March 7, 2018 / 2:07 AM / 3 months ago

コラム:株バブル最終局面か、もう1つの逆回転メカニズム=河野龍太郎氏

[東京 7日] - 米国経済に関する筆者の仮説は、もはやバブルを醸成することでしか、完全雇用に達することはできない、というものである。過去20年、米国が完全雇用に至ったのは、2000年のITバブル期と2005―07年の住宅クレジットバブル期だけで、今回も同様というのが筆者の持論だ。

労働節約的なイノベーションやグローバリゼーションの進展によって、資本やアイデアの出し手、経営者に所得増加が集中、彼らの支出性向は平均的な労働者に比べて低いため、投資と貯蓄を均衡させる自然利子率が大きく低下した。その結果、米国経済も長期停滞に陥り、日本のように大幅な財政赤字を継続するか、ドイツのような大幅な経常黒字を継続するか、そうでなければバブルを作ることでしか完全雇用に達することができないのである。

この時、問題となるのは、資産効果によって実体経済が過熱する場合や、追加財政が打たれる場合、賃金上昇やインフレ上昇への懸念から、長期金利が上昇し、それが資産バブル崩壊の引き金を引くことだ。

2月初旬からみられる世界的な株価動揺がバブル崩壊の始まりだと判断するのは時期尚早だが、バブルの最終局面が始まった可能性はある。今後、仮に株価が落ち着きを取り戻すと、今度は資産効果で実体経済が過熱してくるため、株高を可能としていた低インフレや低金利はいずれ維持できなくなる。これまで株価や不動産価格が速いペースで上昇を続けていたのは、実体経済が好調だったからではなく、むしろ長期停滞によって精彩を欠き、十分な投資機会が存在しなかったためだ。

さて、ここまでの議論は、労働節約的なイノベーションなどによって、所得増加が一部の経済主体に集中するという先進各国が抱える国内不均衡に焦点を当てたものだったが、もう1つ無視し得ない不均衡が存在する。それはグローバルインバランスの問題だ。

2000年代は、経常黒字国の資本輸出が低金利環境をもたらし、それが経常赤字国におけるバブルの醸成につながった。当時ほど米国の経常赤字は大きいわけではないが、シェール革命の影響で覆い隠されている部分もあり、基本的には今も経常黒字国の過剰貯蓄と経常赤字国である米国の過少貯蓄の問題は解消されていない。

2010年代もグローバルインバランスがバブル膨張を助長する要因となっているのではないか。また、特定の資産価格を押し上げるメカニズムが作動していないか。それが今回の論点である。

<住宅クレジットバブルの教訓>

2005―07年の住宅クレジットバブルの醸成メカニズムについては、すでに多くのアカデミックな研究が行われている。まずグローバルなメカニズムとして、アジア通貨危機後、資本輸出国に転じたアジアの国々のトリプルA資産に対する需要が相当に強まった。その結果、トリプルA資産の利回りが大幅に低下、資産間で裁定が働き、リスク資産価格の大幅な上昇が始まった。

2005年2月、政策金利を継続的に引き上げても長期金利が一向に上昇しないことに対して、当時米連邦準備理事会(FRB)議長だったグリーンスパン氏は「コナンドラム(謎)」と呼んだが、アジアを中心とする経常黒字国の資本輸出が米国の長期金利を押さえ込んでいた。日本や中国を含めアジア諸国の過剰貯蓄の輸出は今も変わっていない(だとすると、今回も米国の利上げそのものは、長期金利にあまり大きく影響しないのかもしれない)。

では当時、なぜ経常黒字国の過剰貯蓄の輸出が米国の住宅クレジットバブルにつながったのか。資本輸出国の投資家の購入で米国債をはじめとするトリプルA資産が品薄になったからと言って、米国の大手銀行が低格付けの金融資産を大量に購入したわけではない。

ただ、当時は金融規制の不備で、大きなレギュラトリー・アービトラージ(規制回避の裁定行動)の機会が存在した。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスーパーシニア(最上級格付け部分)については、利回りが高いにもかかわらず、規制上は無リスクとされたため、銀行業からのニーズが爆発的に高まった。高利回りということは、市場は多少リスクを認識していたわけだが、規制上リスクがないとされたため、需要はさらにかさ上げされ、それに応えて、劣悪なサブプライムローンが粗製乱造された。

当時、多くの人は不動産バブルが生じたから、その過程で劣悪なサブプライムローンが生み出されたと考えた。だが実態は、ドルベースのトリプルA資産に対する内外の需要が強い中で、規制による歪みによって、CDSのスーパーシニアに対する需要が助長され、そのニーズを満たすために、大量のサブプライムローンが家計向けに実行され、その資金流入によって不動産バブルが生じたのだ。現にサブプライムローンの対象だった低所得の居住者が多い地域ほど住宅価格が著しく上昇していた。

今回は、どのようなメカニズムが働いているか。資本輸出国のドルベースのトリプルA資産に対する需要が強いことは当時と同じである。それゆえ、米国の長期金利が上昇したと言っても、相変わらず低いままだ。2005―07年と同様、資産間で裁定が働き、過剰貯蓄国の資本輸出がドル建てのリスク資産価格を押し上げる方向に働いているのは間違いないだろう。

では、特定のリスク資産価格の上昇に大きく影響するようなメカニズムは考えられるだろうか。今回は、銀行業に対するリスク規制が大幅に強化されているため、レギュラトリー・アービトラージによる歪みが発生しているとは、少なくとも現段階では判断されない。

だが、懸念材料がないわけではない。それは、トリプルA資産の利回り低下に伴い、サーチ・フォー・イールド(利回り追求)の動きが広がり、クレジットスプレッドが極端にタイト化している点である。資本輸出国からのトリプルA資産への需要の高まりがもたらすドル建て資産間での玉突きだけでなく、海外投資家自らもわずかでも高い利回りを獲得すべく、これまで以上にクレジットスプレッドを狙った投資が増えている。この結果、社債発行が強く促され、相当に低い資本コストで大手企業は資金を調達している。

むろん、低利で資金調達が可能になったからと言って、魅力的な投資機会が生まれるわけではない。企業は資金を自社株買いに振り向け、それが株高をもたらしているということだ。また、限界的な動きだと思われるが、デジタル革命で勃興したニューモノポリー(新たな寡占的)企業に積み上がった過剰な貯蓄も社債ファンドなどに振り向けられているというエピソードも聞かれる。それが、「社債需要増、社債発行増、調達資金による自社株買い増」という流れで、株高を助長している可能性はないだろうか。

<強まるファンドバブル的色彩>

ここまでの話をまとめると、今回はサーチ・フォー・イールドによる投資需要が社債の大量発行を助長し、その派生として株高が生じているということである。

企業が社債発行によって過大な債務を抱えている可能性はあるが、実物的な過剰ストックが発生しているわけではないため、株高が崩れても、事態はそれ程深刻ではないと言えるかもしれない(単に社債権者から株式保有者に所得が移転)。また、株価の調整が生じた場合、株式保有者が、その価値の毀損によって、損失を被るだけである。

とはいえ、バブルに特有のポジティブフィードバック・メカニズムが強く働いているとすれば、株価の調整とともに、クレジットスプレッドの大きなワイドニングが生じ、そのことが実体経済に悪影響をもたらす可能性がある。資本調達コストが上昇することで、企業や家計の支出が大きく抑制され、それが景気減速の引き金となる可能性は排除できない。

今回は、家計部門の借入はあまり増えていないとはいえ、貯蓄率の低下を通じ消費回復が支えられてきたことを考えると、株価下落やクレジットスプレッドのワイドニングは、貯蓄率上昇を通じ個人消費に悪影響をもたらす。極端に縮小したクレジットスプレッドが正常化し、住宅金利やオートローン金利はリスクに見合った水準まで上昇するはずである。

また、派生的とは思われるが、クレジットブームが続く中で、2005―07年当時と同様、格付けが必ずしも高くはない投機資金の調達にも行き過ぎがみられる。レバレッジドバイアウト(LBO)ファンドやプライベートエクイティ(PE)ファンドに大量の資金が流れ込み、買収の対象となる企業の価値が相当にかさ上げされていないだろうか。ファンドバブル的な色彩が強まっているというのが、最近の英ロンドン出張での筆者の印象である。

<より大きなバブル醸成の可能性も>

念のため付け加えれば、こうした動きはあくまでファンド中心であって、銀行業のバランスシートが悪化しているわけではないため、ブームが崩壊しても、金融システムの動揺には至らず、それほど深刻な景気後退には陥らないというのが筆者の現時点での認識だ。もちろん、筆者が実態を十分把握していないだけの可能性もある。

例えば、世界中で金余りが続く中、実物投資のための貸出案件を見いだすことができない金融業が各国に多数存在する。十分に分散してファンドへの投資を進めていると思われるものの、仮にバブルなら分散しても、崩壊時にはリスク回避とはなり得ない点には注意が必要だ。

実物経済において大きな過剰が発生していないとすれば、今後、株価の大幅な調整が訪れても不況は何とか回避され、1987年10月のブラックマンデー型にとどまると考える人も少なくないだろう。

当時、1987年8月に就任したばかりのグリーンスパンFRB議長は9月に利上げを実施するが、ドイツ連銀の利上げや日銀の利上げ観測など政策の不協和音を嫌気し、株価は急落。実体経済への悪影響を避けるべく、FRBは利上げを一時的に棚上げし、大量の資金供給を行って、1988年2月までフェデラルファンド(FF)レートの低め誘導を行った。そうした対応もあって、事後的に見ると、事なきを得、実体経済の落ち着きを確認した後、3月からFFレートの高め誘導を再開した。パウエル新FRB議長は同様の試練に直面するのだろうか。

現在、米国では社債の発行増などで企業部門の借り入れが膨らんでいるとはいえ、家計部門の債務はそれほど膨らんでいるわけではない。景気全体もさほど過熱しているわけでないため、経常赤字も大幅には悪化していない。それゆえ、筆者もブラックマンデー型をたどる可能性は排除しない。FRBをはじめとする各国中銀が資産価格への強い配慮から、超低金利政策を続ければ、それを好感した金融市場でさらに大きなバブルが醸成される可能性もある。

ただ、1987年当時は、米国の景気拡大が始まってまだ5年弱しか経過していなかった。今回はすでに9年目に入り、景気拡大はかなり成熟しているため、ショックに対する耐性が当時ほど強いとは思われない。

また、そもそも極めて重要な点だが、我々はすでにリーマン・ショック後の日米欧のアグレッシブな金融緩和によって資源国・新興国バブルを醸成している。バブルは2014年末に崩壊し、その影響もあって、FRBの金融正常化は大きく遅れ、その間、欧州中銀(ECB)や日銀は追加緩和を余儀なくされた。それが実体経済から大幅に乖離した世界的な株高をもたらしたとも言える。今回の株式市場の動揺に対応し、各国中銀が金融正常化を遅らせることでバブル崩壊が一時的に回避できても、永久に続くバブルは存在しない。

なお、長期停滞にあるはずの日本経済が現在、完全雇用にあるのは、持続不可能な大幅なプライマリー赤字を抱えていることと、大幅な経常黒字を抱えていることが背景にある。そして、大幅な経常黒字が可能となっているのは、米国経済が好調なためである。仮に資産価格の下落で、米国経済が変調を来たせば(あるいは米利上げ中断によってドル安が進めば)、大幅な円高も加わり、大幅な経常黒字の継続が困難になり、日本は完全雇用を維持できなくなる。米国経済が失速すれば、日本経済も失速する。もちろん、より大幅なプライマリー赤字を作れば、理屈上は完全雇用が可能だが、これ以上大きなプライマリー赤字は持続可能とは言えない。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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