May 2, 2018 / 2:45 AM / 4 months ago

コラム:武田のシャイアー巨額買収、成立なら円安加速か=木野内栄治氏

木野内栄治 大和証券 チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト

 5月2日、大和証券チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジストの木野内栄治氏は、武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアーの買収が実現すれば、巨額の円売りが予想され、為替市場にも大きな影響が及ぶと予想。写真はシャイアーのロゴ。アイルランド・ダブリンで4月撮影(2018年 ロイター/Clodagh Kilcoyne)

[東京 2日] - 武田薬品工業(4502.T)がアイルランドの製薬大手シャイアー(SHP.L)に対し買収提案を行っている。報道によれば、交渉期限は英ロンドン時間5月8日午後5時(日本時間9日午前1時)。買収提示額は日本円換算で7兆円に迫り、実現すれば日本企業としては過去最大の買収案件となる。巨額の円売りが予想され、為替市場にも大きな影響があると考えられる。

過去の日本企業による対外大型買収前後のドル円レートの動きを見ると、買収意向が報じられる頃から円安となりやすい傾向がある。例えば、ソフトバンクグループ(9984.T)が英半導体設計ARMホールディングスを買収する意向が伝わった前後(2016年6―7月)では、7.5円程度円安が進んだ(対ドル、以下同じ)。

また、サントリーホールディングスによる米ウイスキー大手ビーム社買収では、合意が発表された2014年1月とその3カ月前の2013年10月のドル円レートを比べると、9円近く円安が進行している。JT(2914.T)による英たばこ大手ギャラハー買収のケースでは、JTが買収を打診したことが報じられた2006年12月頃から2カ月程度で8円近く円安となった。古くは2000年代初頭、NTTドコモ(9437.T)が米AT&Tワイヤレスに出資したケースでは、検討が報じられて2カ月強で13円弱も円安が進んだ。

もちろん、例外はある。例えば、武田薬品によるスイスのナイコメッド買収発表時(2011年5月)は、東日本大震災後の混乱の影響が大きく、円安は観測されていない。ソフトバンクによる英ボーダフォンの日本法人買収発表時(2006年3月)には、日銀による量的緩和解除と重なり、やはり明確な円安とは言えない。

一方、ソフトバンクによるスプリント買収発表時(2012年10月)は、アベノミクス開始に伴う金融緩和期待もあって、かなり大きく円安が進んだ。

このように大型買収の円安効果はまちまちなものの、金融政策などの影響がなければ、2―3カ月間で7―13円程度ドル円を押し上げると見て良さそうだ。実際、今回も3月28日に武田薬品によるシャイアー買収意向が明らかになった頃から円安が進んできた。直前が104円台だったことを考えると、111―117円に向けた円安・ドル高基調がイメージされる。

<結論は6月下旬までずれ込む可能性も>

円安が進む期間を考えたい。すでにシャイアーの取締役会は買収案の受け入れを株主に推奨する意向を示した。通常の買収案件ならば、ゴールデンウィ―ク明けにも正式な買収提案が行われることになり、早ければ5月末ごろの臨時株主総会で受け入れ側が賛否を決することになる。先に示した過去の例でも買収意向から2カ月程度の期間で円安が一巡するケースが多い。

ただ、今回は数次にわたる買収条件の引き上げがあるなど、ここまでも時間がかかっている。さらに両社ともに臨時株主総会を開いて株主から承認を得るというプロセスを踏む可能性が報じられているので、通常よりも時間が必要かもしれない。折の良いところで、6月下旬の定時株主総会ごろまでずれ込む可能性もありそうだ。

こうしたプロセスが進む中で、大株主が賛否の意向を表明し始めるだろう。もちろん、破談となれば為替市場でも円安効果は期待できないが、そうした方向が見え始めた場合は買収条件を修正することもあり得る。

大勢賛成の流れとなると、円売りが加速する可能性が考えられる。株式市場だけでなく、為替市場においても今後の成り行きは大いに注目すべきだ。

<1ドル105円は「黒田フロア」か>

さて、そうした円安地合いの中で、黒田東彦日銀総裁は異例の円安誘導発言を行った。20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するため渡米した黒田総裁は4月23日までに米CNBCテレビのインタビュ一に応じ、「何かあれば、円は時折、上がり過ぎる」と円相場についても評価を示した。円安地合いを利用するつもりがあったかは定かでないが、当日の為替市場では大きく円安に振れた。

日銀総裁がこのように為替水準を評価するのは珍しい。有名なのは2015年6月に、「これ以上円安になりそうもない」といった趣旨の発言を国会で行って、その後125円は「黒田シーリング」と呼ばれるドルの天井となった。当時はその後日本の保険会社による海外企業に対する大型合併・買収(M&A)検討が報じられており、日銀総裁は、円安が急加速してしまうことを抑え込んだのではないかと筆者は思う。

前述したように、海外企業に対する大型M&Aは、その時々の金融政策などとの兼ね合いで、為替レートに対する影響が強かったり弱かったりする。黒田総裁は財務官時代にそうした市場感覚を習得した可能性があるだろう。

なお、日銀による量的・質的金融緩和、その第二弾、長短金利操作付き量的・質的金融緩和は、おおむね105円以下で発表、実施されてきた。為替水準ではなく、それが及ぼす物価動向が重要なのだろうが、為替市場から見れば105円以下は金融緩和という「実力行使ゾーン」ということができる。そう考えると、3月の104円は「円は上がり過ぎ」との評価になるのだろう。

もちろん実質ベースや貿易加重後の実効レートが重要だろうが、対ドルで見ると105―125円が居心地良いと黒田総裁が感じるゾーンと考えられる。125円が「黒田シーリング」と呼ばれたように、105円は「黒田フロア」になる可能性がある。

木野内栄治 大和証券 チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト(写真は筆者提供)

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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