October 16, 2018 / 7:42 AM / a month ago

コラム:サウジ皇太子、不明記者問題で「失脚」の現実味

[16日 ロイター] - サウジアラビア、そして特に世間知らずで打算的、残虐ともいわれる同国の若きプリンスは、反体制派のジャマル・カショギ記者が消息を絶った事件に対する世間の反応を見誤ったようだ。

同記者は、サウジの王位継承者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が野放図に、自国と中東全体を自らのビジョンに基づいて再構築しようとしていることに反対していた。

33歳のムハンマド皇太子は、1年4カ月前に父サルマン国王の後継者として選ばれてから、相当うまく切り抜けてきた。女性の自動車運転解禁などの措置により改革主義者と称賛される一方で、詳細不明な「違反」を巡る金銭的解決に合意するまでリッツ・カールトン・ホテルに大勢の王族メンバーや企業経営者を拘束した。

また、数多くの人権活動家や女性の権利を擁護する活動家を逮捕・監禁したり、隣国イエメンの内戦に介入し続けている。人権や戦場における国際ルールが日常的に無視されているイエメン内戦では、少なくとも1万人の市民が犠牲となり、約200万人が家を追われている。

さらに、隣国カタールに対して経済封鎖を行って孤立させた。総額1100億ドル(約12兆円)に及ぶ米国から武器を購入するとの約束もまだ果たしてない。

サウジは現在、カショギ記者に対する行動に関し、ムハンマド皇太子に非はないと認めているかのようだ。皇太子がこれまでずっと、絶対的権力、とりわけ安全保障問題における権力をほぼ手中に収めてきたにもかかわらずだ。

同時に、皇太子はトランプ米大統領とその娘婿のクシュナー大統領上級顧問の力を大いに見誤った可能性がある。米議会を超えてサウジアラビアの権益を守るため、皇太子は2人に熱心に近づいた。

サウジ政府が人権の尊重で知られたことはこれまで一度もなかった。とはいえ、今回のように歯止めの利かないやり方で行うことは通常はなかった。

では、何が変わってしまったのか。

その一因として、力ずくで権力を得ようとする新世代の指導者たちの存在が挙げられる。だが、こうした新顔のリーダーシップが、これまでの王族による現状打破よりその維持を狙ったゴールに向け緩やかに進化する比較的信頼の厚い旧来スタイルへと回帰するかを予想するのは時期尚早かもしれない。ムハンマド皇太子が権力を掌握するには、まだ単に準備が整っていないように見える。

歴代サウジ国王の大半は、建国の父である初代アブドルアジズ国王の子どもたちによって継承され、ようやく60歳代になって王位に就くことが多い。

28人の皇太子で構成され、国王を正式に選出する「忠誠委員会」に属する年配の皇太子は、首都リヤドを訪れた筆者に対し、同委員会は次期国王には、さまざまな試練に打ち勝ち、年齢を重ねることによって得られる英知と気質を備えた人物を望んでいると語った。

 10月16日、サウジアラビア、そして特に世間知らずで打算的、残虐ともいわれる同国の若きプリンスは、反体制派のジャマル・カショギ記者が消息を絶った事件に対する世間の反応を見誤ったようだ。写真はムハンマド区尾大志。パリで4月撮影(2018年 ロイター/Charles Platiau)

頭角を現したばかりのムハンマド皇太子は、このような英知を全くと言っていいほど兼ね備えていない。

問題は、ムハンマド皇太子以上に根深い。皇太子が権力の座に就くためのプロセスこそが問題の核心なのだ。ムハンマド皇太子が国王のお気に入りであっても、忠誠委員会が彼を承認しない限り後継者としての立場は磐石とは言えない。

ムハンマド皇太子は、大勢いる初代国王の孫たちの大半を飛び越えてきた。しかし、ずっと年配者が牛耳ってきた権力の牙城を壊してサウジ王位を継承するという同皇太子の計画にとって、カショギ記者の失踪問題が命取りになるかもしれない。実際、解決策を求めてトルコのエルドアン大統領に電話したのは父親のサルマン国王(82)だった。

今回の記者失踪事件において、現時点でほぼ無視されている核心的な問題は、サウジが他国との共同歩調に戻るのか、それとも真の「のけ者国家」へと向かうのか、ということだ。

ムハンマド皇太子はすでに、自身の目的達成に中心的役割を担うはずだった主な同調者や支持者の一部を失った。23日からリヤドで開催される自慢の経済フォーラム「砂漠のダボス会議」は、自身の改革「ビジョン2030」に乗り出す上で主要な役割を担うはずだった。

しかし、カショギ記者が行方不明になってから数日たっても事件の真相究明に腰の重いサウジに対し、同会議の主要スポンサーや企業経営者からの撤退が相次ぎ、会議自体が宙に浮いている。

ムハンマド皇太子が、サウジの改革や国を率いるための課題に立ち向かうことができる人物かどうかについては、ますます疑わしくなっている。実際のところ、同皇太子が単独支配するわけでも、ライバルがいないわけでもない。王族幹部の支持を勝ち取って真の後継者となるには、プロセスが存在し、カショギ問題で同皇太子が越えてしまったかもしれない「レッドライン(越えてはならない一線)」がある。

最も肝要なのは、皇太子自身やサウジに不利な関心をあまり向けさせないようにすることだ。同国はまさに文字通り、西側主要国、特に米国の主な機関への寄付だけでなく、ロビイストやイメージコンサルタント会社に巨額のカネをつぎ込んできた。その狙いは、こうしたイメージを決して修復不可能なほど色あせないようにすることだ。

サウジは当面、ムハンマド皇太子という個人と一蓮托生のようだ。だが、皇太子の注意深くつくられたイメージは今にも崩れようとしている。

トランプ大統領は、いまだにサウジ王族から歓迎を受け、クシュナー氏も何時間にも及ぶ電話や面会によってムハンマド皇太子との個人的関係を強固なものにしている。

それでも結局、米国の中東政策においてムハンマド皇太子が中心でいられるかどうかは依然として疑わしいのである。

*筆者は、米紙ニューヨーク・タイムズや米CBSテレビの元特派員。著書に「A Shattered Peace: Versailles 1919 and the Price We Pay Today」がある。

 10月16日、サウジアラビア、そして特に世間知らずで打算的、残虐ともいわれる同国の若きプリンスは、反体制派のジャマル・カショギ記者が消息を絶った事件に対する世間の反応を見誤ったようだ。写真は、同記者の写真を掲げる抗議参加者。イスタンブールのサウジ領事館前で5日撮影(2018年 ロイター/Osman Orsal)

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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