October 9, 2014 / 7:39 AM / 5 years ago

コラム:姿を消した金正恩氏、北朝鮮の真意はどこに

[8日 ロイター] - 北朝鮮の金正恩第1書記が公の場から姿を消している。最近の動静は一切明らかになっておらず、突然の失跡の理由をめぐりさまざまな憶測が流れているが、平壌では誰もが口を閉ざしている。

 10月8日、北朝鮮の金正恩第1書記が公の場から姿を消しているが、われわれが目にしているのは、外交問題で正恩氏が側近に権限を移譲しようとしているプロセスなのかもしれない。平壌で2012年4月撮影。朝鮮中央通信提供(2014年 ロイター)

正恩氏は9月初めからほとんど姿を見せておらず、北朝鮮メディアからも動静を伝える報道は途絶えている。北朝鮮ウォッチャーにとって正恩氏の動向は欠かせない情報であり、行方が分からなくなったことで、病気説や死亡説、暗殺説やクーデター説などが増えるのは無理からぬことだ。

北朝鮮情勢の分析では、極端なシナリオが描かれがちになる。しかし、米海軍第7艦隊に警戒態勢を取らせたり、韓国の首都ソウルで防空壕を準備したりする前に、少し落ち着いた方が良いだろう。われわれは過去にも似たような状況を見てきた。

軍事クーデターが計画されているという憶測は、長年にわたって浮上しては霧消するのを繰り返してきた。1950年代と60年代には、金日成国家主席(当時)が軍幹部らを粛清する見せしめ裁判がたびたび行われたが、その前には金日成氏自身が姿を見せなくなることもあった。

1960年代後半に金日成氏の行方がしばらくの間分からなくなった時は、中国の紅衛兵らが、軍幹部によって金日成氏は逮捕されたと主張した。その後に北朝鮮軍部では粛清がさらに進んだとされており、紅衛兵は誰よりも内情を知っていたのかもしれない。

1970年前後にも、北朝鮮で静寂が続くと軍事クーデターのうわさがささやかれたが、金日成氏は再び表舞台に登場した。

1992年には旧ソ連で訓練を受けた北朝鮮軍将校らがクーデターを計画したといううわさがあった。1995年には飢饉に見舞われた北東部で、政府に不満を抱いた軍部隊がクーデターを起こすという情報が流れた。1998年には、警察と軍兵士の間で銃撃戦があったと報じられ、平壌での夜間外出禁止令につながった。

金正日政権時代の最後の数年は、最高権力者の健康状態の悪化からクーデターのうわさが絶えず、金正日氏もたびたび表舞台から姿を消していた。

その後、金正日総書記が死去して息子の正恩氏に権力が移ると、すぐにクーデターのうわさが再び駆け巡るようになった。最も注目を集めたのは、正恩氏の叔父である張成沢氏がクーデターを企てているというものだった。張成沢氏は結局、反逆罪で処刑された。

直近では今月4日、国防委員会副委員長に選任されたばかりの黄炳瑞・朝鮮人民軍総政治局長が訪韓したことで、正恩氏がクーデターで失脚したとの憶測が高まった。

北朝鮮では、過去に何度もクーデターは企てられたのだろう。しかし、現在の状況はこれまでとは異なるかもしれない。現政権の不透明さを考えれば、北朝鮮の外交能力を過小評価するのは簡単だ。確かに、彼らの外交はわれわれの多くとは違うかもしれない。しかし、もし北朝鮮指導部が外交ゲームの進め方を良く分かっていなかったのなら、自国の経済崩壊の重みなどに耐えかねてとっくに沈んでいただろう。

金正恩第1書記や側近らが、南北関係などの緊張を徐々に緩和させるという現在の外交戦略を強調するため、故意に正恩氏の動静報道を控えている可能性はないだろうか。

金正日政権時代に得た教訓の1つは、北朝鮮当局の外交改善努力が、しばしば対話相手の金正日嫌いによって苦労してきたことだ。率直に言って、金正日総書記は外交進展の役には立たなかった。2002年にブッシュ米大統領(当時)はワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード氏のインタビューで、「金正日は大嫌いだ。この男には心の底から嫌悪を覚える」と語っている。

北朝鮮では、依然として金正恩氏が最高指導者であることに変わりはない。われわれが目にしているのは、外交問題で正恩氏が側近に権限を移譲しようとしているプロセスなのかもしれない。

このプロセスで鍵となるのは、韓国との関係改善であり、それには誠意を見せることが必要となる。正恩氏が韓国を訪問するのは依然として考えられないが、政権の新たなナンバーツーになったと目される黄炳瑞氏なら不自然ではない。過去数週間にクーデターが起きて政権内に大きな変動があったなら、正恩氏の最側近になったばかりの黄炳瑞氏の訪韓がこんなに早く実現するはずがない。

金正恩氏の動静報道がしばらく止まり、黄炳瑞氏が韓国に電撃訪問したのは別にしても、それ以外にクーデターを示す外的兆候がないことも注目すべきだろう。中国との国境を流れる鴨緑江をわたる脱北者が増えたとの報道はなく、衛星写真でも大きな軍の動きは確認されていない。誰に聞いても平壌は平静が保たれているという。

われわれが目撃しているのは、クーデターほど劇的ではないが、それでも多くの点で重要な何かなのではないだろうか。つまり、最高権力者が国家の全権力を掌握する伝統的な「首領独裁体制」から、指導部内での合意形成をより重視する体制への移行だ。

金正恩氏は今、周囲の忠告を聞き入れるようになり、かつ大幅な権限移譲を進めているのかもしれない。正恩氏は北朝鮮国内では今後も指導者として君臨し続けるが、国際的には、特に韓国との関係においては、進展を図るために意図的に目立たないようにしているのかもしれない。

*筆者は上海とロンドンを拠点に長期にわたり北朝鮮問題を研究してきた。今年に入って著書「North Korea: State of Paranoia(原題)」が出版された。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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