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コラム:トランプ氏への「英国女王流」おもてなし
2017年2月4日 / 09:05 / 10ヶ月前

コラム:トランプ氏への「英国女王流」おもてなし

Peter Apps

 2月2日、英国のエリザベス女王(写真)は、たとえ我慢のならない相手であっても、外国首脳と会うときは常に非の打ち所のない振る舞いを見せる。ただし、厳しいメッセージを送る場合には、きつい1発をお見舞いすることで有名だ。英国東部で27日撮影(2017年 ロイター/Toby Melville)

[2日 ロイター] - 英国のエリザベス女王は、たとえ我慢のならない相手であっても、外国首脳と会うときは常に非の打ち所のない振る舞いを見せる。ただし、厳しいメッセージを送る場合には、きつい1発をお見舞いすることで有名だ。

元駐サウジアラビア英国大使のシェラード・カウパー・コールズ氏によれば、女王がかつてサウジアラビアの主要王族の一員を招き、王室の使用するランドローバーの前部座席に座らせ、王室領バルモラルをドライブしたことがあったという。

このとき女王は突然運転席に移り、スコットランドの風景のなか、存分に車を走らせ、皇太子を仰天させた。もちろん、サウジアラビアでは女性の運転が禁じられている。第2次世界大戦中に軍の技術者としての訓練を受けた女王は、そうした制約に対する自分の見解を行動で示したようである。

こうしたエピソードが世間で話題になることはめったにない。どのようなテーマであれ、王族との会話を公にしないのが英国の慣例だからだ。とはいえ、女王が礼節と様式について自分なりの考え方を持っていることは明白である。

さて、君主として世界最長の在任期間となる90歳のエリザベス女王は、これまでで最も始末に困る国賓の訪問を受けようとしている。トランプ米大統領だ。

トランプ大統領の訪英に向けた招待を撤回すべきだとまで主張する英国民も多い。イスラム教国7カ国とのつながりを持つ者の渡航を制限する米大統領令が出されて以来、さらにその声が高まっている。

トランプ氏の訪英阻止を求める請願はすでに150万人以上の署名を集めている。議会において、この問題に関する拘束力を伴わない討論を実施させるのに十分な数だ。昨年も似たような趣旨の反トランプ派の請願によって議会での討論が行われたが、政府がトランプ氏への招待を本当に撤回する見込みはほとんどない。

英国民投票における欧州連合(EU)離脱の選択を受け、まだ条件も定まらないブレグジットに向けて英国がヨロヨロと進むなかで、英国政府はこれまで以上に米政府との良好な関係を必要としている。具体的には、トランプ大統領にできるだけ満足してもらう必要がある。つまり、トランプ氏に「女王に歓迎されている」という印象を与える必要があるようだ。

具体的には、どういうことになるのか。女王自身を含むロイヤルファミリ―は、評判のよろしくない、あるいは少なくとも民主的な説明責任を果たしているかどうかも疑わしい、さまざまな国家指導者と顔を合わせてきた。多くの場合、それは、英国の経済的、外交的、地政学的な利益のためだった。それも王族に欠かせない務めなのだ、と多くの人が賛同するだろう。

英国は以前からずっと、米国との「特別な関係」にこだわり続けてきた。イラクやアフガニスタンへの軍事介入も含め、さまざまな行動の少なくとも一部は、そうした関係を維持する必要があるからという理由で正当化されてきた。

実際、米国と早期に貿易協定を締結し、米国の外交上の影響力を利用して他国にも同様の協定締結を促すという見通し(というより必須に近いが)は、「ブレグジット後」の悩める政権にとっては魅力的である。だが、これほど評価の別れる米国の指導者に傾倒しすぎることは、王室はさておき、メイ英首相にとっては、むしろ仇になる可能性がある。

外国の指導者、特に歴代の米国大統領は、女王や他の主要なロイヤルファミリーとの面会を強く求めるのが普通である。オバマ前大統領は昨年半ばに行われた最後の訪英の際、エリザベス女王の90歳の誕生祝いに出席し、女王のひ孫、つまりウィリアム王子の息子で王位継承者でもあるジョージ王子にもしっかりと面会している。

トランプ氏の熱意も、前任者に負けるとも劣らないようだ。「王室について報道されるたびにテレビにかじりついていた」とトランプ氏自身が評するスコットランド生まれの母親からの遺伝だろうか。

だが訪英に対するトランプ氏の期待を満たすことは難しいかもしれない。

たとえばサンデータイムス紙の報道によれば、トランプ氏はチャールズ皇太子との面会を望んでいないと明言しているという。恐らくこれは、同皇太子が環境問題・気候変動問題に強い関心を抱いていることが広く知られているからだろう。

 2月2日、英国のエリザベス女王は、たとえ我慢のならない相手であっても、外国首脳と会うときは常に非の打ち所のない振る舞いを見せる。ただし、厳しいメッセージを送る場合には、きつい1発をお見舞いすることで有名だ。写真はスコットランドでゴルフ練習するトランプ米大統領。 2011年6月撮影(2017年 ロイター/David Moir)

外国の指導者が、就任後のこれほど早い時期に、完全な国賓として招待される、つまり、実質的にはその折々の政権ではなく君主の主催する威風堂々たる歓待を受けることは珍しい。

オバマ氏もジョージ・W・ブッシュ氏も、大統領として3回目の訪英で初めて国賓としての待遇を受けた。最初の訪英時から正式な国賓としての扱いを受けた最も新しい例はロナルド・レーガン氏だが、このときは就任から約18カ月が経過していた。だがトランプ氏は、無作法なほど性急な形で、国賓待遇を受けようとしているようだ。

大統領の訪英がいつ実現するのか、まだ正確には分からない。メイ首相は、先週ワシントンにトランプ氏を訪れた際に招待状を渡したと話している(こうした招待状は、厳密には首相官邸からではなく、バッキンガム宮殿から送られるもので、恐らくこれは、政治的にどうしても有害であると判明した場合に、メイ首相がトランプ氏訪英から距離を置くための便利な口実になる)。

だがガーディアン紙によれば、これほど早期に国賓待遇での招待が行われた要因の多くは、首相官邸に由来しているという。米国の新大統領との良好な協力関係を確保したいという気持ちが尋常でないほど強いことがその一因である。そうした関係のなかには、もちろん、何らかの種類の貿易協定の締結が含まれており、トランプ氏もその実現を公言している。

ガーディアン紙の報道では、首相官邸は、英国政界におけるブレグジット支持派の派手な面々の幾人かがトランプ氏と独自の会見を早々に実現したことにも動揺したという。

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トランプ氏は、当選から数日も経たないうちに、ニューヨークで英国独立党のナイジェル・ファラージ前党首と会談した。ブレグジット運動を展開した元閣僚のマイケル・ゴーブ氏も、大統領就任式後まもなく独自の会見を実現した。どちらの人物もメイ首相との折り合いが特に良いわけではないと考えられており、メイ首相は明らかに、できるだけ早く自分もトランプ氏との関係を構築したいと考えている。

トランプ氏のように評価の別れる大統領が相手だと、関係の構築には複雑な政治的計算が伴う。もっぱら右派と目されるデイリーメール紙でさえ、トランプ氏の最も性差別的な発言のいくつかは言語道断だとみなしている。あるいは少なくとも、女性を中心とする同紙の読者がそうみなしていると考えているようだ。

メイ首相がワシントン訪問に向かう前、同紙は首相に対して、女性に対する軽蔑的なコメントについて釈明を求めるよう要望した(メイ首相はBBCに対し、トランプ氏のそうした女性蔑視の発言は受け入れがたいと話したが、ホワイトハウス訪問の際にメイ首相がこの点を話題にしたという裏付けはない)。

全般的には、メイ首相とトランプ氏との会談に対するメディアの反応は、ほぼメイ首相が期待した程度に好意的だった。会談は誠意のこもったものであり、英国側が「特別な関係」にどれだけ重きを置いたかを考えれば、概ねうまく行った。

2人の首脳がしっかり手を取り合っている写真は、人によっては少し親密すぎると見たようだが、大統領がスロープや階段、傾斜を気にしていたというのが一因であったと説明されている。どうやら彼には安心感が必要だったのだ。

恐らく英国の当局者にとってもっと気になるのは、これほど風変わりな米国大統領が、女王とのやり取りに何を期待しているのかという点である。ある英タブロイド紙によれば、英国の当局者は、トランプ氏が優先しているのは、自分の訪英がオバマ氏のときに比べて「より良い」ものであると感じられることだ、と考えているという。

トランプ氏の最大の希望が、女王が見守るなかで、バルモラルの王室領内でゴルフをする許可を得ることであっても不思議はない、と彼らは示唆している。

だが、トランプ氏は今回の訪英をあまり楽しめないはずだ。英国は貿易協定を必要としているかもしれないが、90歳の女王は、まだいくつかの手厳しい切り札を隠し持っている可能性がある。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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