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コラム

コラム:FRB議長、ジャクソンホールで量的引き締め巡りヒント示すか

[オーランド(米フロリダ州) 12日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)によるバランスシート縮小計画は、ここ数カ月急激に進められている政策金利引き上げの陰に隠れる形で存在感がやや薄くなっている。だがカンザスシティー地区連銀が25─27日に開催する毎年恒例の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で、このバランスシート縮小問題が再び脚光を浴びるかもしれない。

 8月12日、米連邦準備理事会(FRB)によるバランスシート縮小計画は、ここ数カ月急激に進められている政策金利引き上げの陰に隠れる形で存在感がやや薄くなっている。米首都ワシントンで7月27日撮影(2022年 ロイター/Elizabeth Frantz)

FRBのパウエル議長は恐らく、ジャクソンホール会議で政策金利の経路について今よりずっと大きなヒントを市場には提供しないだろう。FRB自身が現時点で、経済や物価に関するはっきりした長期的な見通しを持っていないのもその理由の1つなのは言うまでもない。

現段階でも政策金利運営を巡るFRBの姿勢はかなり明白に思える。具体的には、政策金利がたとえ「引き締め的」とみなされる領域に入っても利上げを続け、物価上昇率と予想物価が目標の2%に収まる持続的な道筋が見えてくるまでそうした金利水準を維持するという方針だ。

しかしパウエル氏が、量的引き締め(QT)や9兆ドル(約1200兆円)規模に膨らんでいるバランスシートの圧縮に関して何か発言すれば、大いに注目されることになる。なぜなら投資家も政策担当者もこれまでのところ、積極的な利上げを伴う流動性吸い上げが市場に及ぼす影響をあまりに漠然としかイメージできていないという面もあるからだ。

QTの下で、FRBは米国債と住宅ローン担保証券(MBS)の保有を減らしていく。減額は6月に始まり、9月には毎月最大950億ドル規模に達する。このペースで続ければ、満期償還分の再投資抑制を通じて2024年末までにバランスシートはおよそ2兆2000億ドル縮小される。保有債券の売り切り(アウトライトセールス)はまだ予定されていない。

<分からない影響>

だからQTはなお全面的には稼働していないと言えるが、それでも今後どう展開していくか予想が難しい。FRBが前回のQTに動く前の2017年に当時のジャネット・イエレン議長が発した言葉を借りるなら、その過程はまるで「ペンキが乾くのを見守る」作業のようだという。

単純に言えば、FRBのバランスシートを2兆ドルも圧縮すると借り入れコストや金融環境、市場機能にどのような影響をもたらすかは誰にも分からない。

パウエル氏がそうした部分に不安を感じる投資家にQTを巡る透明性をもう少し高め、安心してもらう材料を与える場として、ジャクソンホール会議はこれ以上ないほどふさわしいだろう。

しかしパウエル氏はそうするつもりがあるだろうか。

以前にFRBの公開市場操作(オペ)部門でシニアトレーダーを務めていたジョセフ・ワン氏は懐疑的な見方をしている。

ワン氏は「FRBはQTを自動操縦モードで運営したがっている。パウエル氏からは既に、債券市場がQTに対処できるとの発言もあった。ただ市場の流動性は最近非常に乏しくなっており、QTが市場に織り込まれたとは思えない」と述べた。

パウエル氏は先月、2会合連続の75ベーシスポイント(bp)利上げに踏み切った後の会見で、債券市場は増える供給分を吸収できるとの自信を示している。

また銀行の準備金がそれ以上減れば円滑な市場機能が難しくなると考えられる水準まで下がるにはあと2年半はかかるとの見通しも明かした。

<乏しい市場の買い余力>

とはいえこうした想定には大きな疑問符が付いており、幾つか検討が必要な未知の要素もある。

例えば増加する供給分の買い手となるのは誰かという問題だ。マネー・マーケット・ファンド(MMF)は現金をFRBのリバースレポ・ファシリティーに滞留させている。ヘッジファンドは投資損失がじわじわと拡大し、積極的な買い意欲は乏しい。銀行やディーラーにもさらなる債券保有の余地は限られるように見える。

パウエル氏が果たしてこの面で自らの考えを提示する可能性はあるのか。あるいは過去20年余りで最も進んだ逆イールド(長短利回り逆転)がQTの計画の修正を促すのだろうか。

先月公表された2つのFRBの調査論文は、既に緊張状態にある米国債市場にとって、バランスシート圧縮はさまざまなマイナスの効果を与え、許容できないほどの金利高騰につながる恐れがあると警告している。

向こう3年でバランスシートが2兆2000億ドル減れば、74bpの利上げに相当すると計算されている。一方で年金基金や投資信託がFRBの保有していた債券を「肩代わり」する余裕も限定的なため、市場環境は「混乱の度が増す」可能性があるという。

いずれもFRB職員だったパイパー・サンドラーのロベルト・ペルリ氏とベンソン・ダーラム氏は、現在の米国債利回りの1日当たり変動幅は過去のリセッションや危機、ボラティリティーが異常に高い局面並みになっていると指摘する。

こうした環境が続けば、QTの期間が短縮されてもおかしくない。

両氏は9日、「QTが進めば進むほど、米国債市場の緊張度は高まる。QTが途切れる可能性があるとの観測が出てくれば、リスク資産と米国債双方の価格にとってプラスになるだろう」と記した。

パウエル氏や他のFRB高官は、QTが市場に与える影響を巡り、大西洋の向こう側にも目を向けるかもしれない。イングランド銀行(英中央銀行)はバランスシート縮小においてずっと先行し、保有債券の積極的な売却を始めようとしているためだ。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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