December 27, 2019 / 6:54 AM / 6 months ago

コラム:世界に「大きな政府」の潮流、米大統領選に影響か=嶋津洋樹氏

[東京 27日] - 今月12日に行われた英国の総選挙は、与党・保守党が全650議席のうちの365議席を獲得。これは、2001年以降の6回の総選挙のうち最多議席で、ジョンソン英首相はまさに歴史的な大勝を収めることに成功したといえる。もっとも、得票数は1396.6万票で2017年の前回総選挙の1363.7万票とほとんど変わらない。今回の大勝は、多くの英国民がジョンソン首相の率いる保守党を支持した結果とは言えなさそうだ。

今月12日に行われた英国の総選挙は、与党・保守党が全650議席のうちの365議席を獲得。写真2016稔3月、米メリーランド州ナショナルハーバーで行われた保守派の大会で配られた、大きな政府を否定するバッジ(2019年 ロイター/Joshua Roberts)

もちろん、最大野党の労働党の得票数は1026.9万票と、前回の1287.8万票から20%も減少。獲得議席数は202議席と1935年以来の少なさとなったが、得票数を自由民主党と合わせると1396.5万票で、前述した保守党に肉薄する。

今回の総選挙では、労働党、自由民主党を含む野党の多くが、英国の欧州連合(EU)離脱に慎重な態度を示しているにもかかわらず、政策調整はもちろん、部分的な選挙協力などもないままそれぞれの候補を擁立。それが小選挙区制で致命的な獲得票の分散につながり、共倒れになったと考えられる。一方、与党・保守党は、支持者の多くが重なるといわれるブレグジット党が対抗馬の擁立を見送ったこともあり、前回並みの得票数ながら、圧倒的な議席数を獲得できた。

<英総選挙でみえた2つの事実>

筆者は今回の英国の総選挙について、2020年を占う上で重要な2つの事実に注目している。一つ目は、いずれの政党も濃淡に差があるとはいえ、積極的な財政政策を掲げて選挙を戦ったこと。とくに労働党は公的セクターの賃上げや、インフラ部門の国有化と公共サービスの無料化など、従来であれば、あまりに「社会主義的」と、国民から強い拒否反応が出ても不思議ではないほど大胆な政策を打ち出していた。そして、そうした政策が一定の支持を得たということが2つ目の事実である。

つまり、今回の英総選挙で左派色の強いコービン党首が率いた労働党は大敗したものの、全体としてみれば、世論が「大きな政府」を求めていることを示したと評価できる。このことはすでに、マクロ経済政策での世界的な財政へのシフトとして顕在化しているものの、2020年はそれがさらに、機会平等よりも結果平等を求める世論に押されて「社会主義的」な色彩を濃くすると筆者は考えている。

<巻き起こる「結果平等」への圧力>

そうした変化はすでに新興国で顕著だ。たとえば、アルゼンチンは従来、改革派とされるマクリ前大統領の下で、規制緩和や財政健全化など「小さな政府」の実現に取り組んでいたが、10月の選挙で敗退。フェルナンデス大統領の率いる新政権は、一方的に債務再編の方針を打ち出すとともに、主力の輸出品である農産物に対する税率の引き上げや、在外資産への新たな課税で社会福祉を拡充することを議会に提案している。

また、フェルナンデス大統領が指名したペッシェ新アルゼンチン中銀総裁は就任前の9月に実施されたテレビインタビューで「インフレに対する正統派のアプローチは間違っている。彼らは金融政策、マネーの制限、金利によってインフレを封じ込めようとしているが、失敗した」と発言。ロイターによると、「所得と賃金の上昇に対処するだけではなく、値上げしないとの合意を含む『社会協定』を結ぶことが重要だと述べた」という。

これらはいずれも、平等な機会が与えられた上で、自由に競争が行われ、価格が決定し、その結果として差が生まれることを否定ないし、大幅に制限する一方、政府が結果の平等を強制的に実現しようとする政策だろう。

<世界に拡散する「国民の不満」>

もちろん、アルゼンチンの政策はかなり極端で、それが世界的にまん延するというのは大袈裟な話に聞こえるだろう。しかし、同じ南米のチリやエクアドルはもちろん、中東のレバノンやイラン、イラクでも格差の拡大や、それをもたらした政治の腐敗に対する国民の不満が公共料金や燃料費の値上げをきっかけに爆発。フランスの黄色いベスト運動や年金改革に対するストも、「大きな政府」を求める世論を反映しているといえるだろう。

それどころか、筆者には香港の民主化要求デモや、インドの国籍法に対する抗議デモも「大きな政府」を求める世論と不可分ではない、と思える。

実際、ロイターは香港の民主化要求デモの背景に「経済的な苦しみに根差している部分もある」と指摘。インドのデモ参加者が「政府はわれわれ(イスラム教徒)を二級市民にしようとしている」と批判していることも紹介している。それぞれのデモには別の大きな政治的な背景があるとはいえ、本質的な部分で格差と無関係ではなく、その解決策として政府の介入を求めているといえるだろう。それはまさに「大きな政府」を求める世論そのものである。

<左派思想の広がりが鍵を握る米大統領選>

マクリ前アルゼンチン大統領の掲げた「小さな政府」の下で、景気は主に金融政策で微調整するというマクロ経済政策の運営手法は、リーマン・ショック前まではグローバル・スタンダードであった。それがリーマン・ショックを経て、「大きな政府」の下で金融政策も積極的に活用という流れに変化。安倍政権やトランプ米政権の経済政策はその典型と言えるだろう。それでも、今まではあくまで機会平等が重視されていた。

ところが、フェルナンデス新アルゼンチン大統領の登場で、マクロ経済政策の軸足は結果平等へシフト。英国や米国で富裕税が真剣に取り沙汰されているのは、そうした変化が単にアルゼンチンだけにとどまっていない可能性を示すだろう。足元の世界的な世論の変化は、米大統領選で民主党左派の候補が誕生し、しかもその候補がトランプ大統領の再選を阻むリスクを無視できないことを教えている。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

嶋津洋樹氏

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。

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編集:橋本浩

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