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コラム:円安基調は今年夏が転換点か、それでも遠い110円=山田修輔氏

[19日 ロイター] - 昨年秋から進んだ円安だが、今年の大型連休前からいったんモメンタムは休止している。筆者が意見交換をしている海外投資家も、円安一辺倒から、連休後は円高方向をうかがう声も聞かれ始めた。円安トレンドは終わったのか、いつ円高に切り返すのか──。これまでの円安要因と、円高転換を促す潜在要因について指摘したい。

 5月19日、昨年秋から進んだ円安だが、今年の大型連休前からいったんモメンタムは休止している。写真は日本円とドルの紙幣。2017年6月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)

<円安が進んだ3つの要因>

まず、昨年秋から進んだドル/円の上昇には、3つの要因があると指摘したい。

1点目はエネルギー価格の上昇だ。日本は主要10カ国(G10)経済の中でエネルギー貿易収支の赤字(国内総生産比)が最も大きいため、原油価格が上昇すると交易条件が悪化し、円安となりやすい。

米国も以前はエネルギー純輸入国だったが、シェール革命を経て、エネルギー貿易収支の赤字は解消した。ドルと原油の負の相関は低下し、ドル/円で見れば、原油価格が上昇するとドル/円が上昇する関係性に転じて久しい。

当社は原油価格のピークを今年6月にブレント原油で1バレル120ドルと見ており、原油高による円安は概ね織り込まれたと考えているが、ウクライナ情勢の影響を受けるため、不確実性は大きい。

2点目は、証券投資における資金の流出だ。具体的には昨年秋、邦人投資家による外債投資や外株投資が活発化し、今年に入ってからは海外投資家による日本株売りも見られた。長期成長率のかい離から投資機会が相対的に外国市場で拡大していくため、構造的に資金流出が発生しやすい。

しかし、新年度入り後、証券投資は純流入となっている。邦人投資家が外債を売却する一方、海外投資家が日本株を買い戻しているためだ。これには複合的な要因があるが、1ドル130円までドル高・円安が進んだことで、海外資産が割高化し日本資産が割安化した点は無視できない。

また、主要生命保険会社の運用計画を見ると、概して日本国債(JGB)市場への回帰が見られる。無論、岸田文雄政権への株式市場の期待は高くないため、特に株式投資において継続的に資金が流入する蓋然(がいぜん)性は低いが、いったんは証券投資の動向が円安要因ではなくなってきている。

3点目は、金融政策におけるギャップだ。日銀は4月の金融政策決定会合で、指し値オペを毎営業日行い、JGBの10年利回りを0.25%以下に抑え込むイールドカーブコントロール政策(YCC)を堅持する決定を下した。岸田政権、財務省からも円安を本格的にけん制する声は聞かれていない。総じて日本政府、日銀は円安を「力業」で止める意図がないと、金融市場では受け止められている。そうなると、もし、海外金利が上昇を続ければ、日本と海外の金利差は広がる一方で、為替市場では円安圧力が生じる。

<米金利はどこまで上がるか>

では、海外金利、特に米金利の上昇は続くのだろうか。当社では、2022年末の米金利予想を2年で3.5%、10年で3.25%としており、現行の水準から上昇余地があると考えている。

米連邦準備理事会(FRB)は5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の利上げに踏み切ったが、パウエル議長は会合後の記者会見で今後数回の会合での0.75%の利上げについて、否定的な態度を取った。昨年秋からFRBは断続的にタカ派化シフトを図ってきたが、いったん様子見に入ったと見られている。

しかし、当社はFRBにタカ派化余地があると見ている。パウエル議長は5月17日に「われわれが目にしなくてはならないのは、明確で納得できる形でのインフレ沈静化であり」、「それが広く理解されている『中立』水準を超えることを必要とするなら、われわれは一切躊躇(ちゅうちょ)せずに実行する」と述べた。

また、複数のメンバーが22年末までに政策金利を中立、または中立以上に引き上げたいと述べている。

米国経済にとって緩和的でも引き締め的でもない「中立金利」がどこに位置するかは不確かであるが、FOMC参加者の見通し(ドットプロット) では、長期 (longer run) インフレ率を2%、政策金利を2.4%と想定しているため、実質中立金利は0%台半ばと想定している可能性がある。

足元の政策金利は0.75─1%で、インフレ率は4月の消費者物価指数(CPI)で前年比プラス8.3%、3月の個人消費支出(PCE)価格指数で同プラス6.6%の伸びを見せた。インフレ調整後の実質政策金利はマイナス5%を下回る。

市場の政策金利織り込みと、インフレ率の織り込みから得られる実質政策金利の織り込みを見ると、少なくとも2023年末まではマイナス領域 (インフレ率>政策金利)となっている。FOMC参加者のインフレ予想の中央値も、22年末で前年比4.3%、23年末で2.7%となっている。

そうすると、22年末に実質中立金利に到達するには政策金利を4.5%以上、23年末であれば3%を超える水準まで引き上げなくてはならず、いずれも市場織り込み、FOMC参加者自身の予想よりも高い。

無論、インフレ率が想定より早く低下したり、景気の極端な下振れや中国発の経済ショックが発生すれば、FRBのハト派化の可能性はあるが、今のところリスクはさらなるタカ派化であり、まだ、ドルの上昇圧力がはがれたとは言えない。

<米景気後退のサイン、円高転換とリンク>

では、ドル/円が下落に転じるには何が必要だろうか。端的に言えば、金融市場の焦点が、インフレ懸念から景気減速ないし後退懸念へ移行した時が、円高調整への転換点となるのではないか。

FRBは金融政策を引き締め、景気を冷やすことでインフレを落ち着かせようとしている。景気とインフレを冷やしつつ、経済や株式市場への甚大な影響を回避するのは、不可能ではないが、供給制約によりインフレが過熱している分、至難の業だ。

景気とインフレが冷却すれば、今度は利下げで米国経済を常温に戻すことが必要となるが、想定以上に冷え込めば、利下げの幅も大きくなり、ドル/円にも下押し圧力が強まる。

その点では、米国債のイールドカーブの形状が道標となる。代表的な2年10年の金利差は現在、プラス0.2% (2年2.7%、10年2.9%)で、市場が利上げを織り込む余地はある。

これが、マイナスに転じる、すなわち、長期金利より短期金利が高い逆イールドの状況となり、このマイナス幅が広がれば、市場はFRBが金利を上げていく結果、景気が冷えて先々、利下げをする必要性を意識している観が強くなり、市場の焦点がインフレ・利上げから、景気減速・利下げに移行する可能性がある。

当社は22年末の2年・10年の金利差をマイナス0.25%と見ており、当社の米国担当エコノミストも、当面は景気後退リスクが小さいが、2023年の懸念は強いとしている。そう考えると、ドル/円は今年10─12月期から2023年前半にかけて、調整リスクが高まりそうだ。今年の夏が1つの転換点となる可能性がある。

<意識される円預金の購買力低下>

景気サイクルを超えた時間軸では、今回の円安で円預金の購買力低下リスクが意識された可能性がある。日本の一般政府の公的債務残高が、グロスベースで国内総生産(GDP)比250%を超え、主要国の中で突出している。

日本の対外純資産は潤沢であるが、国が公的債務残高を安定させようとすれば、緩和的金融政策によって実質金利を低位で安定させる金融抑圧政策が取られる蓋然性が高く、日本銀行が大幅な利上げに踏み切れない要因にもなる。

長期的な円安トレンドが意識されれば、円高調整の幅も限定される可能性はあり、2016年や2020年に見せた1ドル100円前後は言わずもがな、110円という水準も今サイクルの円高調整では見られないのではないか。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*山田修輔氏はバンク・オブ・アメリカの日本法人であるBofA証券・主席日本為替金利ストラテジスト。マサチューセッツ工科大学卒。2019年と2021年のInstitutional Investors 誌リサーチランキングの日本為替部門において首位。金利チームは2021年2位。2012年以前はPIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事。CFA協会認定証券アナリスト。

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