June 9, 2020 / 11:14 PM / a month ago

コラム:リスクオンでドル安・円高、その構造は何か=佐々木融氏

[東京 10日] - 8日の欧米市場では、米ナスダック総合指数.IXICが最高値を更新するなど、リスクオン相場が続いているとみられる中で、ドル/円JPY=EBS相場が比較的大きく下落した。実はリスクオンの環境でドル/円相場が下落するのは最近では珍しい現象ではなく、5月下旬にも26日など何度か見られた現象だ。

 8日の欧米市場では、米ナスダック総合指数<.IXIC>が最高値を更新するなど、リスクオン相場が続いているとみられる中で、ドル/円相場が比較的大きく下落した。佐々木氏の見解。(2020年 ロイター/Shohei Miyano)

ただ、これら過去数回は、米ドルも円もともに弱く、米ドルの方が円よりも弱かったからドル/円相場が小幅に下落するというパターンだった。しかし、8日は米ドルが最弱通貨となる一方、円が最強通貨となったことでドル/円相場の下落が特に大きくなった。

5月下旬以降、リスクオン下で米ドルの方が円よりも弱くなることが頻繁に起きる背景には、現在、米ドルが名目実効レートベースで比較的急速な下落トレンドを続けていることが背景にある。

米ドル名目実効レートは、今年3月4日から23日までの約3週間で8%も急騰した。新型コロナウイルスの感染拡大が欧米にまで拡大し、市場がリスク回避志向を急速に強めたことから、米ドルに資金が急速に回帰した。これだけの短期間で米ドルが同程度急騰したことは、データが遡れる1994年以降、GFC(リーマンショック)直後の2008年10月の1度しかない。

その後、米ドル名目実効レートは4月から5月半ばまではいったん小動きとなったが、5月半ば以降の米株価急上昇の中で、急速に反落を始めた。5月15日から6月8日までの3週間強で3.7%下落しているが、この短期間でこのペースでの下落となったのは、2011年10月以来である。GFC直後のドル急騰の後のドル反落時は4.5%と今回よりもドルの下落が急速だったが、概ね同じような動きであったと言えるであろう。

このように、今は名目実効レートベースで見た米ドル急騰の後の急落局面であるため、リスクオン下で米ドルの方が円より弱くなり、ドル/円相場が下落するという現象が比較的多く起きていると考えられる。

<円高の裏に日本企業の資金還流>

さらに、8日のようにリスクオンの環境下でも、円が強くなった背景には日本企業による国内への資金回帰が影響している可能性も考えられる。つまり日米間の経常収支の違いが現れていると言えるかもしれない。

前週末までの3週間、円は毎週連続で主要通貨の中で最弱通貨となった。前述の通り、米ドルも弱かったが、3週間を通じると円の方が米ドルよりも2%ほど弱かった。だから、ドル/円相場は3月26日以来となる109円台後半まで上昇した。この間の円売りには、日本の個人投資家による外国株買いの動きも寄与していた可能性がある。

5月の対外証券投資データは、個人投資家が外国株に1兆円以上投資したことを示唆している。その結果、円が米ドルよりも2%ほど弱い通貨となった可能性がある。

こうしたフローに沿って海外投資家が円売りポジションを積み上げ、それが手仕舞われたことも8日の円上昇に寄与したかもしれない。

また、以前とは異なり、新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の大きな落ち込み、先行き不透明感から、対外証券・直接投資のフローが継続的に続かなくなると同時に、手元流動性確保のために、日本企業が対外直接投資収益を国内に送金する動きが強まっている可能性もある。

日本だけでなく、世界中の金利が低くなっている今、本当の好況時や、リスクテイク志向が強い時とは異なり、経常黒字を海外に還流させるメカニズムが機能しなくなっていることも考えられる。

日本と米国は、それぞれ経常黒字国と経常赤字国という真逆に位置する存在だ。株式市場の活況はあるものの、根本的に先行きに対する不安が強い状況で、かつ両国の金利差が極端に縮小しているような現状では、ドル/円相場がこれまでとは異なった動き方をする可能性は十分あり、注目していく必要があるだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

佐々木融氏

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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編集:田巻一彦

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