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コラム:インバウンド解禁が円安転換の起爆剤に、足かせは入国規制=佐々木融氏

[東京 27日] - 筆者は先週1週間、ニューヨークに出張し、現地の投資家とミーティングを行った。覚悟はしていたがドル建ての物価がかなり上昇していることと、歴史的な円安により、円建てに換算した物価はかなり高い。

 5月27日、 筆者は先週1週間、ニューヨークに出張し、現地の投資家とミーティングを行った。都内で2020年2月撮影(2022年 ロイター/Athit Perawongmetha)

マクドナルドのビッグマックはセットにすると9.18ドル、1ドル130円で計算すると1200円だ。セットをラージサイズにすると10.49ドル、1360円になる。到着初日はホテルの売店のようなところで、コロナ・ビールの小瓶、サラダ、パニーニを買って夕食としたが、合計39.25ドル、5000円となってしまった。

<マスクなしのイベントが象徴するもの>

街中でマスクをしている人はほとんどいない。顧客とのミーティング時の先方の対応はそれぞれで、レセプションでワクチンの接種証明書の提示を求められたりする先もあった。だが、大方の先は何も制限やチェックはなく、ミーティングは100%マスクなしで行われた。

また、驚いたのはほとんどの人が新型コロナウイルスに感染した経験があるということだ。もちろん話をした人の全てに聞いたわけではないが、少なくとも会話した相手の中でまだ、1度も感染したことがないと言ったのは1人だけだった。

同僚の1人は「みんな3回ワクチンを接種しても結局感染している。むしろ感染してしまった方が強い抗体ができるからいいんだ」と言っていた。

データによると、米国でコロナに感染したことのある人は全体の25%にとどまっていることを指摘したところ、同僚からは「もう誰もカウントしていないからだろう」と一笑に付された。

木曜日の夕方には顧客を集めたイベントが行われ、同僚から誘われ行ってみると、案の定、誰ひとりマスクをせず、2019年までのイメージと全く同じ形でのイベント開催だった。まるで「まだ感染してないなら、このイベントで感染して行ってください」とでも言わんばかりだったので、感染すると帰国できないか、日本で2週間程度隔離されてしまうリスクがある筆者は、3分もしないうちに退散した。

自ら感染してしまって、自分の体でコロナウイルスに打ち勝つという考え方をしている米国(欧州、シンガポール、韓国も同様らしい)と、コロナウイルスに感染しないような行動を推奨する日本、中国、香港との差は大きい。

こうした対応の差は、経済的な格差にもつながっていくであろう。新型コロナウイルスがこの世からなくなることがないのであれば、結局はどこかで米国のような政策を採らざるを得なくなるのではないだろうか。それであれば、早い方がよいのかなとも思った。

<円はイデオロギーの犠牲か>

さて、為替に関する話題に移ろう。筆者は円相場が実質的に50年ぶりの歴史的な水準まで下落している根本的な理由は日本企業によるキャピタルフライトと、それに伴う貿易構造の変化があるとみている。

このことについては何度か本コラムでも指摘した。経済合理性よりもイデオロギーが重視されるような時代になり、それがコスト高、つまりインフレ率を押し上げるようになった。日本人の平均給与が米国人の半分なのに日本企業が製造拠点を日本に戻さないのもイデオロギーが重視されているからという側面も大きいだろう。円もそうした世の中の変化の犠牲になっているのである。

ただ、イデオロギーとは無関係に、安い円、安い日本を喜んで買ってくれていた人々がいた。海外からの観光客である。2015年には既に相当安くなっていた円、安い日本を目当てに海外からの観光客は増加した。

2019年には3200万人が日本を訪れ、4.8兆円の円を買ってくれていた。しかし、2020年以降は日本を訪れることができなくなった。貿易赤字の拡大に加えて、海外からの観光客がいなくなったことも、最近の円安継続の一因と言ってよいだろう。

<海外観光客を阻む数々の規制>

ニューヨークの同僚や顧客からは割安になった日本に是非行きたいという声が次々と聞かれた。ただし「すぐに行く」、「すでに行くことを決めている」という人はほぼ皆無だった。

なぜなら、日本到着後に空港で検査を受けなければならないからだ。入国後すぐに検査を受けて仮に陽性になってしまうと、日本で2週間近く隔離されるリスクがある。そうなると、出張や旅行の計画が全て水の泡となってしまうだけではなく、帰国してからの予定までも影響を受けてしまう。また、中には「今でも日本に入国したら無条件で一定期間隔離される」と思っている人もいる。

自分の国で出発前に検査を受けて陽性になるならまだよいが、到着した先ですぐに隔離されるのは誰しもが避けたいだろう。米国では入国後の検査はない。「入国後の検査が不要になったら、投資家を連れて日本へのツアーをするからすぐ教えてくれ」などと言うセールスもいた。やはり、3年近くも訪問していない国に投資するのは難しいのだろう。

訪日外国人客や日本への投資資金を引き付けるためにも、出国前だけPCR検査を義務づけ、日本入国時の検査を止めた方が良いのではないだろうか。幸い、厚生労働省は6月1日から、一部の国・地域からの帰国者・入国者については、入国時検査を実施せず、入国後の自宅等待機も求めないこととすると発表。5月26日には主要7カ国(G7)諸国を含め98カ国・地域がその対象になると公表された。この対応は一歩前進であり、今後はこうした措置を積極的に海外に対し宣伝する必要もある。

岸田文雄首相は6月10日から外国人観光客を受け入れると表明した。しかし、1日あたりの入国者数の上限を当面は2万人にするという。ということは、1年間で730万人しか入国できないことになる。2019年の2割強にしかならない。

段階的に増やすのは理解できるが、早いペースで増やしていく必要がある。さらに、日本を訪れる全ての外国人にビザの取得を求めるのはもう止めて、以前の状態に戻した方がよいだろう。入国規制全体の抜本的な緩和が望まれる。

<日本が取り残されるリスク>

市場のメカニズムを正常に機能させることにより、ゆがんだ形で日本人の購買力がさらに低下していくのを食い止めるためには、海外からの「お客様」に円を買い支えてもらうしかない。そして、観光客が円を買い支えるのを確認できれば、今度は投資家が割安になった日本に投資を始めてくれるだろう。

動き始めている世界に歩調を合わせて日本も動き始めないと、日本経済や円相場、日本の株式市場はどんどんゆがんでいってしまい、どこかで好ましくない方向への急速な動きへとつながってしまうリスクが高まるだろう。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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