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コラム:ソーシャルメディアの罪、「偽ニュース」拡散に限らず
2016年12月10日 / 23:28 / 1年後

コラム:ソーシャルメディアの罪、「偽ニュース」拡散に限らず

[7日 ロイター] - ソーシャルメディア企業が批判を浴びている。虚偽のニュースやデマに基づくキャンペーン、ヘイトスピーチの拡散を放置したことが、米国大統領選挙と英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)をめぐる国民投票の結果に影響を与えた、というものだ。

 12月7日、ソーシャルメディア企業が批判を浴びている。虚偽のニュースなどを放置したことが、米大統領選と英EU離脱をめぐる国民投票の結果に影響を与えた、というものだ。2013年、サラエボで撮影(2016年 ロイター/Dado Ruvic)

だがフェイスブックとツイッターの本当の罪は、何かをやったことではなく、やらなかったことにある。民主主義が繁栄するために必要なデータに貢献しなかったのだ。世論や有権者の意識に関する膨大なデータを抱えたまま、ソーシャルメディア企業は、米国・英国の世論調査会社、ジャーナリスト、政治家、市民団体が、誤った情報をもとに不正確な予測を行い、劣悪な判断を下すのを傍観していたのである。

これらの企業が収集しているデータを見れば、たとえば、虚偽のニュースが有権者に影響を与えているかどうかをリアルタイムに把握することができただろう。ソーシャルメディアのプラットホームによって蓄積されたデータがあれば、世論調査に基づく予測とは異なり接戦になっていることが市民にも分かり、投票率が上昇した可能性がある。そして、そういう票が本当に重要なのである。しかし実際には、ソーシャルメディア企業は米国・英国が民主主義の落とし穴にはまるのを座視していた。政治制度のなかに世論に関する質の高いデータが欠乏したままとなったのである。

法的には、ソーシャルメディア企業がデータを公益のために提供する義務はない。そして、ソーシャルメディアがどんな情報を提供するかは、常に、ユーザーによるプライバシー設定、個人情報の販売に関する国ごとに固有のルール、そしてフェイスブックやツイッターといった企業が他企業と結ぶ個別の契約によって決まっている。

とはいえ、今日ではこれらのソーシャルメディアは、政治的な対話のための最も重要な舞台となっている。そうである以上、ソーシャルメディア企業は、特に選挙のような非常に重要な政治的時期の前後には、民主主義の実践を支援するように行動すべきである。

フェイスブックとツイッターは、何百万人もの有権者に到達し、ターゲットとする能力を持っている。ユーザーがこれらのプラットホームに登録した瞬間から、運営会社はユーザーの行動、関心、家族や友人に関するデータを利用して、お勧めのニュースや新たな人脈のつながりを提案してくる。さらに、運営会社はこのデータを他の企業に販売する。ユーザーが何を購入するか、重要な社会問題についてどう考えているかを、いっそう深く分析するためだ。

あるユーザーの人脈や共有したコンテンツに関するデータを検証することにより、ソーシャルメディア企業は、そのユーザーが投票に行くかどうか、どのような投票行動を取るか、さらには、どのようなニュースや広告がユーザーの市民としての政治参加を促す、あるいは妨げるかといった点について、有力な推論を行うことができる。

ソーシャルメディア企業は、ユーザーのニュース消費習慣を定期的に調査しており、そのプラットホーム上で、政治的な二極化の原因・結果に関する詳細な分析を生み出している。その意味で、国民投票と選挙の際に捏造(ねつぞう)されたニュース記事や、デマに基づくキャンペーンがどの程度まん延したかを知っているのは、フェイスブックとツイッターの2社だけなのである。両社は、誰がどのリンクをクリックしたか、各ユーザーがある「記事」を読むのにどの程度の時間を費やしたか、また、そのユーザーが実際にどこにいるのかを知っている。

ソーシャルメディア企業がユーザーのデータを他のデータベース(たとえばクレジットカードの利用記録や有権者登録名簿)と融合させれば、ユーザーの投票履歴や、どんな政治団体に寄付したことがあるかも分かるかもしれない。ユーザーの態度を十分に知っているから、リベラル派にはリベラル寄りのニュースを、保守派には保守寄りのニュースを配信できるし、態度未決定の有権者に虚偽のニュースを配信することもできる。

先日の米大統領選では、フェイスブック、ツイッター双方で憂慮すべき量のデマ情報が見られた。調査によれば、多くのユーザーは現実のニュースと虚偽のニュースの判別がつかないようである。こうした「コンピューターを介したプロパガンダ」に関する筆者自身の研究でも、政治的な対話を台無しにするためにフェイスブックやツイッターが簡単に利用されてしまうことが示されている。

「ボット」と呼ばれる自動発信機能を使って嘘をまん延させることが特に巧みだったのはトランプ氏の選挙陣営である。偽ニュースサイトは、その設立者の資金稼ぎのためだけにスタートしたものだが、加工された画像や虚偽の報告がまん延するようになれば、一部の有権者の意見に影響を与えることは確実である。

 12月7日、ソーシャルメディア企業が批判を浴びている。虚偽のニュースなどを放置したことが、米大統領選と英EU離脱をめぐる国民投票の結果に影響を与えた、というものだ。米ノースカロライナ州の投票所で11月撮影(2016年 ロイター/Jonathan Drake)

フェイスブック上でのデマのまん延に関する批判への対応として、創業者のマーク・ザッカーバーグ氏はある投稿のなかで、虚偽ニュースに関するユーザーによる通報をもっと簡単にするなど、同社がすでに着手しているいくつかのプロジェクトについて説明した。また広告に関するポリシーを更新し、欺瞞(ぎまん)的で誤解を招く内容の禁止は広告コンテンツにも適用されることを明記した。とはいえ、こうした企業にはもっとできることがある。

ソーシャルメディア利用が増加している一方で、世論調査システムの崩壊が進行してきた。電話やインターネットを使った調査はますます不正確になっている。これだけ多くの人が携帯電話を使い、友人・家族やフェイスブック経由で入ってくる政治的コンテンツを消費している状況では、従来の世論調査企業では、市民が何を知り、何を求めているのか、もはや全体像を把握できなくなっている。

現代の民主主義を機能させるためには、3種類の世論調査システムが稼働していなければならない。第1に、全国規模の出口調査だ。選挙の運営方法の誤りを確認し、不正投票に関する訴えを裏付ける、あるいは反駁(はんばく)するのに役立つ。

第2に、民主主義では公共政策に関する世論調査が定期的に行われる必要がある。これによってジャーナリスト、公共政策策定の担当者、市民団体、選挙によって選ばれた公職者が、投票日以外の時期にも世論を把握することができる。

第3に、民主主義には「審議型世論調査」が必要である。有権者から抽出したグループに複雑な政治問題を提示し、十分に時間をかけて、可能性のあるソリューションを検討してもらう。この種の世論調査では、専門家や他の有権者とじっくり対話することによって、市民を公共政策に関与させる。これによって、より情報に裏付けられた意志決定に至る。

フェイスブックやツイッターといった企業が運営するプラットホーム上では、いまや先進民主主義国のほとんどの市民が政治について語り合っており、以上のような世論調査システムに欠かせない新しいプラットホームになり得る。既存の世論判定手法を完全に代替することはできないだろうが、既存の世論調査システムは衰弱しつつあり、ソーシャルメディアというプラットホームには果たすべき明確な役割がある。

任意に使えるデータと保守管理するプラットホームがあるのだから、ソーシャルメディア企業は虚偽のニュースを流すことによる広告収入を拒絶することにより、礼節の水準を高めることができるだろう。

あるプラットホーム上で誰が何を見ているかを判定するアルゴリズムについて、他者の監査・理解を求めることもできるだろう。それと同じように大切なのが、より正確な世論調査、出口調査、審議型世論調査を行うためのプラットホームになり得るという点なのだ。

フェイスブックとツイッターは今年、世論判定の方法が崩壊していくのを傍観していた。虚偽のニュースやコンピューター上のプロパガンダが特定のユーザーを狙い撃ちするのを認めることは、民主主義の価値観に反している。だが、世論に関するデータを抱え込んだままでいることも、民主主義に対する大罪なのである。

*筆者は社会学、情報、国際情勢を専門とするオックスフォード大学の教授。近著に「Pax Technica: How the Internet of Things MaySet Us Free or Lock Us Up」がある。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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