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コラム:エリート層脅かす「パナマ文書」、流出は止まらず
2016年4月8日 / 00:37 / 2年前

コラム:エリート層脅かす「パナマ文書」、流出は止まらず

Peter Apps

 4月6日、一見する限り、「パナマ文書」の内容は知られていたことがほとんどのように思える。疑惑はすでに広がっていたからだ。写真は「われわれはパナマに口座を持っていない」と書かれたプラカードを掲げて、解雇に抗議する公務員。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで撮影(2016年 ロイター/Marcos Brindicci)

[6日 ロイター] - パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から約1100万点の機密文書が流出した。一見する限り、知られていたことがほとんどのように思える。少なくとも、疑惑はすでに広がっていたからだ。

多くの場合は全く合法とはいえ、2008年の金融危機以降、有力者や企業の脱税・所有隠しを可能とするタックスヘイブン(租税回避地)やダミー企業、他の金融手段の世界的ネットワークを指摘する情報や証拠が絶え間なく流れていた。

しかし、今回のいわゆる「パナマ文書」流出は史上最大であり、ほぼ間違いなくこれが最後ではあるまい。独裁国家、民主主義国家を問わず、世界で最も影響力のある人たちが富と力を築く一助となった不可解なネットワークは、徐々に明らかになりつつある。漸進的だが、もはや止めることは不可能だ。

透明性の問題は現在、より広範なエリート層に対する反発につながっている。今後は間違いなく、火に油を注ぐことになるだろう。米大統領選、高まる欧州の政治不安、中国やサウジアラビアの政界工作など、あらゆる国の政治プロセスにおいて起きる可能性がある。

その影響は広範囲に及ぶ可能性があり、しかも全てが楽観的とは決して言い難い。2011年に中東で起きた民主化運動「アラブの春」は、要するに、こうした傾向への怒りが原因の1つだった。「アラブの春」が結果として特にうまくいったわけではないが、米大統領選共和党候補指名争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏の台頭や、欧州での超保守的な政策を考えると、西側でもすでに、多くの人が心配するような政治的変化が起きていると言える。

しかしながら、強く望まれている政治やその他のシステム改革といった有益な結果をもたらす可能性もある。うまくいけば、ダボス会議に集まるような政財学界エリートたちの思い込みの一部を正し、それらを弱める一方、新たな血を取り入れられるはずだ。少なくとも、世界中の税制を見直し、個人や団体が義務を逃れられないようにする新たな原動力を生み出すに違いない。

2008年に起きた金融危機の傷跡が今なお残るアイスランドでは、パナマ文書が流出したことですでに首相が辞任に追い込まれた。だが他の国では、影響はもっと複雑になる恐れがある。

「パナマ文書」に記載があった主な著名人

「パナマ文書」に記載があった主な著名人

パナマ文書に記載されていた一部の例、とりわけロシアのプーチン大統領と、その友人の1人が運用する約20億ドル(約2163億円)の資産とのつながりに関するものは、多くの人が長い間信じてきたことに対する記録以外の何ものでもない。

その正否はさておき、政財界の多くはプーチン氏が世界で最も裕福な層の1人だと常に考えていた。同時に、資金の大半は同氏の権力を維持する利権構造の一部として直ちに他の懐に入れられるとも考えている。

パナマ文書で興味深い教訓はむしろ、その他多くの有力者がこうした手段を使っていた例にあると筆者は考える。これらにおいては、辞任や劇的な政変はあまり起きそうもない。

キャメロン英首相の亡父が租税回避地を合法的に利用していたことが同文書で明らかとなったが、キャメロン氏はこれを切り抜けるだろう。この問題よりも、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の方が同氏にとって脅威となる。同様に、文書に記載のあったアルゼンチン、ガーナ、エジプト、その他多くの国々の政界エリートたちも嵐を乗り切るだろう。

だからといって、パナマ文書流出の効果が全くないわけではない。

関与していた人たちの多くが明らかに依拠していたのは、「みんなでやれば怖くない」という論理である。世界中の政財界エリート層のあまりに多くが行っていたので、租税回避地や他の節税対策を使うことが悪いとは思わなかったのだ。

むしろこのことが、すでに顕在化しつつある、若干異なる経歴を持つ政治指導者の新世代が台頭するというトレンドを加速させると、筆者は思う。このような環境では、富やエリート教育、キャリアといったことは実際、助けになるというより邪魔になる可能性がある。

もっぱら富に執着する人の租税回避地使用は止められないかもしれないが、政治的権力も欲する人には抑止力となるだろう。

このようなトレンドはすでに英国の政界で見られる。66歳の社会主義者、ジェレミー・コービン氏は、比較的主流の候補3人を破り、野党労働党の党首の座に就いた。同氏の予想外の勝利は多くの点で、米大統領選の民主党候補指名を争うサンダース上院議員の台頭を予感させるものだった。

キャメロン首相率いる保守党政権は、近年の歴史において最も議席数の少ない政権の1つだ。首相を含む政権トップの何人かは名門イートン校出身で、多くが少なくとも数百万ポンドの銀行預金があり、コンサルティング会社や金融機関でのキャリアをもつ。最近まで、オズボーン財務相とロンドンのジョンソン市長がキャメロン氏に代わる最有力候補と目されていたが、2人とも同類である。

だがつい最近になって、それは変わりつつある。任命されて間もないスティーブン・クラブ雇用・年金相の名が、保守党党首候補としてささやかれ始めている。クラブ氏はウェールズの労働者階級出身で、公営住宅でシングルマザーに育てられた。

クラブ氏のような候補者はまだ米国政治システムに本格的に浸透していない。だが、それも時間の問題かもしれない。サンダース氏は最近の予備選で勝利を重ねているが、民主党候補の指名を得るには遅すぎたように見える。同氏と民主党候補指名を争うクリントン前国務長官とトランプ氏は、エリート層の主流であり続けている。

しかし反権力の流れに乗っても、それほど成果は期待できないだろう。たとえ次世代の政治家がパナマ文書で露呈したような道徳的に不快な取引に巻き込まれるのを回避できたとしても、そうしたシステム自体が是正されることはないだろう。ほぼどの国でも貧富の格差が拡大しているとはいえ、現在のグローバル化した金融・貿易制度は発展途上諸国の何億人もの人々を貧困から救い出すことに寄与している。

制度を完全に破壊することなく最悪の行為を更生させることは、決してたやすくはないだろう。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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