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コラム:株バブルの危険、日銀はETF購入再考を=河野龍太郎氏
2017年10月30日 / 07:29 / 17日前

コラム:株バブルの危険、日銀はETF購入再考を=河野龍太郎氏

[東京 30日] - 世界的に株高傾向が続いている。各国経済がポジティブ・ショックを相互にもたらすことで、世界経済の回復ペースが徐々に加速していることが背景の1つにある。輸出増加で国内経済が刺激され、それゆえ輸入が増えるため、今度は海外経済が刺激され、再び自国の輸出が増えるという、貿易を通じた乗数メカニズムがグローバルで観測される。

もう1つの株高の背景は、グローバルでインフレが安定しているため、緩和的な金融環境が続いていることだ。米欧の中央銀行が金融緩和の出口を模索していると言っても、そのペースは極めて緩慢で、堅調な実体経済に比べると、金融環境は相当に緩和的である。日本の株高も総選挙での与党勝利を受けたアベノミクス継続期待だけでなく、こうしたグローバルな株高環境が背景にあるとみられる。

ただ、2000年代以前であれば、景気拡大が長引くと、異なる展開がみられた。各国で労働需給が逼(ひっ)迫すると、賃金が上昇し、企業業績が抑制された。同時に企業は増加した雇用コストの価格への転嫁を模索し、インフレ上昇の加速で、政策金利と市場金利は上昇した。景気拡大局面が成熟化すると、実物経済、金融の両面から株価上昇を抑える力が働いていたのだ。

しかし、今では、景気拡大が長引いて完全雇用に達しても、労働分配率の低下によって、賃金上昇やインフレ上昇は遅れている。それゆえ、業績改善傾向と緩和的な金融環境が続くから、資産価格の著しい上昇が続く。

もちろん、一般には株高は良いことだ。ただ、構造的要因によって賃金やインフレが上がりにくいなかで、中央銀行が無理にインフレを押し上げようと緩和的な金融環境を続ければ、すでに割高な株価をさらに押し上げ、実体経済から乖(かい)離するだけではないのか。

実体経済からかい離した資産価格の急上昇は、最後には実体経済を巻き込む大きな調整をもたらすリスクがある。今回は、先進国の株バブルのリスクについて考える。

<割安な資本が割高な労働を代替>

鍵となるのは労働分配率の低下トレンドだ。労働分配率の低下が続いているから、日米独などで、経済が完全雇用に達しているにもかかわらず、賃金やインフレの上昇が遅れ、実物面では景気過熱が避けられている。そのため、企業業績の改善傾向と低金利も続き、株高が正当化されているようにみえる。

労働分配率が低下を続けている最大の理由は、イノベーションによって割高な労働が割安な資本に代替されていることだ。労働需給のひっ迫で割高になった労働が、割安なセルフレジやロボット、人工知能(AI)などに置き換えられる。イノベーションによって、経済全体のパイは確かに拡大しているが、付加価値の増大は知識資本や資本の出し手に向かい、平均的な労働者の所得は必ずしも増えていない。

所得が増えるのは、所得水準が高く消費性向の低いアイデアの出し手や高スキル労働者、あるいは情報通信技術(ICT)やAIのおかげで、もはや多大なコストを要する物的投資を行うことのない支出性向の低い企業だ。一方で、消費性向の高い一般労働者の所得は必ずしも増えない。このため、バランスの取れた支出の拡大は生じず、貯蓄超過となるため、好循環が続かない。ただ、株価が上昇するため、米国など家計の株式保有比率が高い国では、一時的な貯蓄率低下という経路で消費拡大が続く。

歴史上、イノベーションで生産性が上昇しているにもかかわらず、実質賃金が上がらないという状況は観測されない、との反論もあるだろう。確かに最終的には実質賃金は上昇する。だが、問題はそのラグである。大きな産業構造の変化が生じる場合、イノベーションによる生産性上昇が平均的な労働者の実質賃金の上昇につながるには、場合によっては、数十年の長い年月を要する。

例えば19世紀初頭に生じた産業革命では、当初、所得の増加は、アイデアや資本の出し手に集中していた。実質賃金の上昇が始まったのは、最も早い英国でも19世紀後半以降だ。農村の余剰労働が枯渇し、工業労働者が不足するまで、実質賃金の上昇と労働分配率の上昇は遅れた。

1980年代後半から1990年代前半にポスト工業社会、つまり知識社会への移行が始まった。我々は1990年代をIT革命、2010年代は第4次産業革命と呼ぶが、基本的には同じ流れが続いているのだろう。それらに伴う新たな産業の勃興で、再びアイデアや資本の出し手に所得が集中している。もちろん、最終的には、イノベーションによる生産性上昇の恩恵は広く社会全般に行き渡るのだろうが、産業革命の時代と同様、それには長い時間を要する。

労働分配率の低下をもたらしているのは、イノベーションだけではない。グローバリゼーションの進展や社会規範の変化も大きく影響している。例えば、グローバリゼーションの結果、電子計算機や情報通信機器が東アジアの新興国で割安に作られるようになったから、資本財が割安になり、労働力に容易に置き換えられるようになった。

また、企業業績の改善が続いても、経営者は資本市場からのプレッシャーによって、賃上げに躊躇(ちゅうちょ)するようになった。あるいは、社会規範が大きく変わり、非正規雇用の比率を高めることで、生産の変動に合わせて労働投入をただちに増減させるようになった。いずれにせよ、イノベーションとグローバリゼーション、社会規範の変化は分かち難く結び付き、労働分配率を低下させている。

<景気過熱の兆候を見逃すリスク>

もちろん、イノベーションによって労働分配率が低下し、資本の取り分が増えたのなら、それを反映して株価は上昇するはずであり、バブルとは言えない。労働分配率の低下が低インフレを通じ低金利をもたらしているのなら、そのことも株価を上昇させる。それもバブルとは言えない。

ここで問題となるのは、インフレ率が上がりづらい経済構造のなかで、中央銀行が無理にインフレを上げようと、経済が好調なのに、極端な金融緩和を続け、株価がさらに押し上げられることである。確かに、経済にスラック(余剰)が残存しているのなら、インフレ率が低い限りにおいて、アグレッシブな金融緩和は容認され得る。失業の経済的、社会的なコストは大きいから、そのコストを放置すべきではないと多くの人が考えるだろう。

しかし、経済がすでに完全雇用にあるのに、インフレ率が低いことを理由に金融緩和を続けると、実物経済の過熱ではなく、金融不均衡の蓄積、つまりバブル醸成のリスクをもたらす。特に循環的な景気拡大が長期化しているにもかかわらず、好業績、低インフレ、そして金融緩和が今後も相当期間続くという期待が広がれば、資産価格は急激に上昇する。

構造的にインフレは容易には上がらず、それゆえに緩和的な金融環境は容易には修正されないというストーリーが人々の期待にビルトインされ始めれば危険だ(現在は、出口に向かう際も緩和環境の継続を強調することが、各国中央銀行のファッションとなっている)。とりわけ、イノベーションが変化の起点にあるため、株高は正当化されやすい。

ただ、歴史的に見れば、イノベーションが革新的であるほど、バブルを伴いやすい。経済学の教科書は、実体を伴わない株高がバブルだと教えてきたが、現実には実体的な変化を伴っているものの実体以上に大きく買い上げられるからバブルとなる。当然、大量のマネーが流れ込むが、流れ込む先が実物経済ではなく、資産市場であるため、物価だけを見ていると、景気過熱の兆候を見逃す。

今回、各国で目立ったレバレッジの拡大が観測されないから、2000年代初頭のITバブルのように、シンプルな株式バブルとその崩壊で終わるのかもしれない。とはいえ、ユーフォリア(陶酔感)が続けば、過大な支出が行われるため、貯蓄率の上昇という形で、実物経済においても深刻な調整が生じる。当然だが、株高が続き、実体経済からのかい離が大きくなるほど、その調整圧力は大きくなる。

<ETF購入政策のメリットは大きく低下>

さて、日銀が現在進めているのは、いわゆる「高圧経済」戦略である。完全雇用でも金融緩和を継続することで、労働需給をさらにひっ迫させ、省力化投資やビジネスプロセス見直しを促し、生産性上昇をサポートする。短期的には、賃金が多少上昇しても、労働生産性の上昇によって吸収され、物価はすぐには上昇しない可能性がある。

だが、労働生産性の上昇がいずれは実質賃金や潜在成長率、自然利子率の上昇につながるはずであり、現在の金融緩和を粘り強く続ければ、いずれはインフレ率の上昇につながると日銀は説明する。また、労働分配率の低下についても、日本で生じているのは循環的な低下であって、欧米のようにトレンドとして低下しているわけではないと主張している。

筆者自身は、前述した通り、労働分配率の低下はイノベーションやグローバリゼーション、社会規範の変化など、世界的な現象であって、今後、日本でも循環的とは言えない領域まで低下してくると考えている。日銀の想定以上に、賃金上昇やインフレ上昇が遅れる可能性が高いのではないか。そして生産性が上昇するとしても、必ずしも実質賃金の上昇にはつながらない可能性がある。

ただ、「高圧経済戦略」については、理解できる点もある。日本で金融政策の有効性が大きく低下したのは、自然利子率が大幅に低下したためだった。金融政策の有効性を増すには、自然利子率を回復させなければならない。本来、自然利子率の向上は政府の構造政策の役割である。政府の規制改革によって、民間の資本収益性が改善し、自然利子率が上昇するというのが本来あるべき姿だ。中央銀行自らが自然利子率の改善に踏み出すのは異例だが、自然利子率の回復という目的そのものは適切である。

また、金融緩和継続の必要性についても、インフレが著しく低いため、水準を切り上げる必要があるという主張も分からないわけではない。将来の不況に備えて糊代(のりしろ)を確保するには、自然利子率を引き上げることと、一定程度のプラスのインフレを確保するしかないということである。

とはいえ、金融緩和を続けるとしても、すでに完全雇用にあるのだから、コストの大きい政策については、ある程度の修正が必要ではないか。とりわけ、上場投資信託(ETF)の購入については再考を要する。

そもそもリスクプレミアムを低減させるため株式市場に介入するというのは中央銀行としては極めて異例だ。規模についても、2013年4月の導入当初の年1兆円程度から、現在は年6兆円程度まで拡大している。昨年7月に倍増した際、「英国の欧州連合(EU)離脱問題や新興国経済の減速を背景に、海外経済の不透明感が高まり、国際金融市場では不安定な動きが続いている」ことを理由としていたが、すでにそうした国際経済上の懸念は解消されている。

株価の形成メカニズムに悪影響を与えていること、国債と異なり満期がないため、バランスシートから外す際には、能動的に売却しなければならないことなど、政策のコストは大きい。一方で、株高が続いているため、リスクプレミアムを低下させる政策のメリットは大きく低下している。

株価が16連騰した状況において、リスクプレミアムを低減させるための政策を続けることに、政策当局は違和感を持たないのだろうか。ETF購入の減額が政治的に難しいのなら、年6兆円の購入枠を維持したまま、景気拡大局面では実際の購入額を減額し、未購入額を不況期まで繰り延べることも考えられる。

マクロ安定化政策の主眼はマクロ経済の変動を平準化することであって、バブルの醸成を助長し、経済を不安定化させていたのでは本末転倒だ。バブル再発防止はマクロプルーデンス政策で対応すればよいのであって、金融政策はあくまで物価安定に割り当て、インフレが低過ぎる以上、完全雇用であっても総需要の刺激を追求するというのは、果たして適切な考えと言えるだろうか。

インフレ率が低く自然利子率も低い以上、低金利政策を継続せざるを得ないが、せめてメリットが低下しコストが大きくなっている政策については、再検討すべきである。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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