October 2, 2015 / 4:22 AM / 3 years ago

コラム:郵政株、上場前に知るべきリスクと可能性=丸山俊氏

[東京 2日] - 日本郵政(6178.T)と傘下のゆうちょ銀行(7182.T)、かんぽ生命保険(7181.T)の3社が11月4日に東京証券取引所に同時上場する。想定価格から算出した3社合計の時価総額は13.6兆円超。1位のトヨタ自動車(10月1日時点、約24.4兆円)(7203.T)には遠く及ばないものの、2位の三菱UFJフィナンシャル・グループ(同約10.5兆円)(8306.T)を上回ることになる。

郵政上場は1987年の日本電信電話(NTT)(9432.T)上場に例えられることがあるが、NTTの固定通信事業が規制により縛られたまま、その後の市場開放と競争激化で収益状況が悪化したのに対して、日本郵政グループの場合は、預入限度額引き上げや業務規制の緩和が与党内で議論されており、上場をきっかけに経営の自由度が高まれば収益状況が改善する可能性があるという点で当時のNTTとは異なる。

以下、上場後の郵政3社株のリスクとポテンシャルについて考えてみたい。

<今後も政治の思惑に翻弄される可能性>

まず、上場後の株価を見通すうえで押さえておくべき第1のポイントは、強い政治性だ。

小泉政権下の2005年10月に成立した「郵政民営化法」により、日本郵政の政府持ち分については3分の1超を残して出来る限り早期に処分、金融子会社2社(ゆうちょ銀とかんぽ生命)の日本郵政持ち分については2017年9月までにすべて処分することが定められた。

しかし、2009年8月に政権を奪取した民主党・社民党・国民新党は郵政民営化の見直しに着手し郵政株売却を凍結した。ところが、そうした中で発生した東日本大震災の復興のため2011年11月に成立した「復興財源確保法」により日本郵政株の売却収入を復興債の償還財源に充てることが定められた。

そして、2012年4月に成立した「改正郵政民営化法」により郵便事業株式会社と郵便局株式会社が統合され、ユニバーサルサービスの実施が義務付けられるとともに郵政株売却の凍結が解除され、ゆうちょ銀・かんぽ生命の株式処分期限は撤廃された。

財務省の見積もりでは、おおむね3年に1回の売却、1回の売却額を1.3兆円と仮置きすると、2022年度までに最大で3回の売却が可能と想定されるため、売却収入は4兆円程度と試算されている。

近年、郵政民営化ほど「政治」に翻弄された政策はなく、また郵政民営化ほど「政治」を翻弄した政策もない。全国郵便局長会(全特)や日本郵政グループ労働組合(JP労組)など強大な利権団体を複数擁する日本郵政グループは強力な政治力を持つがゆえに、上場後の郵政3社の株価は株式市場全般の動向だけでなく、政治の思惑に大きく振り回されることを肝に銘じておきたい。

<日本郵政の成長ポテンシャルは大きい>

株価の行方を占う第2のポイントは、ねじれた親子関係だ。政府は日本郵政については3分の1超を残して売却、日本郵政は子会社のゆうちょ銀・かんぽ生命についてはまず2分の1を売却する方針だ。改正郵政民営化法では、ゆうちょ銀とかんぽ生命の株式について、その全部を出来る限り早期に処分することと定められているが、金融ユニバーサルサービスへの影響や日本郵政の収益状況を考えると「完全処分」は先の話だろう。

1回目の売り出しは売出比率11%、想定売出価格から算出した売出総額は日本郵政6683億円、ゆうちょ銀5774億円、かんぽ生命1419億円になる見込みである。

ただし、日本郵政はゆうちょ銀、かんぽ生命の株式売却手取金を、財務大臣を売り手とする自己株式立会外買付取引(ToSTNet‐3)の方法により、自己株式の取得資金に充てる方針だ。想定売出価格などを踏まえると日本郵政が取得する自己株式数は4.7億株程度(約6300億円、約10%)と見積もられており、売り出しと合わせると政府の日本郵政の株式売却額は合計1.3兆円程度となる。

日本郵政は金融ユニバーサルサービスの実施が義務付けられている金融子会社2社から郵便局の窓口で預金や保険などを取り扱う代理手数料として年1兆円超を得ているが、それでも郵便・郵便局事業の収益環境は厳しい。

しかし、復興財源への貢献を求められている日本郵政は「早期の株式売却」と「株主価値の極大化」を実現するために、今後も売り出しのたびに金融子会社2社の株式売却収入を政府からの自己株式取得に充て、余剰資金や保有資産を有効活用して物流事業を中心に企業の合併・吸収(M&A)などによって企業価値向上を図っていくことになるだろう。

上場時における日本郵政の企業価値は、ゆうちょ銀・かんぽ生命の足し算でしかないが、政府からの自社株取得とそれに伴う資本効率向上、ユニバーサルサービスを課された金融子会社2社からの手数料収入、郵便局ネットワークのポテンシャル、金融子会社2社に対する持ち分低下とともに物流・小売・サービス・不動産などへの事業拡大が進めば、想定売出価格から算出した株価純資産倍率(PBR)0.39倍という低評価は変わっていくものと思われる。

<国鉄民営化に匹敵する衝撃か>

最後に、日本経済に大きな影響を及ぼす可能性がある日本郵政グループの経営自由化議論について、簡単に触れておきたい。

自民党の「郵政事業に関する特命委員会」は6月下旬、日本郵政グループ3社(日本郵政、ゆうちょ銀、かんぽ生命)のあり方に関する提言を取りまとめた。

具体的には、経営の自由度が大きく制限されている状況を改善することを目的として、ゆうちょ銀の預入限度額を現行の1000万円から早期に2000万円、2年後までに3000万円、将来的には他の金融機関と同様に完全撤廃することを要望しているほか、かんぽ生命の契約限度額についても現行の1300万円から早期に2000万円に、将来的にはさらなる引き上げを検討すべきだと提言している。

その他にも、ゆうちょ銀が新規業務として申請中のカードローンや住宅ローンをはじめとした個人・法人向け貸付業務についても上場後に実施できるよう関係省庁が認可を行うべきだとしている。

2005年に成立した郵政民営化法では「同種の業務を営む事業者との対等な競争条件を確保するための措置を講じ・・・」(第2条)と記されており、2012年に成立した郵政民営化法の一部改正における付帯決議では預入限度額を「直ちに勘案すべき事情が変わるわけではないことから、当面は引き上げない」としている。

しかし、政府の関与が徐々にとはいえ、上場後に低下していくに伴って、限度額の段階的引き上げと新規業務が認可されていく方向にあることは間違いないだろう。ゆうちょ銀の限度額引き上げは業務制限の緩和と相まって地域金融機関再編の引き金になる可能性を秘めている。

ゆうちょ銀は中期経営計画において収益力強化のために、総貯金残高の確保、手数料ビジネスの強化と並んで、資産運用の多様化と運用パフォーマンスの改善を挙げた。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を大きく上回る運用資産を誇る世界有数の機関投資家である同社が、適切なリスク管理の下で外債や株式などへのリスク資産運用を少しでも積極化させれば、そのインパクトは大きい。

日本郵政グループ上場をきっかけに議論が進むであろう限度額引き上げ・業務制限緩和は金融・保険のみならず、物流、小売、流通、サービス、不動産など多岐にわたる産業に影響が及ぶだけでなく、国鉄がJRになって大きく変貌を遂げたように消費者の利便性が向上することで日本経済の活性化につながっていく可能性もある。

*丸山俊氏は、BNPパリバ証券の日本株チーフストラテジスト。早稲田大学政治経済学部卒業後、三和総合研究所に入社し、クレディ・スイス証券を経て2011年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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