April 9, 2020 / 6:05 AM / 3 months ago

コラム:一段の大幅調整避けられず、市場は「コロナ禍」未消化=嶋津洋樹氏

[東京 9日] - 前回の寄稿からほぼ1カ月が経過し、金融市場は再び落ち着きを取り戻している。報道によると、「空前規模となる経済対策への期待」(4/7、ロイター)や「世界の主要都市で(新型コロナウイルスの)感染拡大がピークを迎えたとの見方」(同)が材料視されたようだ。

4月9日、前回の寄稿からほぼ1カ月が経過し、金融市場は再び落ち着きを取り戻している。都内で8日撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

しかし、前回も指摘した通り、感染の拡大が最終的に実体経済へどれほど打撃を与えるか、現段階で正確に予想することは難しい。それが従来型の金融危機ではなく、未知の部分が依然として多いウイルスの感染拡大から生じているとすれば、なおさらだろう。確かに各国政府が打ち出した経済対策は「空前規模」と言えるが、それはあくまで過去との比較であって、現在進行形の「未曾有」とさえ言われる出来事の前で意味があるとは思えない。

同じことは「感染拡大がピークを迎えたとの見方」にも当てはまる。もちろん、感染拡大がピークを迎えれば、事態が好転する可能性は高まる。しかし、無症状感染者からの感染拡大や、「在宅死」の把握が困難という事実を踏まえると、楽観視することはできない。結局、前回の執筆から1カ月が経過した今も「情報不足」という状況に変わりはない。

筆者は足元の金融市場について、新型コロナではなく、原油価格の落ち着きがもたらしたと考えている。実際、金融市場のボラティリティが上昇したのは3月6日の東京の取引時間が終了して以降だ。株式市場や債券市場では当時も「新型コロナウイルスの感染拡大による経済への影響を懸念」(3/6、ロイター)との見方が大勢だったが、その陰に隠れて、米WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物価格は6日だけで前日比10%以上も下落。週明けの9日にはさらに約25%も調整した。

原油価格の下落は通常、コストの低下を通じて、企業収益を押し上げる。この構図は原油を含むエネルギーの多くを輸入に依存する国にとっても当てはまる。しかし、原油を扱う企業や産油国にとっては当然、逆風になる。あまりにも急で大幅な価格の下落は売上高や輸出金額の落ち込みにつながり、資金繰りにも影響を与える。それでも金融市場が安定していれば、債券や株式の発行などを通じて、資金を調達することは可能である。今回はそれが困難になるほど、金融市場に動揺が広がった。

その要因はいくつかあるが、まずはエネルギー関連企業の株価が急落した。今回は不幸にも、新型コロナの感染拡大というニュースも重なり、それ以外の企業にも株安が波及した。社債市場でも同様に関連企業の発行した債券が下落。社債市場は株式市場に比べて、規模が小さく、流動性も劣るため、今回のような大きなショックが加わると、一気に「売りが売りを呼ぶ」状態に陥り、価格が急落する。そうした資産を保有する投資家のなかには、決算が近いこともあって、利益が出ている別の資産を売って、その損失を穴埋めせざるを得なくなるところもあるだろう。安全資産とされる金や米国債にも売りが波及したのは、そのためでもある。

安全資産の下落は、保有する資産のリスク量を常に一定に維持しようとするファンドにも大きな影響を与える。平時の金融市場では、株式などのリスク性が高めとされる資産と、債券などの安全性が高いとされる資産とは、一方の価格が下がれば、他方の価格が上がる関係にあると考えられており、一方だけに投資するよりも双方に投資する方がリスク・リターンのバランスが良いと言われている。ところが、今回のように安全資産の価格も下落すると当然、「想定外」に損失が膨らむことになる。そうなると、投資した資金を守る手段は現金化ということになる。

しかし、リスクパリティと呼ばれるこうした投資手法はここ数年、世界的なブームで多くの資金を集めていた。それが同時に資産の現金化を急げば、金融市場は一段と不安定化し、さらに資産の売りが膨らむだろう。

こうして売り一色となった金融市場に追い打ちをかけたのが、産油国の資産取り崩しだと言われている。というのも、産油国の多くは原油の輸出で経済を回し、国家を運営しているからだ。ほぼ唯一の輸出品である原油価格が下落すると、生活必需品などを輸入するための資金が不足するし、国家運営もままならない。平時であれば、国債を発行して資金調達することもできるであろうが、今回のように金融市場が動揺している場合は難しいだろう。そこで、これまで原油の輸出で蓄えた資産の売却という決断を下すことになる。

WTI先物は3月20日に一時、1バレル=19.46ドルと2002年2月以来、約18年ぶりに20ドル割れの水準まで低下した。その後、「トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領が電話会談で原油相場の安定に向けた閣僚級会合の開催で合意」(3/30)し、「サウジアラビアが産油国に緊急会合を呼びかけと報じられる」(4/2)と、原油価格は底堅さを増した。

株式相場は欧米ともに3月23日が直近の底値で、ほぼ原油価格が底入れしたタイミングと同じだ。また、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)で業種別の騰落をみると、直近高値の2月12日から直近安値の3月23日までで最も大きく落ち込んだのも、その後、4月7日まで最も大きく反発したのもエネルギー・セクターだった。この間、米国の社債市場で、投資適格債よりもリスクが高く、エネルギー関連企業が多く含まれるハイイールド債が大きく回復している。足元の金融市場の安定が、主に「感染拡大がピークを迎えたとの見方」によってもたらされたようにはとても思えない。

筆者は前回の本欄で、「足元の金融市場の小康状態は、砂上の楼閣のごとく、いつ崩れても不思議ではない」と強い警戒を示して文章を終えた。そして、結果的にその通り、金融市場は大きく崩れた。しかし、その原因はあくまで原油価格の急落で、筆者の想定していた新型コロナの衝撃の大きさに起因するものではなかった。筆者は依然として、足元の金融市場の安定の持続性に懐疑的で、もう一段の大きな調整が避けられないと考えている。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

嶋津氏

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。

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編集:橋本浩

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