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コラム

コラム:5分で分かる米国抜きの新TPP

[香港 14日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 新たな環太平洋連携協定(TPP)は、たとえ米国が参加しなくても、大きな合意だ。ドナルド・トランプ氏は、米大統領就任時から不参加を表明。世界最大の経済国である米国の不参加は、同協定全体としてのインパクトを著しく低下させる。

 11月14日、新たな環太平洋連携協定(TPP)は、たとえ米国が参加しなくても、大きな合意だ。写真は、ベトナムのダナンで開かれた記者会見で握手する茂木敏充経済再生担当相(右)とベトナムのアイン商工相。11日撮影(2017年 ロイター/Nguyen Huy Kham)

だが、今回大筋合意に至った日本やオーストラリア、カナダなど参加11カ国にとっては、有益な協定であることに変わりはなく、同協定は将来的に拡大する可能性も秘めている。

新TPPについて、これまでの経緯と今後の展望を以下にまとめた。

●TPPが今も続いているのはなぜか

政治、経済の両面で理由が存在する。グローバリゼーションの伝統的支持国が考えを大きく転換するなか、同協定は参加国が自由貿易に対するコミットメントを再確認するのに役立つ。

また、主に対米貿易黒字を削減する目的で2国間協定を推進するトランプ米政権に対して、TPP参加11カ国が、交渉上の立場を強める効果がある。

米国が抜けたことで、そのメリットは明らかに減るだろうが、それでも重要なことに変わりはない。参加各国はすでに、農業など強力なロビー団体と闘うなど国内改革の基盤を整えつつある。こうした改革による恩恵を得る可能性がある。最終的な合意にはまだ至っていないが、カナダや他の反対国を懐柔できれば、向こう数カ月以内に正式合意に至る可能性がある。

●どのように変わったか

それほどには変わっていない。だが新しい名称はさらにダサくなり、「包括的および先進的な環太平洋連携協定(CPTPP)」となった。米国を除く新協定では、アジアからはブルネイ、日本、マレーシア、シンガポール、ベトナムが、オセアニアからはオーストラリアとニュージーランドが、アメリカ大陸からはカナダ、チリ、メキシコ、ペルーが参加し、世界国内総生産(GDP)の約14%を占めることになる。

一部の項目はカナダなどの反対を受け、凍結された。その多くは知的財産の分野に関連している。アジア貿易センターは、著作権の保護期間が50年から70年に延長されなくなると指摘。その一方で、関税削減と、労働や環境といった分野における基準強化という2つの中核的な前提は生かされている。

●経済的メリットは何か

かなりのものだが、当初よりは大幅に低下した。ピーターソン研究所が10月に発表した推計では、いわゆる「TPP11」は2030年までに世界の実質所得を0.1%押し上げる。これは2015年のドル換算で1470億ドル(約16.7兆円)に相当する。一方、米国が参加する予定だった当初は4920億ドルの増加が見込まれていた。輸出の伸びは0.8%で、当初の3.1%からこちらも低下している。

●最大の勝者はどの国か

米国の最近隣諸国だ。加カルガリーにあるシンクタンク「カナダ・ウエスト・ファンデーション」による別の調査では、当初のTPPと比較すると、最大の利益受益国はアメリカ大陸の参加4カ国になると指摘。同4カ国は引き続き米国市場にアクセスできると同時に、米企業と利益を共有することなしに太平洋地域に参入することになるからだ。

逆に、米国市場で最も恩恵を受けていた日本とメキシコは、最も多くの利益を失う可能性がある。一方、ピーターソン研究所によると、TPP参加により、米国の実質所得は2030年までに年間1310億ドル増加する見通しだったが、不参加によって同20億ドルの減少に転じるという。ただしこれは、他での積極的な再交渉から得られる利益を考慮に入れていない。

●政治的には何を意味するか

パワーバランスの変化を予兆している。TPPを復活させるなかで、とりわけ日本やオーストラリアなどの政府は、多国間協定の策定において、これまで米国が担ってきた指導的役割を一部買って出ている。地域の通商・外交において、中国が米国の後を埋めるのが自然だと多くの国が思っていたなか、彼らは存在感を強めている。

だがこれは、中国に対する締め付けでは全くない。どのような協定も、中国が主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)のライバルというより、それを補完するものだ。RCEPにはより多くの国が参加しているが、参加国への要求は低い。デジタル経済や投資、サービスなどの分野におけるルールの規格化よりも、関税率を下げることに傾注している。

●TPPは今後どうなるか

さらに大きく、有益となる可能性がある。

TPPの魅力の一部は、閉鎖的なものではなく、誰もが参加に道が開かれているということだ。これまで関心を示しているインドネシアや韓国、フィリピンや台湾、タイが参加する可能性があると、ピーターソン研究所は指摘している。そうなった場合、「TPP16」は2030年までに世界の実質所得を4490億ドル増やすことになり、米国が参加した場合の増加分に近い規模となる。

2016年の米大統領選挙では共和、民主の両党がTPPに懐疑的であることが明らかとなったが、米国が心変わりをして、再び参加することを期待する向きもある。

例えば、オーストラリアは、米国にドアを開き続けることが重要だと強調している。米国が戻ってきた場合、同国の交渉担当者が推し進めた知財など凍結された一部の項目は復活する可能性がある。大規模な貿易協定らしく、さらに多くの駆け引きを、今後目にすることになるだろう。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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