November 11, 2019 / 6:25 AM / 25 days ago

コラム:安倍首相のレガシー、「デフレ下で消費増税」となる日=嶋津洋樹氏

[東京 11日] - ロイターの報道によると、安倍首相は8日の閣議で財政措置を伴う経済対策を取りまとめるように指示をしたという。規模や対策が取りまとめられる時期については「関係省庁の提案で決まってくる」(西村経済再生相)とされたが、日本経済新聞(電子版)は同日、「各省庁が12月上旬までに具体策を詰める」としたうえで、「与党内には国の財政支出は5兆円程度になるとの見方がある」と報じた。

10月11日、ロイターの報道によると、安倍首相は8日の閣議で財政措置を伴う経済対策を取りまとめるように指示をしたという。写真は4日、バンコクで開かれたASEAN関連会議に出席する安倍首相(2019年 ロイター/Soe Zeya Tun)

筆者は従来から世界景気の持ち直しシナリオに懐疑的で、それを前提とした国内景気の先行きに対する楽観的な見方は、数回にわたる下方修正を持ち出すまでもなく、根拠が乏しいと受け止めていた。それどころか、国内景気は「アベノミクス」を支えてきたマクロ経済政策の変質ですでに後退局面に陥っている可能性が高いと分析し、消費税率の引き上げは悲惨な結果を招くリスクがあると警告していた。

<駆け込みと反動、政策のわりに大きく>

今のところ、消費税率の引き上げに伴う駆け込みと反動は前回ほどではないとの見方が大勢。筆者も足元までの反動減については前回ほどではないと分析している。しかし、それが政府の万全を期した政策の結果かと問われれば、条件付きで効果は「あった」と答えるのがせいぜいだ。というのも、駆け込みとその反動は一部の日用品や、高額な耐久財を中心に前回並みで、お世辞にも「需要が平準化された」とは評価できないからだ。むしろ、「万全を期した」わりに大きな駆け込みとその反動があったというのがフェアな評価だろう。

実際、総務省が8日に発表した9月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出(変動調整値)は名目で前年比+9.8%、実質で同+9.5%といずれも、比較可能な2001年1月以降で最大。「駆け込み需要が見られた主な品目等」として、家電や自動車などが紹介された。もっとも、ロイターは「9月は前年同月の消費支出が同1.5%減だった反動もかなり入っているといい、総務省は『駆け込み需要は前回増税時よりは若干弱めだった』との見方を示した」と報道。それでも「若干」と言わざるを得ないところに説明の苦しさが見え隠れする。

政府は今回の駆け込みと反動について、あくまで「全体として前回ほどではない」との立場を貫くつもりであろう。そうでなければ、野党や国民からの批判にさらされる。このことは、たとえ消費税率の引き上げそのものが、少なくとも当初は野党や国民が支持していたとしても変わらないだろう。しかし、足元の国内景気は明らかに変調を示している。たとえば、じぶん銀行日本複合PMI(速報値)は10月に49.1と、経済活動が縮小していることを示唆。とくにサービス業は49.7と2016年9月以来の50割れを記録した。

<景気変調、雇用に波及へ>

深刻なのは、こうした国内景気の変調が雇用にも及び始めるリスクが高まったことだろう。実際、新規求人数は景気の変動に先行することで知られるが、9月は季調値で92万8972人と、2016年11月(92万400人)以来の水準まで低下。それまでの2年間はやや勢いを失いつつもほぼ95万人~100万人のレンジを維持していたが、ついに底割れした。もちろん、新規求人数の水準そのものは依然として高く、今回のトレンドの変化がそのまま企業の人員削減の増加などにつながるわけではない。

しかし、新たに職を探し始めてもなかなか条件のあう仕事が見つからなかったり、希望の仕事に就くまでの時間がかかったりする事例は増加するだろう。すでに景気ウォッチャー調査には、そうしたコメントが散見される。こうした労働需給の緩和はいずれ、パートタイム労働者の時給の伸びの抑制につながる可能性が高い。時期が時期だけに、春闘を通じて、来年の賃金に影響を及ぼすリスクもある。それは個人消費を直撃し、国内景気に一段の下押し圧力を加える。

労働需給の緩和は人手不足に悩む企業にとっては朗報だ。しかし、個人消費が減速すれば、企業は採用を絞るだろう。「失われた20年」の記憶が残る日本企業が次の景気回復を意識して、積極的な採用を続けるとは考えにくい。もちろん、人手不足に対応した設備投資も打ち切られるだろう。国内景気の変調が雇用にも及んだことで、事態が一気に悪化するリスクも無視できなくなってきたと筆者は考えている。

<政策対応の遅れ、効果を抑制>

内閣府の景気動向指数(CI一致指数)が昨年後半以降、低下トレンドにあること、その結果として8月の基調判断が4カ月ぶりに「悪化」へ下方修正され、9月も変わらなかったことを踏まえると、国内景気はすでに後退局面にある可能性が高い。CI先行指数に下げ止まりの兆しが見えないことを踏まえると、なおさらそうだろう。重要なのは、景気はいったん一つの方向に進みだすと、その範囲を広げながら、転換点まで一気に向かう傾向があるということだ。

つまり、日本では雇用と設備は景気に遅行する傾向が強く、雇用が良いとか、設備投資が強いというのは景気の先行きを判断するうえでそれほど重要ではない。それどころか、景気減速が明らかな場面での雇用や設備投資への注目は、事態の深刻さをわかりにくくし、金融政策や財政政策などでの対応を遅らせかねない。しかも、いずれも実体経済へ波及するまでには時間がかかる。雇用や設備投資の悪化を目にしてからのマクロ経済政策は「時すでに遅し」で、規模が大きいわりに十分な効果を得られないリスクがある。

<安倍政権、雇用悪化なら窮地に>

「アベノミクス」の成功を掲げる安倍政権にとって、経済運営は絶対に失敗できない分野だと筆者は考えている。とくに雇用はその中核を占める。仮に雇用の悪化が表面化する場合、安倍政権は多くの国民からの支持を失い、窮地に陥る恐れすらあるだろう。それが万が一にも政権の崩壊につながれば、安倍首相のレガシーはデフレ下で消費税率の引き上げを2回も断行したということになりかねない。それはデフレ脱却を掲げて誕生した安倍政権にとって、あまりにも不本意な終わり方だろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

嶋津洋樹氏

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。

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編集:橋本浩

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