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コラム:円安の幕引き、ユーロ/円からか=高島修氏

[東京 14日] - 今年6月半ば以降、米金利には上昇が一巡する兆しが出てきている。米経済のリセッション懸念など世界経済の減速不安が強まる中、銅など資源価格の調整が本格化。ロシア/ウクライナ問題で100ドルを大きく超えて高騰した原油相場にもいよいよピークアウト感が生じ、インフレと米連邦準備理事会(FRB)など各国中央銀行の金融引き締めに対する警戒感が後退し始めたことが、その背景にある。

 今年6月半ば以降、米金利には上昇が一巡する兆しが出てきている。高島修氏のコラム。写真は円とユーロの紙幣。2010年9月、都内で撮影(2022年 ロイター/Yuriko Nakao)

だが、この間の日米金利差縮小を無視するかのように、ドル/円はジリ高推移を続け、14日午前の東京市場では138円台を回復する動きとなっている。135円前後の2002年高値の突破の後、ドル/円は1998年に付けた147円台の高値まで主だったレジスタンスは指摘しえない状況になった。

米金利にピークアウト感がある中、この高値を試すことになるとは思わないが、当面は引き続き上振れリスクを警戒するのが妥当なようだ。現在、指摘しうる上値めどは、1990年からの下げ幅の76.4%戻し(140.01円前後)。このあたりを念頭に今しばらくは、ドル高・円安を見込むべきだと考えている。

<金利差とドル/円、反応に非対称性>

重要なことは、金利差に対するドル/円の感応度が低下するのは今回が初めてではないということだ。そもそも近年、ドル/円と金利差の関係(相関)は安定していないし、特に2020年のコロナ危機の時にはFRBのアグレッシブな金融緩和を受けて、米10年国債利回りはゼロ%近くまで低下した。

その際、日米10年債利回りの金利差は、長期的な関係からはドル/円が80円を割り込んでもおかしくないところにまで縮小した。だが、実際には100円を割り込むこともなく、昨年以降はドル高・円安局面に入った。米経済の回復とインフレ懸念を背景とする米金利上昇、それに伴う金利差拡大にドル/円相場は上昇して反応するようになったのだ。

つまり、米金利が低下し、金利差が縮小する時にはドル安・円高の反応は弱く、米金利が上昇し、金利差が拡大する時のドル高・円安の反応は強く出ているということだ。

昨年以降の中長期的なドル高・円安局面においても、例えば、昨年半ばに米金利が低下する場面があったが、金利差縮小に伴うドル安・円高はほとんど進まなかった。日米金利差に対するドル/円の反応に非対称性が生じているのだ。

今年は3月から5月にかけてドル/円は、日米金利差との極めて強い相関を示した。ところが、6月以降の米金利低下、それに伴う金利差縮小には目立って反応していない。金利差縮小の中、足元で進んでいるドル高・円安は実のところ、今局面のみに特徴的な変化ではない。

<貿易赤字の拡大>

筆者はこうしたドル/円の金利差に対する非対称的な反応を、貿易赤字拡大など日本の国際収支の悪化で理解してきた。すなわち2020年のコロナ危機の際にまず、世界的な需要の落ち込みを受けて日本の輸出が落ち込み、貿易収支は赤字に陥った。その後、輸出は回復してきているが、サプライチェーン問題がくすぶる中、予期せぬオーバーヘッジに陥ることを警戒する輸出企業のドル売りヘッジには力が入らない。

反面、昨年来の原油・資源高で日本の輸入は急増しており、貿易赤字の拡大が鮮明となってきた。当然、輸入企業のドル買い需要は膨らんでいる。こうした中、為替需給の観点では、実需企業の間で、輸入企業の旺盛なドル買い需要がある中、言わばドルの売り手不在のような状況が出現した。

そうした中で、米金利上昇に伴うドル高・円安を見越したヘッジファンドなど海外勢の買いが加わると、ドル/円は金利差拡大方向へは敏感に反応する。反面、米金利が低下してもドル/円下落方向には反応しない。こうした構図となっている。

今回のドル高・円安局面がどこまで続くかの1つの鍵を握るのは、金利市場がどこでFRBによる金融引き締めの織り込みを終わるかであろう。景気減速懸念から原油・資源相場にピークアウト感が漂い始めた今、この点に関してはこれから1─2カ月間が勝負ではないかと思う。

ただ、貿易収支など日本の国際収支の問題は、改善が明確になるには相当な時間を要するだろう。もちろん、原油・資源価格の下落は、この観点でも最終的には円高的に作用し始める可能性はある。だが、FRBの引き締めの織り込みが佳境を迎えるこの数カ月間のうちに、供給制約が解消したり、原油価格がコロナ危機前の水準へ下落したりして、日本の国際収支が正常化する事態は想定しがたい。

しかも、今回のドル高・円安は120円、125円、130円などのキーレベルを突破してきた際に、中小の輸入企業などがオプションなどを用いて構築してきた長期のドル買いヘッジ・ポジションをノックアウトしてきた。足元では、その復元ニーズに伴うドル買い需要も旺盛だと聞く。米金利低下、日米金利差縮小にかかわらず、ドル/円を押し上げる需給的な要因となっている。

<鍵を握るユーロ/円>

ただ、こうした需給的な特殊要因がない、ユーロ/円などクロス円はこの間、金利差縮小に素直に反応する格好で調整色を強めている。

例えば、本年初にはゼロ%を下回っていた独10年国債利回りは6月には2%に近づく急上昇となり、この間に、125円前後で沈んでいたユーロ/円は145円に肉薄する急騰を見せた。だが、6月以降、独金利が足元にかけて1.1%前後まで低下してくると、ユーロ/円も137円前後まで値を崩してきた。

実のところ、ドル/円と同じように、ユーロ/円の金利差との相関もそれほど安定したものではない。ただ、円安が明確になった3月以降は、ユーロ/円は金利差との相関を回復。しかも、1%当りの金利差変化への感応度は、ユーロ/円が2018年春から2020年春にかけて(コロナ危機が勃発するまで)比較的長い期間にわたり、金利差との安定した関係を維持した時とほぼ同じ程度の「まとも」な関係を維持している。

3月以降の急ピッチな上昇後、6月からは本格的な調整局面に入り、この数カ月間は大きな値動きを見せるユーロ/円だが、金利差の限界的な変化に照らした場合、決して過剰で不可解な上げ下げとなっているわけではない。

<ユーロ安の謎と意義>

その反面、ユーロ/ドルは金利差との感応度を失う中で、今週はとうとう1ユーロ=1米ドルのパリティを割り込むところまで値を崩してきた。実のところ、この間、ユーロ/ドル下落を金利差以上にうまく説明してきたのは、イタリア国債などのドイツ国債に対する上乗せ金利、いわゆる欧州ソブリン・スプレッドである。

独伊10年金利差は今年の年初には1.3%程度だったが、足元では2%程度まで拡大。この間にユーロ/ドルは1.13ドル前後からパリティ水準にまで値を崩してきた。

ただ、そのソブリン・スプレッドにしてもユーロ/ドルとそれほど明確な因果関係があるわけではなく、米株下落に象徴されるような、金融市場における世界的なリスク回避傾向の高まりの中で生じている現象だ。

こう整理すると、ユーロ/ドルとソブリン・スプレッドで生じていた相関は一種の疑似相関であり、今回のユーロ/ドル下落は、リスクオフ環境下における全面的な米ドル高の反映と見るのが適切ではないかと思われる。それは恐らくドル/円を金利差縮小の中で押し上げる要因にもなっている。

ただ、こうした中で今年5月までの全面的な円安は全面的な米ドル高へ引き継がれる格好となり、世界全体の中で円安は相対的に目立たなくなってきている。その結果、6月以降はユーロ/円や豪ドル/円などクロス円は調整局面に入ってきている。

とは言え、今後を展望した場合、原油・資源相場とともに米金利にもピークアウト感が出てくると、これまで米国債など安全資産、米株などリスク資産の値崩れリスクに対するヘッジとして投資家の間で保有されていたコモディティや為替市場における米ドルのロングの益出しが始まり、一気にヘッジ・ポジションが米国債などにシフトする可能性がある。

こうした流れが本格化した場合、ユーロ/円から始まった円安の修正が次第にドル/円に引き継がれ、クロス円よりもドル/円を押し下げることにつながるだろう。

今年10─12月期ぐらいからのリスクと考えているが、リスクオフ的なドル安・円高にも注意が必要な時間帯に入ってきていると考えている。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

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