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コラム

コラム:無人機とガスと制裁と、プーチン氏のウクライナ戦略

[ロンドン 9日 ロイター] - ロシアが先月、ウクライナとの国境沿いに軍隊や車両を移動した際にソーシャルメディアやロシアのテレビで流れた動画には、戦車の一部で砲塔の天蓋の作りがお粗末な様子が映っていた。戦闘が起こった時、トルコ製無人機や米国が供給するミサイルへの防御としては心もとない。

 12月9日、ロシアが先月、ウクライナとの国境沿いに軍隊や車両を移動した際にソーシャルメディアやロシアのテレビで流れた動画には、戦車の一部で砲塔の天蓋の作りがお粗末な様子が映っていた。写真は9日、モスクワ近郊ノボオガリョボの公邸で会議に出席するプーチン氏。代表撮影(2021年 ロイター)

だがロシア政府の軍事的行動は、少なくとも外交面ではすでに成果を上げている。今年の初めにロシア軍が同様の大規模動員を行った際、ロシアのプーチン大統領とバイデン米大統領はジュネーブで首脳会談を行った。今回もロシア軍の増強がウクライナ侵攻につながるのではないかという西側諸国の懸念が高まる中、両首脳は7日、2時間にわたりオンライン形式で会談した。

協議内容に関する両国政府のブリーフィングから、問題は軍事的対立の可能性だけではないことが明らかになった。米政府高官はこれまで、ロシアがウクライナに侵攻した場合には「すべての選択肢」を検討する方針を示していたが、バイデン氏は8日、米軍の派遣は検討していないと述べた。また、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているバルト諸国やポーランドなど他の同盟国と同様の相互防衛義務の対象ではないとも述べた。

米国が主に活用しようとしているのは軍事力ではなく、経済的・外交的な影響力だ。経済制裁のほか、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノードストリーム2」の封鎖をちらつかせている。ロシア政府はノードストリーム2によって欧州がロシア産天然ガスへの依存度を高めことを期待している。

今のところロシアと米国の両国に緊張の緩和を望んでいる兆しが読み取れる。しかしロシア軍が撤収するのか、それとも将来の衝突に備えて国境付近に装備を残すのかは不明だ。

足元の軍事的脅威を収めることで、ロシアは当面、欧米の制裁を回避することができるし、ドイツの新政権による最終的なノードストリーム2の承認に道が開かれ、年明けに欧州への天然ガス供給が始まる可能性もある。しかし、ロシア政府はウクライナの軍事的な復活への警戒を解いていない。ウクライナの領土を手に入れようとするのなら、早急に動く必要があると判断するかもしれない。

旧ソ連の係争地ナゴルノカラバフで昨年起こった軍事衝突で、アゼルバイジャンはトルコ製無人攻撃機を活用してアルメニアが配備した戦車を破壊した。ウクライナは今、そのトルコ製無人機に加え、米国製の対戦車ミサイル「ジャベリン」も使って上空から戦車を攻撃できるようになっている。

米国とその同盟国はウクライナ軍の訓練を行っており、モスクワの専門家の間には、いつの日かウクライナが、2014年にロシアに併合されたクリミア半島を取り戻そうという気持ちになるのではないかと指摘する声もある。

<ウクライナは蚊帳の外>

ロシア軍による総合的な領土獲得の取り組みがどのように展開するかを予測するのは難しい。すべての選択肢にリスクが伴う。ウクライナ情勢がどちらに転んでも、プーチン氏とその国内での威信に影響が及ぶ。戦争が成功すれば、国際的な制裁を受けたとしても、国内でプーチン氏の支持率は高まるかもしれない。しかし軍事的に失敗すればプーチン氏の権威は失墜しかねない。

ロシア政府はすでにいくつかの目標を達成しつつあるのではないか。今回の議論でウクライナはゼレンスキー大統領をはじめ指導者がほとんど蚊帳の外に置かれている。バイデン氏はプーチン氏との会談の前に複数の欧州諸国首脳と会談したが、ゼレンスキー氏とは協議せず、代わりにブリンケン米国務長官が会談した。

ロシア政府は、ウクライナ、フランス、ドイツ各国の首脳が参加した、「ノルマンディープロセス」と呼ばれるウクライナ問題の協議の進め方に以前から不満を表明していた。こうした問題は、むしろ米政府と直接解決したいというのが、7日のオンライン会談で発せられたメッセージの1つだった。

米国がNATO拡大の中止を明確に約束し、ウクライナ、グルジア、モルドバといった旧ソ連諸国のNATO加盟は阻むというプーチン氏の望みがかなうことはないだろう。ただ、いずれにせよ近い将来、これらの国がNATOに加盟する見込みはほとんどなさそうだ。しかし欧米諸国のウクライナへの軍事支援は続くだろう。7日に発表された米国の国防権限法案にはウクライナ軍支援への3億ドル(約340億円)の追加拠出が盛り込まれている。

これは、米国にとって何が重要な焦点になりつつあるかを示している。ロシアによるウクライナ攻撃と、中国による台湾攻撃の抑止だ。米国はいずれに関しても軍事的にどう行動するかについて、戦略的に曖昧な態度を取っている。これはロシアにとって目論見通りの展開だ。ロシア国内では親政府派のアナリストが、米国、中国、ロシアの3カ国が支配する世界に回帰するとの見通しを以前から掲げている。

<外交戦略で先手>

ロシアの軍事力の脅威は、同国がこの3カ国体制の一角を確保する上で重要な意味を持つ。ロシアの経済規模は米国や中国に比べてはるかに小さい。グリーンエネルギーの拡大により他国のロシア産天然ガス・石油への依存度が低下するにつれて、ロシアが隣国に軍事力を行使する能力や核兵器、サイバー攻撃能力や極超音速ミサイルの保有量の増加は、ますます重要度が高まるかもしれない。

経済的にも外交的にも、米国はロシア経済とロシアのエリート層にダメージを与えることができる。米国の国防権限法案では、米国の個人や企業による対ロシア債権の保有を禁止する措置や、ノードストリーム2に対する制裁措置の強化など、いくつかのより厳格な提案が削除されたが、こうした措置が再び導入される可能性もある。

最終的にノードストリーム2承認の是非を判断するのは、社会民主党のショルツ氏率いるドイツの新政権だ。

もし戦争になれば、西側諸国はこれまで以上に一致団結してロシアに立ち向かってくるだろう。こうしたリスクを冒すかどうかは、プーチン氏が得失をどう見極めるかにかかっている。

*ピーター・アップス氏は国際問題、グローバル化などを専門とする著述家で、非政府・中立のシンクタンク、プロジェクト・フォー・スタディ・オブ・トウェンティーファースト・センチュリー(PS21)の創設者。2006年の戦争地帯における自動車事故で負傷して以来、自身の身体障害などに関するブログも開設している。元ロイター記者で、現在もトムソン・ロイターと契約関係にある。

(本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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