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コラム:ブレイナード議長で何が起きるのか、インフレ対応で市場波乱も=高島修氏

[東京 18日] - 米国のバイデン大統領は次期米連邦準備理事会(FRB)議長を来週の感謝祭までに発表すると語った。次期議長レースは事実上、パウエル議長かブレイナード理事に絞られている。

 11月18日、米国のバイデン大統領は次期米連邦準備理事会(FRB)議長を来週の感謝祭までに発表すると語った。写真はブレイナードFRB理事。マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード大で2017年3月撮影(2021年 ロイター/Brian Snyder)

市場にはブレイナード理事がパウエル議長よりハト派であり、米金利には低下圧力がかかり、米株などリスク資産にポジティブとなる一方、最近堅調な米ドルにはネガティブに作用するとの見方がある。

筆者は来年にかけて中長期的に米ドルを弱気に見ているが、仮にブレイナード新議長になったからと言って、それでFRBが現在のパウエル体制よりもハト派化し、米金利が低下。それに伴って足元の米ドル高トレンドが崩れるとは考えていない。

パウエル現議長の続投と、ブレイナード新議長起用のいずれでも、中期的に警戒すべき点は、米金利上昇が米株などリスク資産を圧迫し、予想外のリスクオフ的な米ドル安が発生することではないかと考えている。そのような際は新興国市場などにも、その余波が広がろう。

<為替発言で目立った財務次官時代>

「各国はゲームのルールに従う」──。2013年1月のブレイナード氏によるこの発言以来、筆者は同氏の発言や行動に長らく注目してきた。

当時、ブレイナード氏はオバマ政権下、米財務省で国際担当次官を務めていた。当初は国際政策に精通したガイトナー財務長官(当時)が卓越した交渉力で国際政策も(水面下で)取り仕切っていた印象が強かったが、そのガイトナー長官は2013年1月に退任した。

ちょうどその頃、日本では安倍晋三政権が誕生し、80円を下回っていたドル/円は95円近くまで急騰した。その際、当時の甘利明経済財政担当相や自民党の石破茂幹事長から為替相場に関する不規則発言が噴出した。その結果、円相場が乱高下し、ドイツのメルケル首相やショイブレ財務相から円安懸念が表明されるなど、通貨政策に乱れが生じていた。

この時に出てきたのが上記のブレイナード財務次官の発言であり、日本政府関係者を含めた不規則発言が急速に減っていった。

実はその後も当時の麻生財務相からダメ押し的な不規則発言があり、海外勢は「タロー・ショック」と呼んだが、その麻生財務相発言に対してもブレイナード次官は「為替レートは市場が決めるというのがG7(主要7カ国)の約束事。日本政府の努力を米政府は支持する」とコメントし、速やかに事態の収拾を図った。

ガイトナー長官に代わり、財政家のルー長官が就任。ブレイナード次官が米国の国際政策の前面に躍り出てきた瞬間だった。「優秀だな」というのが筆者の印象で、その後のFRB理事時代を含めて、発言を継続的にウォッチする端緒となった。

当時、「日本には比較的親和的だ」との印象もあった。それは知日派であるカート・キャンベル国務次官補(当時)が配偶者であることに関係があるのかもしれないと推測したこともあった。

<格差是正に積極的>

2014年6月のFRB理事就任後、そのハト派的な発言をウォッチし、2016年の米大統領選挙では民主党のヒラリー・クリントン候補が勝利した場合に、次の財務長官になるとの見方があることにも納得していた。

財務省の国際担当次官だった経歴もあって、FRB関係者にしては珍しく、ドル相場にも踏み込んだ発言が多く、その通貨高(つまりドル高)を嫌悪する姿勢は、一段とハト派姿勢を際立たせてきた。

最近の発言で筆者が特に注目したのはバイデン政権が発足した直後、今年2月の講演である。ブレイナード理事は昨年8月に決定されたFRBの長期的な政策目標と戦略の意義について強調し、1978年ハンフリー・ホーキンス法の精神に則り、最大雇用を達成することの重要性を説いた。

その政策が性別や年齢、人種、宗教、もともとの国籍、障害、それ以外の不平な要素による差別をなくすことに貢献するはずだと強調していた。

この指摘はバイデン政権が取り組む格差是正に通じ、雇用がそこで果たす役割を強調した点は、労働経済学者で、FRB議長からバイデン政権の財務長官に就任したイエレン氏への訴えかけのようにも聞こえた。ブレイナード理事は理想主義的で、理想に向けて意欲的でもあり、かつ政治的に野心的だ──との筆者の印象は、さらに深まった。

<パウエルかブレイナードか、それが問題だ>

さて、今週に入って筆者が注目したのは、サマーズ元財務長官の「インフレがトランプ氏返り咲きをもたらす可能性」との発言だ。これはバイデン大統領を含め米民主党関係者の多くが共有する危機感だろう。来年の中間選挙に向けて、当初、バイデン政権の経済政策の焦点はコロナ危機からの景気回復と最大雇用の達成にあったと思われるが、軸足は今やインフレへの対応に移っている。

このことはバイデン大統領と面談した際、パウエル議長、ブレイナード理事両氏とも感じ取っているはずだ。

政治的な要請を受けて来年以降、FRB議長職を担うのがパウエル現議長、ブレイナード理事のいずれでも、現在よりも政策スタンスがハト化するとは考え難い。

特にブレイナード理事の場合は、市場でハト派との見方が根強いだけに注意が必要だ。FRB最強のハト派が、飽くまでも相対的にではあるがタカ派に転じる時、市場に与えるショックは大きくなるだろう。

しかも、グリーンスパン元議長のような老練さとは異なるが、現在のパウエル議長の市場とのコミュニケーションは卓越している。セントルイス連銀のブラード総裁のようなタカ派メンバーを勝手に走らせながら、自らはその手綱を引きつつハト派姿勢をかもし出す。だが、しっかり金融正常化というタカ派の馬車には乗っている。そのような印象だ。

一方、ブレイナード理事は今年2月の講演で象徴的なように、論点が明確に打ち出される傾向にある。もし、次期議長に就任した場合、市場へのメッセージ性が現在のパウエル議長よりも強くなると予想される。2013年のテーパ―・タントラムはテーパリングへの意欲を示した当時のバーナンキ議長発言が端緒となったが、良い意味でも悪い意味でも、メッセージの分かりやすさと言う意味では、ブレイナード理事はバーナンキ元議長に似た側面があるかもしれない。

<迫られる3つのインフレへの対応>

ここで重要なことは、バイデン大統領やサマーズ元財務長官が求めるインフレ抑制とは、消費者物価指数に表れる単なる物価インフレだけでなく、住宅などの資産インフレとガソリン価格に影響を及ぼす原油高など資源インフレという3つを含んでいると思われることだ。

資源インフレに絡んでは、最近、ウクライナ問題やベラルーシ問題で欧米諸国との緊張感を高めるプーチン大統領率いるロシアとどう対峙するかという、地政学上の観点も軽視できない。

一方、物価インフレと資産インフレに関しては、資産バブルは基本的に放置し、それがクラッシュしたら事後的に対応するという「Fedビュー」から、未然にそれを防止すべきだとする「BIS(国際決済銀行)ビュー」への長期的な転向の流れの中で捉えるのが適切だろう。

世界で初めてインフレターゲットを導入したニュージーランド準備銀行で今年、政府の住宅政策を加味するように権限委託書(レミット)が書き換えられたように、世界的な潮流は次第に「BISビュー」へと変わりつつある。

1971年のニクソン・ショック(金ドル交換停止)は実物貨幣から信用貨幣の時代への移行を象徴する一大転換点だったが、それから50年経過した今年、物価インフレのみならず、膨張するマネーがもたらす資産インフレをどうコントロールするか、鋭い問いが突きつけられている。

さて、われわれシティグループが独自に世界のフロー環境を指数化しているシティFXポジション指数を見ると、今年7月頃から欧米長期投資家(リアルマネー)を主体に累積的な米ドル買いが記録的なペースで膨らんでいる。

その一部は1年前に見られた円やスイスなどの逃避通貨ロングのような、上昇を続ける米株などリスク資産(資産インフレの一側面)の潜在的な反落リスクをヘッジするためのポートフォリオ・ヘッジに伴った行動と考えらえる。

一方で、この指数はヘッジファンドなど海外短期筋が年初来、やはり記録的なペースで累積的には円ショートを膨らませていることを暗示する。こちらはその時々のポジション調整はあっても、米株高などリスクオン的な環境の下で円売りが膨らんでいることの象徴だ。

今年、このコンビネーションが115円に迫るドル高・円安のドライバーとなってきた。目先それが変調するとは考えにくく、当面はさらなる上振れリスクを警戒すべきだと思う。

だが、その結果、蓄積されたポジションの大きさを考慮すると、向こう1年ぐらいを展望して、その巻き戻しによるドル/円下落リスクを念頭に置いておくべきだとも思う。

そうした持高調整は株価反落など予想外の市場変化に伴って発生する公算が高く、上記の政治・政策事情を考慮した場合、米金利上昇がそのトリガーとなってもおかしくない。

依然として市場では「リスクオフの米ドル高」との見方が根強いが、冒頭記述の通り、現局面ではリスクオフ的な米ドル安が発生しうると思われ、中期的には警戒が必要だと感じている。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

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