May 2, 2019 / 12:18 AM / 21 days ago

コラム:守りから攻めに転換を、「令和」日本が背負った課題=鈴木明彦氏

[2日 東京] - 「平成」は「失われた〇年」などと悲観的にとらえられがちだが、量の拡大よりも質の向上によって成長する新しい経済モデルが広がった時代でもある。

 5月2日、「平成」は「失われた〇年」などと悲観的にとらえられがちだが、量の拡大よりも質の向上によって成長する新しい経済モデルが広がった時代でもあった。写真は1月、皇居での新年一般参賀(2019年 ロイター/Issei Kato)

100円の価値がある商品を100個販売していたとして、それを同じ値段のまま120個売るのは難しいが、商品価値を120円に高め、それを100個売ることはできる。「量より質」の成長モデルは少しずつ広がっており、「高付加価値化」というフレーズもよく耳にする。

人口減少時代を迎えた日本では、生産性向上が不可欠だと言われるが、依然として多くの日本企業が、作っても売れない需要不足の問題に直面している。生産性を高める前に、売れるものを作らなければならない。そのためには質の向上による競争力アップが不可欠だ。

一方、「令和」に残された課題がある。

利益水準が高いのに売り上げの伸びがいまひとつなのはなぜか。それは、120円の価値のものを作っても、それを100円で販売し、リストラやコスト削減というスリム化戦略で利益を確保しているからではないか。利益が好調なのに賃金が上がらないのは、賃金を抑えて利益を確保しているからだ。

実際、より品質の高い商品を開発しても、それに合わせて販売価格を引き上げるのは容易ではない。同じ価格で販売しているのであれば、販売数量が増えない限り、賃金を上げることは難しい。それでは景気が回復しても実感が伴わない。新しい成長モデルも道半ばのようだ。

<守りに徹した平成から転換を、令和の課題>

既存の製品を改良していくタイプの質の向上は、販売先も想定しやすく、研究開発や設備投資も大型にならない。大きなリスクを取ることに慎重な姿勢を崩さない企業にとっては好都合であった。しかし、そろそろ守りから攻めに転じる時ではないか。

確かに、巨額投資に踏み切っても、新しいものが思ったように開発できるとは限らない。開発できても、顧客のニーズをとらえたものかも分からない。それでも、そうしたリスクを取って必要な投資を行い、人材を集め、戦略分野を切り開くのが企業経営だ。画期的な新商品の開発や新技術の導入がなければ、価格に反映できるような質の向上はおぼつかない。

それは、働く人に厳しい環境をもたらすかもしれない。時代の要請に応えられる専門能力を自ら高めていかなければならないからだ。終身雇用の下、頑張っていれば会社が報いてくれる時代は終わった。労働者もグローバルな競争にさらされていると覚悟しなければならない。

米中貿易戦争で話題になった中国ハイテク業界の成長推進を目指す「中国製造2025」は、「製造から創造」、「製造の速さではなく品質で勝つ」といった基本方針を掲げ、「品質・ブランド力の強化」を重要戦略としている。中国との競争も質を巡る戦いだ。日本が、この課題から逃げて成長を続けることはできない。

「令和」の時代は働き方改革も本格化するが、これを単なる労働時間の短縮ととらえてしまうと企業のスリム化戦略を助長するだけに終わってしまう。

質の向上に対する貢献も含め、働いている人の業績をきちんと評価し、正当な対価を払っていくことが改革の鍵を握る。量の拡大による高度成長という成功体験が残る日本企業にとって、かなりハードルの高い課題となろう。

<デフレとの「20年戦争」終結を>

一方、「令和」の時代における政府の課題は「デフレ脱却」の旗を降ろすことだ。

日本では2000年前後から物価の下落が続くようになった。一時的に物価が上がっても日銀が掲げる2%の物価目標に届くことはまずない。政府は2001年春にデフレ宣言を出して以降、脱却を宣言することなく、20年戦争を続けている。

この間、金融政策は景気変動とは関係なく、ほぼ一貫して大規模な金融緩和を続けることを強いられた。日銀が大量の国債を購入することで政府は巨額の借金を抱えても財政赤字を続けることが可能になった。また、日銀による株の購入は株価を下支えしている。しかし、その一方で、民間の資金需要が高まるわけではなく、異常な低金利によって安定的な資産運用ができなくなった。

そもそも、消費者物価が2%上がれば経済が活性化するわけではない。質の向上を価格に転嫁することが課題だが、物価統計上、質の向上は価格の低下と認識されるべきものだ。

一方、企業がコスト削減に力を入れていれば、安価な材料を使うなど、質の劣化が起きている可能性がある。これは価格の上昇として把握されるべきものだが、実際には把握できないだろう。物価統計で示される以上にインフレが広がっている可能性を想定すべきだ。

「デフレ脱却」という旗印は絶対的なものであり、その下で財政・金融両面で大規模な緩和政策が続いている。しかし、こうした緩和政策が行き過ぎると、企業経営における緊張感を失わせ、査定が甘い安易な投資を増やすことになる。

異次元の緩和政策が続けば、物価が上がっていなくてもバブルは発生する。一方、小幅な物価下落が続いても日本経済が崩壊することはない。マイルドなデフレとの共存を容認して、20年戦争を終わらせるべきだ。

<「貿易戦国時代」を生きるには>

日本を取り巻く世界情勢は様変わりした。中国は大国としての存在感を確かなものにして、その台頭を快く思わない米国は米中貿易戦争に踏み切った。さらに困ったことに、米国は自らが提唱してきた「自由貿易」そのものを否定し、自らが中心になって作った世界貿易機関(WTO)の存在すら否定しかねない状況だ。

WTOの権威が失墜し、自由貿易のルールが守られなくなり、米国も中国も力を武器に2国間協定を広げる。日本を含めた他の国々は、どちらの陣営に入るのか「踏み絵」を踏まされている。ルールより力による貿易戦国時代となった。

外交・貿易政策における「令和」の課題は、米中という2つの大国と適度な距離感を保ったうえで、自由貿易の仲間を増やしていくことだ。

この点、「平成」時代の終盤に幸先の良いスタートを切った。

米国抜きで環太平洋連携協定(TPP)が発効し、懸案であった欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も続いた。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉は「令和」にずれ込んだが、今年中には合意に至りたい。中国との適度な距離感を保つためには、同国が掲げるシルクロード経済圏構想「一帯一路」に組み込まれるより、RCEPを合意に持っていくことが重要だ。

もっとも、自由貿易の旗手を自任するのであれば、それなりの覚悟が必要だ。

輸出は拡大したいが、農産物の輸入に関しては聖域を死守するという考え方は改めなければならない。その上で、自由貿易の仲間と連携して、WTOの存在感を取り戻して、大国の力ではなく、自由貿易のルールが尊重されるようにしなければならない。日本の果たすべき役割は大きい。

米国との2国間交渉では、為替条項、米国向け自動車輸出の自主規制、日本の農産物市場の開放が議題になりそうだ、いずれの交渉も厳しいものになることが予想されるが、最も注意すべきは、「中国封じ込め」の仲間に入れという米国の要求だ。すでに中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]の部品使用をやめるよう米国が要求し、日本は事実上それを受け入れている。

米国による安全保障の傘の下にいる日本が、要求を拒むことは難しい。しかし、日米安保条約が締結されてからすでに70年近くが経とうとしている。極端な話かもしれないが、トランプ米大統領が日本に駐留する米軍を撤退させると言い出すかもしれない。自国の安全保障に対する考え方も見直す時期を迎えているのではないだろうか。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

鈴木明彦氏 研究主幹 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切こと」(中央経済社)など。筆者のツイッターアカウントはこちら

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編集:下郡美紀

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