July 24, 2014 / 6:07 AM / 4 years ago

コラム:ロシア経済の「アキレス腱」に迫る西側制裁

[23日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領とオバマ米大統領が電話会談していた17日、ウクライナ東部でマレーシア航空機が撃墜された。それ以降、メディアはマレーシア機の悲劇を連日大きく取り上げているが、そもそもプーチン大統領を電話会談に急がせたのは何だったのかも忘れるべきではない。それは、経済制裁だ。

 7月23日、西側の対ロシア制裁の真の狙いは同国の弱い経済にあり、間違いなくロシアのアキレス腱を露呈させた。写真はロシアのプーチン大統領。ブラジリアで14日撮影(2014年 ロイター)

プーチン大統領のウクライナ介入に対し、米国は経済制裁を軸として圧力をかけてきた。制裁は主としてプーチン大統領の「取り巻き」と彼らの事業を対象にしているが、真の狙いはロシアの弱い経済にあり、間違いなくロシアのアキレス腱を露呈させた。マレーシア機撃墜を受けて対ロ圧力強化の機運は高まっており、プーチン大統領はますます追い込まれることになる。

オバマ政権は撃墜事件の前日、ウクライナ問題をめぐる新たな対ロシア制裁を不意打ち的に発表した。追加制裁では、主要銀行(ガスプロムバンクやロシア開発対外経済銀行)やエネルギー企業(ロスネフチやノバテク)のほか、防衛産業部門の企業も対象に加えられた。しかし、プーチン大統領が最も恐れる全産業的な制裁ではない。制裁によりロシアは原則的には国際金融システムから締め出され、大規模な技術移転も制限される。ロシアの主要な銀行とエネルギー企業は中長期の米ドル建て資金調達はできなくなるが、米国企業はその他の点ではロシア側との取引を禁じられていない。

基幹産業への制裁がどんな形になるかを示すだけでも、ロシア経済の計算を狂わせるには十分だ。オバマ大統領はしばしば、自身が引いた「越えてはならない一線(レッドライン)」を守らないと批判される。一方でウクライナ危機に関しては、ロシアに事態収束へのしかるべき行動を求める「グレーライン」を引いた格好だ。ただ、このグレーラインは、何をすれば越えたと判断されるかは誰も分からない。つまり、これらの新たな制裁は、ロシアで事業を行うことの不確実性とリスクを高めたことにほかならない。

制裁拡大に金融市場は即座に反応し、通貨ルーブルとモスクワ株式市場は急落した。また、追加制裁はロシア企業が置かれた状況を一段と厳しいものにした。ロシアの資源企業に対する協調融資は過去6カ月で80%以上も落ち込んでおり、ロシア国債の需要もウクライナ危機を受けて大幅に減った。今回の追加制裁は、悪い状況のロシア経済をさらに悪化させるものだ。

当然のように、ロシア側は制裁拡大に強い調子で反発している。ロスネフチのイーゴリ・セチン会長は制裁を「違法行為」だと糾弾し、リャブコフ外務次官は「報復措置」に出ると明言している。

しかし、プーチン大統領に反撃できる手段はあるだろうか。制裁は、ロシア経済が外からの圧力に特に脆弱(ぜいじゃく)になっている時に発動される。ロシア連邦予算は歳入の大幅減が見込まれており、財務省は増税の検討を余儀なくされている。

ロシアはまた、国の主要財源である石油収入への課税も変えようとしている。ただ、この「税制操作」は、多くの税金を払わなくてはならなくなる石油会社から強い反発を買っている。この先どう歳入を増やすべきかについて、ロシア政府内で意見の一致は見られない。

ロシア政府は巨額の準備通貨を保有しており、西側からの融資が干上がった場合、ロシア開発対外経済銀行やその他の国内企業を支援するとしている。とはいうものの、ロシアはすでに、クリミア再建を含むいくつもの巨大プロジェクトを抱えてもいる。

プーチン大統領は、欧州各国との対応では、しばしば分断戦略を使ってきた。欧州連合(EU)加盟国の一部が米国に同調した制裁強化にまだ二の足を踏んでいるため、今回も分断戦略を試すだろう。しかし、オバマ政権が制裁措置の拡大を発表したのと同じ日、EU首脳は、欧州投資銀行(EIB)と欧州復興開発銀行(EBRD)による対ロ新規融資を停止する意向を発表した。

EUはロシアの個人や企業に対する追加制裁の具体的内容を近く発表するとみられるが、ロシアが真剣に受け止めるまで、言葉には具体的な行動が伴わなくてはならない。

プーチン大統領はまた、BRICSの同志たち、ブラジル、インド、中国、南アフリカに共闘を呼びかけているが、このグループの関心は主として共通の経済問題にある。ウクライナ危機をめぐってBIRCSとして何かを声高に主張する理由は見当たらない。それどころか中国は3月、ロシアへの編入の是非を問うクリミアの住民投票を「無効」とする国連安保理決議案の採択を棄権した。

プーチン大統領は、「ユーラシア連合」からの支援も当てにできない。ロシアはウクライナがEUと自由貿易協定(FTA)を結ぶ動きに特に反発し、ウクライナからの輸入品に対する関税引き上げなどの対抗措置に出た。当初ロシアはユーラシア連合のカザフスタンとベラルーシにも関税同盟としての協調を呼びかけたが、両国から拒否され、単独での一方的行動を余儀なくされた。

ロシアのウリュカエフ経済発展相はすでに、西側の制裁強化はロシアの経済成長に悪影響を及ぼすであろうことを認めている。ロシアが最も恐れているのは、同国の銀行セクターを主な対象とした制裁拡大に米国が踏み切ることだ。

ウクライナ問題でプーチン大統領に方針転換を迫るには、制裁だけでは十分ではないかもしれず、マレーシア航空機の撃墜という悲劇でさえ残念ながら不十分だろう。だが、制裁は徐々ではあるが、ロシア経済に深刻なダメージを与えつつある。越えてはならないグレーラインが次はどこに設定されているかも分からない。ロシアのリスクプレミアムは上昇している。

*筆者はワシントンにあるシンクタンク、ウッドロー・ウィルソン・センターでケナン研究所の副所長を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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