March 19, 2018 / 8:00 AM / 7 months ago

コラム:プーチン氏、次の目標は「ロシアのブランド化」

[19日 ロイター] - 4期目を目指していたロシアのプーチン大統領は、当然のごとく、18日投開票のロシア大統領「選挙」に勝利した。これにより、一段と権力を固めたプーチン氏は、拡張路線の外交政策を推し進め、エスカレートする西側との対立姿勢を維持するだろう。

 3月19日、プーチン大統領が自身の名声を高めるために最も重要な目標の1つは、今のところまだ気づかれていないようだ。それは、ソ連崩壊後のイデオロギーを形成することだ。写真はスピーチを行う同大統領。モスクワで18日撮影。提供写真(2018年 ロイター/Sputnik/Alexei Nikolsky/Kremlin via REUTERS)

だが、プーチン大統領が自身の名声を高めるために最も重要な目標の1つは、今のところまだ気づかれていないようだ。それは、ソ連崩壊後のイデオロギーを形成することだ。

1999年に政権の座に就いて以降、プーチン氏は現代ロシアを定義し、その代名詞となってきた。4期目を2024年に終えるまでに(2008─12年の首相職も含む)、プーチン氏は、スターリンを除いて誰よりも長く同国を支配する指導者となる。

2014年、当時のボロジン第1副長官は「プーチン氏あってのロシアだ。プーチン氏がいなければ、ロシアもない」と語っていた。

プーチン大統領は、西側とロシア国民からそう認められることを何よりも欲していた。広く、多様性に富むロシアだが、プーチン大統領と彼のイデオロギーの人質となってしまった。これは「アイデンティティーの危機」だ。

プーチン大統領の個人的な独裁支配よりも、大国としての地位と文明を切望する国としてロシアが必要としているのは、際立った世界観を反映したイデオロギーを掲げるミッションステートメントである。

プーチン大統領には、ロシアの停滞する経済の目くらましとしてだけでなく、西側の自由民主主義モデルの代わりを提供するものを遺すという「存在理由」が必要だ。プーチン大統領による最近の行動は、多くが衝動的であったように見える一方、側近の間では、国家哲学の萌芽(ほうが)がますます顕著となっている。

イデオロギーの形成は、軍事力や核戦力の誇示をためらわない、大衆に人気の独裁政権にとっては、大した関心事ではないかもしれない。しかしながら、現代国家としては今なお新しく、ソ連時代のマルクス・レーニン主義に基づく政策目標から最近ようやく抜け出たばかりの国にとって、自国のビジョンを定義することは重要かつ存在に関わる課題だ。また、壮大な世界的役割を求めてはいるが、民主的ガバナンスや国際外交の正当性という点で、西側の基準を受け入れたくない国にとって、自国のブランド化はさらに重要である。

では、ロシアの新しいイデオロギーの基盤は何だろうか。

政権初期のころ、プーチン氏はロシア国民に繁栄と安定を約束した。だが、ロシア経済は多角化に失敗し、天然資源輸出に対する依存を一段と強めている。汚職も慢性化した。そして何よりも、2014年に石油価格が下落し始めてからは、プーチン氏が約束した繁栄のメッセージはますます絵空事に聞こえるようになっている。

近年、いくつかの目立ったテーマがクレムリン(ロシア大統領府)から見え始めている。つまりそれは、主権、保守主義、正統性、そして大国の地位を求める救世主的な意欲だ。

主権は、1999年に北大西洋条約機構(NATO)がコソボに介入してからクレムリンの合言葉となった。国家主権に関してさらに注目すべきは、プーチン大統領が2013年に行った米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿だろう。その中で同氏は、シリアへの米国による一方的介入に対抗するため、国際法を行使することを主張した。

以来ロシアは、政府は限定的な主権を有するとする欧米の見解とは対照的に、国家は自国領土に対して全権を有するとする不可分の「国家主権」を強調している。プーチン大統領のこの寄稿によって、同年に行われた米当局の情報収集活動を暴露して訴追された中央情報局(CIA)元職員エドワード・スノーデン容疑者を亡命者として受け入れるというロシアの決断とともに、ロシアは、特に米国に対抗して世界で道徳的な手本となるべく動き出した。

確かに、出現したイデオロギーの大半は、反米、反西側、反自由主義、反グローバル化、反世界主義、反進歩主義のように、何かに賛同を示すのではなく、反対することによって定義づけられている。プーチン氏は演説の多くで、ロシアの哲学者イワン・イリイン氏の言葉を引用している。イリイン氏は1950年代に執筆したエッセーの中で、民主化や自由化や自由といった言葉は、ロシア文明の調和とユーラシア精神を破壊する道具だと警鐘を鳴らした。

また、ロシア正教が取り入れる社会保守主義、いわゆる「キリスト教的価値観」は、ロシアの新たなイデオロギーを構成するものだ。「多くの欧州・大西洋諸国は、キリスト教的価値観を含む自身のルーツから離れてしまった」と、プーチン氏は2014年に語っている。「これは劣化への道だ」と。

ロシア正教の信者は1億4200万人いる人口のわずか15─20%と推定され、無神論的なロシアの伝統を考えると、ロシア正教がロシアの国家アイデンティティーを形成する最も重要な要素の1つとして浮上していることは驚きだ。実際にこうしたことは、いわゆる「同性愛プロパガンダ」といった神への冒とくを禁止したり、家庭内暴力(DV)を非犯罪化したりする一連の国内法の成立をもたらしている。

大国の地位に対するロシアの欲望は、同国の救世主的なミッションと関係がある。それは、プーチン氏が設立した「ルースキー・ミール基金」という主要なコンセプトの上に成り立っている。同基金は、元ソ連構成国のジョージア、モルドバ、ウクライナなど、ロシア連邦以外に少なくとも3500万人いる特別な精神的コミュニティーを念頭に置いている。

クレムリンの構想では、こうしたロシアの同国人の目には、プーチン氏が、15世紀後半にモスクワ大公国の領地を3倍にしたイワン3世の伝統を受け継ぐ新しい「ロシアの土地を集める人」として映る。実際のところ、現代ロシアの外交政策と、かつての帝国の政策との類似点には目を見張るものがある。ルースキー・ミールは、ソ連やロシア帝政時代の領土拡大の野望に取って代わるものなのだ。

だが重要なのは、保守主義や西側の否定、自己権力の拡大といったこれら全く異なる要素が、首尾一貫した全体を形成することに失敗しているということを認識することだ。

イデオロギーはもっと複雑な現象であり、通常は経済理論など主要な要素を含む。プーチン大統領は代替的な世界理解を提供しようとしているのかもしれないが、クレムリンは西側の生活様式に取って代わる魅力的な代替案を提供できるか証明できていない。

向こう6年間で、プーチン政権は代わりとなる世界観を固め、体系化することに注力するだろう。国内の消費や輸出の増加に向けてロシアが提供したいと熱望する世界観である。クレムリンにとって、こうしたビジョンは、正統性と21世紀の愛国的なミッションステートメントを体現することになるだろう。

一方の西側は、プーチン政権を正当化するものとしてこうしたビジョンを受け入れるという罠(わな)にはまるのではなく、その空虚さに気づき、声高に訴えることが重要だ。

西側が冷戦に勝利したのは、理念や理想を巡る競争に勝ったからだ。政治的分断を深める米国と崩壊しつつある欧州のほころび始めた関係の課題を克服し、4期目に突入するプーチン氏が考え出すものよりも前向きなビジョンとミッションに忠実であり続けるなら、西側は再び勝利を収めるだろう。

*筆者は、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのシニアフェロー。著書に「The New Geopolitics of Natural Gas」、「Beyond Crimea: The New Russian Empire」がある。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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 3月19日、プーチン大統領(写真)が自身の名声を高めるために最も重要な目標の1つは、今のところまだ気づかれていないようだ。それは、ソ連崩壊後のイデオロギーを形成することだ。モスクワで18日代表撮影(2018年 ロイター)

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