピークを見ると、1)住宅・クレジットバブル期の2006年8月2.6%、2)リーマン・ショック後の回復期2012年1月2.1%、3)「トランプ・ラリー」による2018年7月2.1%──が目立つ程度だ。しかも、注意すべきは、1)の局面の政策金利は5.2%、2)の局面は0.25%、3)の局面は2.00%で、1)と3)は金融引き締め局面にあったことだ。

したがって、バーナンキ元FRB議長が実質ゼロ金利と3次にわたる量的緩和策を実施した2)の局面が、唯一今回との類似性がある。しかし、それでも当時のPCEコア・デフレーターは2.1%だった。足元では、FRBの「物価上昇は一過性」とのプロパガンダが浸透しているようで、米長期債市場も小康状態だ。 

だが、問題は5月以降にも高い物価水準が続いた時に、「一過性」のロジックが、どれほどの説得力を持ち得るかである。

<サマーズ氏のFRB批判>

海外に目を転じると、すでにカナダ中銀は昨年10月からテーパリング(量的緩和の段階的削減)を実施しており、イングランド銀行も今年5月10日から債券買入額を週44億ポンドから34億ポンドに減額している。カナダ、ニュージーランド、韓国中銀は利上げを示唆しており、イングランド銀行のブリハ金融政策委員は「早期の利上げもあり得る」との見解を示している。

新興国でも、物価高に悩むロシア、ブラジル中銀は、連続利上げに踏み切っている。世界的に金融政策の変化の兆しは明らかであり、それだけに未曾有の超緩和策に執着するFRBのスタンスには違和感をぬぐい難い。

どうもパウエルFRB議長、イエレン財務長官ともに、純粋な経済・金融情勢以外に、バイデン政権の「格差是正・弱者保護」という政治的理念のプレッシャーが強くかかっているように思える。サマーズ元財務長官は「物価高を一過性とするFRBは楽観し過ぎており、信頼できない」と厳しく批判している。FRBの「物価一過性」を信奉するマーケットが、2─3月のような長期金利急上昇に直面した場合には、株価も相応の影響を被ることになる。

<暗号資産の台頭と乱高下>

この超緩和策による膨大な余剰マネーの申し子と言えるのが、ビットコイン等の暗号資産だ。こうした暗号資産が、「マニアックな個人の投機商品」に留まっていた場合には、株式市場への影響は限定的だった。ところが、今や株式市場の第2の変動要因と言えるほど、その影響力は大きくなっている。特に昨年秋以降、著名なヘッジファンドがビットコイン相場に参入してからは、売買代金が膨らみ、ボラティリティも異常に上昇し始めた。

世界最大級のヘッジファンドであるブリッジ・ウォーター・アソシエーツの創業者、レイ・ダリオ氏は、昨年まで「ビットコインは価値の保管場所として適切ではない」と否定的な見解を述べていた。ところが、今年になって「ビットコインは、新たな通貨及び富の貯蔵手段として人気が急速に高まっているのは驚くべき成果だ」と豹変し、保有していることを表明している。

ビットコインの流動性の高まりとハイ・ボラティリティは、磁石のようにヘッジファンド・マネーを吸引する。5月下旬以降、ビットコインのヒストリカル・ボラティリティ(10日)は100%を超えており、大ロットでの売買が横行していることを示唆している。従来、ヘッジファンドは、1)株式、2)債券、3)通貨、4)コモディティが、デリバティブを用いた主要な投資対象だった。だが、今や5)としてビットコイン等の暗号資産が大きく浮上しているように思える。

重要なのは、ビットコインが急落した場合に、ヘッジファンドがリスクアセット全般を売却する動きが顕在化したことである。5月19日に、ビットコインは一時3万0016ドルと、あわや3万ドル割れの急落を演じた。この過程では、株式、コモディティ、ハイ・イールド債等のリスクアセットが、対極的な債券を除いて一斉に売られる局面があった。

<株式市場の死角>

つまり、今やビットコイン等の暗号資産は、ヘッジファンドの短期的投機センチメントに大きな影響を及ぼすようになっている。問題は、暗号資産にはファンダメンタルズ面からのアプローチが不能の点だ。

株式ならば、伝統的バリュエーションや、株式配当利回り、イールドスプレッド等、利回り面のアプローチから妥当価格を推測することができる。しかし、暗号資産となると、世界的に膨張する余剰マネーとの相関性は認められるものの、どこが底でどこが妥当価格なのかは不明である。需給とセンチメントとモメンタムが方向性を決し、ヒストリカル・ボラティリティが100%を超えるような状況となれば、ほとんど「コイントス」である。

欧州中央銀行(ECB)は、ビットコイン相場を「歴史的バブルも色あせるほどのバブル」と厳しく糾弾する一方で、アーク・インベストメント・マネジメントのキャシー・ウッドCEO(最高経営責任者)は「目標価格50万ドル」を掲げている。この両極端な見解の中で、ビットコイン相場は激しい乱高下を演じる可能性が高い。そして、そのボラティリティが株価にも影響する新しい時代を迎えていることになる。

世界経済の回復トーンは強まっており、コロナワクチン接種率の進展に伴って企業業績の上方修正も期待できる状況だ。世界の株式にはフォローの風が続く可能性が高い。しかし、米長期金利動向、そして未曾有の緩和策の申し子であるビットコイン価格によっては、想定外の調整を挟むことも十分あり得よう。

日経平均は、2月16日高値3万0714円をマークして以降、8%前後の急落を定期的に演じている。基本スタンスは、なお押し目買いで対応できるが、ボラタイルな展開への備えは十分必要となろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

(編集:田巻一彦)

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