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コラム:トランプ帝国主義が招くドル高と中国衰退=武者陵司氏
2017年3月12日 / 07:29 / 9ヶ月前

コラム:トランプ帝国主義が招くドル高と中国衰退=武者陵司氏

[東京 12日] - トランプ米政権の負の二大イメージと言えば、保護主義と孤立主義だろう。ただ、それらは人々の不満に訴えるドナルド・トランプ氏の選挙戦術が生んだノイズあるいは間違ったシグナルであり、今後急速に是正されていくと考える。

私は、トランプ政権の真髄を正しく表現するならば、「守り」ではなく「攻め」、「孤立」ではなく「対外関与の強化」だと見ている。誤解を恐れずに言えば、パクス・アメリカーナ(米国覇権による世界平和)の再構築を目指した新手の「帝国主義」とでも呼ぶべきものだろう。

そうした兆候はすでに安全保障分野において、はっきりと確認できる。「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」追求で内向きの対外不干渉主義が高まるかと思いきや、実際には「世界の警察官」としての言動が目立ち始めている。

1月28日には、イラクとシリアでの過激派組織「イスラム国」(IS)掃討計画に関する大統領覚書を公表した。これを読むと、ISとの戦いに参加する新たな連合パートナーの特定、あるいは対IS武力行使に関連して国際法の要件を超える米国の交戦規定や政策上の制約について修正の推奨などを計画に盛り込むとしており、積極的対外関与の色彩をむしろ強めている。3月9日には、シリア北部ラッカの奪還作戦に関連し、米軍が400人の増派を行うことも明らかにされた。

また、就任前は国内問題優先でアジア地域への関与を弱めるのではないかとの懸念があったが、実際は南シナ海問題などで中国との対立姿勢を強めており、トランプ大統領をはじめ米政権側からは日米同盟の意義を強調するメッセージが相次いでいる。北朝鮮問題についても、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、武力行使や政権転覆も選択肢として検討されているという。こうした動きの全てが、「トランプ政権下で米国の内向き志向が強まる」との事前予想を裏切りつつある。

理想主義的なオバマ政権下では、各国の協調で営まれる「世界共和国」的な概念が追求された。だが、いまやその真逆の「米国帝国主義」的な世界秩序の再構築が始まろうとしている。

<軍事と経済を同じ土俵で議論>

経済政策に目を移しても、帝国主義的な行動を確認できる。例えば、通商分野だ。環太平洋連携協定(TPP)からの米国離脱を「保護主義」と捉えるのは、物事の本質を読み誤っている。

帝国主義的発想に基づけば、価値観・経済力・軍事力で優位にあると自負している帝国の中枢が、その周縁の皆がハッピーになれる最大公約数をまとめようと自発的に動くはずがない。それぞれの相手から一番良い取引条件を引き出そうとするのは当然の行為だ。これを保護主義と呼びたければそう呼べばよいが、保護という言葉から連想される「守る」イメージではないことは明らかだ。

要するに、「攻め」であるからこそ、「同盟国は米国が再び先導役を務めることができると知る」(トランプ大統領、2月28日の議会演説)といった強気の言葉も出てくるのだろう。そして、その実現のためには、経済基盤の強化が不可欠であると認識しているがゆえに、他国に対して無理筋とも言える強硬姿勢を見せ始めているのだと思う。

とりわけ注目すべきは、側近が通商問題と安全保障問題をセットで語っていることだ。例えば、トランプ大統領が新設した米国家通商会議(NTC)の委員長を務めるピーター・ナバロ氏は、「なぜホワイトハウスは貿易赤字を懸念するのか」と題した米WSJへの寄稿で、貿易不均衡が経済成長を脅かし、米国の国家安全保障を危険にさらすとの持論を展開している。中国を暗に批判していることは明白だ。

なお、貿易不均衡是正にドル安が必要とのトランプ大統領の認識は、後述するように誤りだと考えるが、大事なことは、トランプ政権が軍事問題と経済問題を同じ土俵で議論していることだ。「白人労働者の不平不満を解消するために生まれてきた政権」と考えている人々は、早晩、そうした先入観の見直しを迫られることになるだろう。

<国境調整税は絵に描いた餅ではない>

間違った先入観と言えば、トランプ大統領が掲げる国境税や大型インフラ投資に対する批判も当てはまると思う。人気取りの大風呂敷といった類の否定的な論調をよく見聞きするが、本当にそうなのか。

確かに、トランプ大統領がもともと示唆していたような関税の枠組みでの一方的な引き上げは、戦後70年かけて作り上げてきた国際貿易システムを破壊してしまうので、唯我独尊の米国でもさすがに自国への打撃を考えて実行しないだろうが、共和党案にあるような法人税制改革の一環としての国境調整税導入は決して絵に描いた餅ではないはずだ。そして、その結果得られる追加的税収は、法人減税や大型インフラ投資の財源として使うことが可能だ。

この点、レーガン政権下の1982―84年に大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたマーティン・フェルドシュタイン氏(ハーバード大学教授)が米WSJで示した論考に私は賛成だ。

同氏は、貯蓄・投資差額と一致する貿易赤字が貯蓄・投資を変えない国境調整税導入によって減ることはないが、輸入価格上昇と輸出価格下落を相殺するドル高が起こり、それが米国の交易条件の改善(外国通貨の実質購買力の低下)をもたらし、その果実が大幅な税収増になると論じている。

具体的には、輸入に対して20%の国境調整税(輸出は免税)が導入されるとすれば、ドルは25%上昇し、今後10年間で1兆ドル超(毎年1200億ドル)の税収増が見込めるという。フェルドシュタイン氏は、この税収増を元手に共和党案の法人減税(現行の35%から20%への引き下げ)が可能になるとしているが、インフラ投資の原資に充てることもできるだろう。偶然かもしれないが、1兆ドルは、トランプ大統領が議会演説で言及した大型インフラ投資の額とも一致する。

むろん、こうした考え方は、通貨安で貿易不均衡是正を目指すとするトランプ大統領の公式見解とは相容れないように思える。ただし、トランプ大統領が問題視しているのは、不公平な取引によって米国の富が流出することであり、その手段(通貨の強弱)にはこだわっていないはずだ。通貨高でも経済基盤の強化が可能であれば、米国の対外購買力を高めるので、むしろ大歓迎だろう。

そもそも前回のコラムで述べた通り、米国経済は労働集約的な低付加価値品を他国から買い、独占的な高付加価値品やサービスを他国に売る(サイバー空間に張り巡らせたインフラから「口銭」を稼ぐなど)新たな経済構造に転換済みだ。つまり、ドル高によって、むしろ自国利益を極大化できる構造になっている。

実際、経常収支赤字はサービス収支と第1次所得収支の増加で急速に改善しており、貿易赤字が現在の水準で推移すれば、あと6年程度で経常黒字国に転換する可能性もある。ドル高が進行すれば、さらに早まるだろう。こうした「強いドル」政策のメリットにトランプ政権が気付くのも時間の問題ではないか。

ちなみに、理想主義の仮面を捨て、帝国主義の本性をむき出しにした米国によって、一番不利な立場に立たされるのはやはり中国だろう。通商問題では日本も名指しされているとはいえ、安全保障問題とセットで槍(やり)玉に挙げられているのは中国だ。資本主義へのフリーライドを止め、公平な市場経済・取引環境の整備を急がないと、トランプ政権によって追い詰められ、緩やかな経済衰退を余儀なくされていく可能性は高い。

武者リサーチ代表の武者陵司氏は、トランプ米政権の経済政策は「保護主義」ではなく、パクス・アメリカーナ(米国覇権による世界平和)の再構築を目指した新手の「帝国主義」とでも呼ぶべきものであり、米国は「守り」ではなくむしろ「攻め」に転じようとしていると指摘する。

*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、武者陵司氏の個人的見解に基づいています。

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