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コラム:「98年の悪夢」再来が招く円高余地=高島修氏

[東京 24日] - 昨年末から2015年はリスクシナリオとして「1998年の悪夢」に気をつける必要があると指摘してきた。そして今、その時を迎えているのかもしれない。

 9月24日、シティグループ証券・チーフFXストラテジストの高島修氏は、長期ドル高円安シナリオは揺らいでいないが、現在の金融経済環境は1998年に似ており、短期的に115円を割り込むリスクにも警戒が必要だと指摘。提供写真(2015年 ロイター)

まず、ドル円相場の長期見通しはドル高円安であり、それが2017年頃までは持続すると考えている。ただ、時にそうした基本シナリオよりも、リスクシナリオに比重を置くべき時がある。長期ドル高円安シナリオは一切揺らいでいないが、足元では短期的に115円を割り込むドル円反落にも警戒が必要な状況だ。

<2017年頃に1ドル=135円前後でピークか>

金ドル交換停止(ニクソンショック)が発表された1971年以降のドル指数の推移を見ると、7―8年下落、2―3年底ばい、5―6年上昇というサイクルを繰り返してきたことが分かる。今回はITバブル崩壊を受けて2001年から長期下落基調をたどったが、2008年のリーマンショックで下げ止まり、2011年に欧州ソブリン危機が深刻化する中で大底を確認する動きが見られた。

その後も昨年半ばまではドルは安値圏で底ばいの動きを見せていたが、過去1年、原油安に伴って進んだドル高によって、長期上昇トレンド入りしていたことが明確になった。

このことは、今回の長期ドル高の背景に米国でのエネルギー革命があることをうかがわせる。経常赤字、財政赤字の双子の赤字がドルの弱点だが、エネルギー革命はその双子の赤字を縮小、解消させる効果を持つ。米国でエネルギー生産が増え、原油輸入が減り、一方で原油安によって家計の実質所得や企業収益が押し上げられ、税収が増えるからだ。

通常5―6年上昇局面が続くことを考慮すると、今回の長期ドル高は最終的には2017年頃まで続く可能性が予感される。2017年と言えば、日本では8%から10%への消費再増税が予定されている年であり、その前後で、元財務官僚の黒田総裁率いる日銀は景気刺激のために追加緩和に踏み切る可能性がある。

筆者は135円前後を想定しているが、その頃に円安ドル高のピークをつけ、ドル指数も今回のピークを迎えるのではないかと考えている。

<ドルを取り巻く環境は90年代後半と酷似>

前回の長期ドル高局面は90年代後半だった。その時は85年プラザ合意以降の長期ドル安が、92年の米国での金融不安と欧州での通貨危機の発生で下げ止まり、94―95年の米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めによって上昇局面入り。2001年のITバブル崩壊まで6年ほど、ニューエコノミーをテーマとする長期ドル高が続いた。

今回はエネルギー革命がそれに相当する。このように90年代と2010年代のドルを取り巻く環境は極めてよく似ている。

ただ、ドル指数は長期上昇局面にあった98年、当時の高値から1割ほど調整反落し、米株も2割ほど急落したことがあった。引き金を引いたのは大手ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の経営危機だったが、背景には97年のアジア通貨危機で世界経済が失速したことで1バレル10ドル台まで原油安が進行したことがあった。産油国のロシア経済が危機に陥り、そのロシア国債に投資していたLTCMの経営破綻につながったのだ。

お気づきだと思うが、FRBの金融緩和から引き締めへの転換に対する警戒感から、2013年以降、新興国市場が混乱。そのことが一因となって原油安が進行し、ロシアをはじめ資源国が窮地に陥り、シェール産業など米エネルギー業界でも深刻な信用リスク再評価が進んでいる。

つまり、今回と98年の金融経済環境は瓜(うり)二つなのである。例えば、投資適格級格付け「Baa」が付与されている米社債のクレジットスプレッドは、信用収縮か否かの分水嶺となってきた2%を超えて拡大を始めているが、98年にも同じように2%を超えて拡大していた。米エネルギー産業の資金調達に用いられることが多いマスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)もインデックスが1年前の高値から3割ほど値下がりし、現在は2011年以来の安値圏で推移している。

こうした信用リスク再評価に伴う投資家のリスク回避志向が、今回も米株急落や新興国市場の下落の底流にある。これが2015年に「98年の悪夢」の再来がないか警戒する必要があると筆者が主張してきた背景である。

<下落目処は112円までか、長期ドル高復帰の条件は>

さて、98年に市場の混乱を収束させたのは、その年の9月から11月にかけて行われた、緊急利下げを含むFRBの金融緩和と流動性供給だった。この金融緩和の間、上記の通り、ドル指数はその前の高値から1割ほど急落し、ドル円に至っては147円台から108円台まで40円近い暴落となった。

筆者は今回、ドル円の下落幅は125円台の高値から最大でも1割程度にとどまり、リスクシナリオとしても下値目途は112円台までと想定しているが、この数字は危機シナリオとしては、どちらかと言えば、控えめな部類に入るのかもしれない。

一方、98年当時、高値から2割ほど下落した米株は、FRBの金融緩和が始まった9月にはすでに底入れの兆しを強め、FRBがその局面で最後の利下げを実施した11月には急落前の高値水準へ値を戻していた。

その後、米株が改めて当時の史上最高値を更新して上昇を始めたことを確認してから、FRBは99年6月から金融引き締めに転じ、それがけん引役となって、ドル指数もLTCM危機前の水準を超えて上昇し、95年から続く長期ドル高トレンドに復帰した。

今回、FRBは予定していた金融引き締めペースを緩やかにする程度のことは考えられるが、98年のように一時的なものであっても、緩和措置を打ち出すことはなかろう。したがって、98年のFRBの緊急利下げに相当するような、市場安定化策は米国以外に期待するしかない。

もちろん、その中でも中国の景気・株価対策は重要であり、市場の評価はあまり高くないが、8月の人民元切り下げはそのためには必須の政策の1つだったと筆者は比較的ポジティブに評価している。それ以外には、当社が今年10月から来年1月のどこかで想定しているような日銀や欧州中銀(ECB)による追加緩和の有無も市場が安定化に向かうか否かの重要な分岐点となろう。

98年とは異なり、米国で大胆な緩和措置が期待できないということは、ドルの下落圧力は当時よりも小さくなる反面、米株の底入れは景気刺激策が発動される国にやや出遅れることになるかもしれない。

ただ、99年そうだったように、市場安定化に伴って、米株が改めて史上最高値の更新に転じてくると、いずれはFRBの金融引き締めが図られることになるはずだ。来春ぐらいではないかと想定しているが、こうしたことが現実に起こってくれば、ドル指数、ドル円がともに今回の高値を超えて上昇し、長期ドル高トレンドに復帰する可能性が高まることだろう。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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