February 1, 2020 / 11:13 PM / 15 days ago

コラム:主要中銀の人事に透ける政治的な思惑と今後の金融政策=嶋津洋樹氏

[東京 31日] - 政府は1月28日、次期日銀審議委員に安達誠司・丸三証券経済調査部長を充てる人事案を国会に提示した。同日の日本経済新聞(電子版)によると、「日銀や政府の一部に待望論があった産業界からの起用は見送った」とのこと。結果として、「政権としてアベノミクスの出発点を重視する姿勢が鮮明」となったと評価されているようだ。

政府は1月28日、次期日銀審議委員に安達誠司・丸三証券経済調査部長を充てる人事案を国会に提示した。写真はワシントンのFRB本部。2019年3月撮影(2020年 ロイター/Brendan McDermid)

そもそも、同紙は昨年11月の段階で、いち早く「『実業界の知恵』求める日銀 潜む審議委員人事巡る思惑」と報道。そのなかで、日銀に「現場や実務経験に基づく分析や助言の重要性が増している」との声があることを紹介している。

<日銀、追加緩和/正常化で綱引き続く>

確かに、経済のサービス化やシェアリングエコノミーなど、既存の統計では必ずしも正確に把握できない分野の急速な拡大を踏まえれば、そうした分野に関する分析や助言は、日銀が金融政策を運営するうえで非常に有用だろう。しかし、「第2次安倍政権のもと金融緩和に前向きな人物を送り込む官邸主導の人事に対し、日銀や財務省には自分たちの思いも反映してほしいとの声が根強くある」と記事は続ける。

この点について、1月28日付の記事では「狙いは別にあったと見る向きもある」とやや踏み込んで表現。その狙いとは「金融政策を柔軟に運営できる体制にしておきたい」ということのようだ。

つまり、2つの記事から浮かび上がるのは、「産業界」からの起用という言葉には、前述の「現場や実務経験に基づく分析や助言の重要性」というストレートな意味だけではなく、金融緩和に「後ろ向き」な自分たちの思いを反映させたいという意図が透ける。そうした人々にとって、安達・次期審議委員候補は非常に手強い相手となりそうだ。

もっとも、それがすぐに日銀の金融政策の変更につながるかといえば、答えは「ノー」だろう。日銀の金融政策を巡っては今後も、デフレからの完全な脱却を目指すために最低でも現行の金融緩和策を継続し、場合によっては追加緩和が必要と訴える勢力と、副作用論などを理由に追加緩和を回避し、できればその正常化を模索する勢力との間で綱引きが続く。

<米欧には波乱の芽>

こうした日銀に対して、米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)の最近の人事には今後の金融政策を考えるうえで波乱の芽がみえる。

まず、FRBはトランプ米大統領がウォラー・セントルイス地区連銀執行副総裁とシェルトン前欧州復興開発銀行(EBRD)米国理事を次期FRB理事候補として指名。金融市場では、どちらも緩和に前向きなハト派と評価されている。しかし、そもそもウォラー理事候補がハト派であるという根拠とされるブラード・セントルイス地区連銀総裁は、変幻自在の「フクロウ派」だ。今は物価がFRBの目標を下回っているため、ハト派的な姿勢を示しているに過ぎない。仮に、物価目標の達成が近付けば、一気にタカ派へ豹変する可能性がある。このことは恐らく、ウォラー次期理事候補にも当てはまるだろう。

もちろん、今のところ、FRBが物価目標を達成するには時間がかかるというのがコンセンサスであり、そうした状況がいきなり訪れるとは考えにくい。しかし、今年は11月に米大統領選が予定されている。各候補が経済政策の一環として、財政政策の拡大を前面に打ち出すことは十分にあり得る。前回の本欄で述べた通り、世界的に「大きな政府」が求められているとすれば、なおさらそうだろう。そうした政策が実を結ぶのは2021年以降になるとしても、金融市場や予想物価上昇率を通じて、実際の物価に上振れ圧力がかかることはありそうだ。

シェルトン次期理事候補は今でこそハト派だが、過去には金融緩和策を批判。仮にトランプ大統領が再選に失敗すれば、姿勢を変える可能性がある。それどころか、彼女の過去の言動を振り返ると、かなり柔軟な思考の持ち主であることがうかがえる。筆者はシェルトン次期理事候補が、就任と同時に態度を変えたとしても驚かない。

<注目のチーフエコノミスト人事>

ECBはラガルド総裁が任期をスタートした。1月の理事会では、戦略の見直しに着手することを表明した。ただ、金融政策の実際の運営という意味では、それらよりも、新たに就任したパネッタ専務理事とシュナーベル専務理事の役割が圧倒的に重要。とくに緩和的な金融政策の副作用を警戒するシュナーベル専務理事がレーン専務理事からチーフエコノミスト職を譲り受ける可能性に注目している。

その兆しは、シュナーベル専務理事が市場オペレーションの担当を割り振られたことからうかがえる。というのも、その役割は従来、パネッタ専務理事の前任であるクーレ専務理事が担当していたからだ。当然、少なくともいったんはパネッタ専務理事がその担当を引き継ぐのが自然だろう。しかし、実際はシュナーベル専務理事が担当することになった。

しかも、シュナーベル専務理事は、前任のラウテンシュレーガー専務理事の統計部門に加え、デドンギス副総裁が担当していた調査部門も担当。経済と金融政策は依然としてレーン専務理事が担当し、チーフエコノミストの面目を保ったが、その決断の前提となる調査部門と統計部門に加え、資産購入プログラムの継続で中心的な役割を果たす市場オペレーションまでシュナーベル専務理事が担当することになった。

こうした変化は、ECBの戦略の見直しと相まって、徐々に変化をもたらすだろう。しかもそれは、金融緩和を縮小する方向への変化だ。

筆者は直近までのリスク資産の上昇について、循環的な景気回復の兆しや米中間の通商協議の合意に加え、FRBやECBのハト派的な姿勢と、それに基づく追加緩和がもたらしたものと考えている。しかし、上述した通り、そうした政策が続くかは必ずしも定かではない。2020年のリスクシナリオとして、緩和的な金融政策が見直されることは念頭に入れておく必要があるだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:橋本浩

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below