November 4, 2015 / 7:27 AM / 2 years ago

コラム:南シナ海への米艦派遣はなぜ必要なのか

James Holmes

[29日 ロイター] - ようやく、の感がある。行くべきか、行かざるべきか、数週間にわたる国民的な議論の末、米国防当局者は10月27日、ミサイル駆逐艦「ラッセン」に、渚碧(英語名スビ)礁から12カイリ以内を巡航するよう命じた。

スビ礁は領有権が争われている南シナ海の南沙(同スプラトリー)諸島にある岩礁だが、中国政府はここに人工島を造成した。これを周囲に領海を伴う実際の島嶼(とうしょ)と見なそうというのが中国政府の意向だ。領海が伴うとすれば、12カイリ以内では、首都北京と同様に中国の国内法が及ぶことになる。

──焦点:南シナ海の中国けん制、艦船派遣に至る米政権内の葛藤

中国側は、自国にその権利があると主張し、南シナ海の大半に及ぶ「歴史的な」領有権を根拠としている。この水域では、5兆ドル相当の海上貿易が通航している。

中国側が領海と主張する範囲に軍艦を派遣することにより、米海軍は「海・空を統制するルールを書き換えようとする試みを米国は拒否する」というサインを送った。国際法では、公海は誰の所有物でもなく、世界の海洋の他の部分では、「航行の自由」に基づく往来が当たり前となっている。ラッセンの巡航が一回限りで終われば、中国側は必ず、その法的根拠のない権限を改めて主張するチャンスを得ることになろう。

海洋法の優れた点は、それがきちんと成文化されているということだ。「海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)」では、沿岸国は、自国の海岸から200カイリまで広がる「排他的経済水域」内に人工島を建設することができると定めている。200カイリ以遠では、海洋法上、そのようなプロジェクトは認められない。

「グーグル・アース」を起動してみよう。スビ礁は最も近い中国沿岸である海南島から500カイリ離れている。フィリピンの方がはるかに近い。パラワン島からわずか230カイリだ。つまり、領有権を主張するならば、中国政府よりもフィリピン政府の方が純粋な地理的近接性という点ではるかに上である。とはいえ、そのフィリピン政府といえども、スビ礁を埋め立てようとすれば違法になるだろう。

南シナ海で各国が主張する領有権

南シナ海で各国が主張する領有権

スビ礁は海面下の岩礁だったが、中国の技術者らは海底を浚渫(しゅんせつ)して人工島を築き、その上に滑走路を設けた。この人工的な縄張りにはいかなる法的な地位もない。だが中国政府はむりやりこれに法的地位を与えようと試みている。

ある国の排他的経済水域内にある人工島には、同心円状に500メートルの安全領域が与えられる。これは航行・飛行にはほとんど何の影響も与えない。スビ礁のように排他的経済水域外であれば何の権利も与えられない。ましてや12カイリの領海など論外である。実際、ラッセンの場合も、法を遵守したままで、船長の決断しだいでいくらでもスビ礁に近づくことができたはずだ。

米国政府による国際法の執行については、米国がUNCLOSの締約国ではないことが批判されることが多い。しかし現実には、陸・海・空に対する行き過ぎた領有権の主張を覆そうとする米海軍の努力がなければ、この条約も何ら実効性をもたないだろう。

だが、その手段は問われる。なぜ複雑な法的論点を主張するために艦隊を派遣するのか。なぜ何らかの国際裁判所に訴えないのか。実は、国内法は違法な主張に対する救済を提供してくれるが、海洋法はそうではない。より正確に言えば、海事紛争を解決するための国連レベルの裁決機関は存在するものの、海洋国家はその権威を認めることを拒否できる。たとえば、フィリピンが付託した審理を中国は拒否している。

そのため、海洋国家は、不愉快な選択を念頭に海洋の自由を考えなければならない。認めがたいもの(つまり海洋の自由を損なう形で国際法を書き換えようとする中国の試み)を認めてしまうこともできる。あるいは自力での解決に訴えることもできる。各国政府が違法な主張を拒否するならば、ラッセン派遣のような実力行使もありうる。違法な主張をする国家の政府との外交的な対話によって、その行動を補強することもできる。傍観する主要国に自らの目的を説明することもできる。断固たる決意があれば、海洋の自由を支持する関係国の力で、行き過ぎた領有権の主張によって国際的な慣例、そして恐らくは国際法が有名無実化することを阻止できる。

上に挙げたような手段が大切なのは、国際法の性質ゆえだ。厳かな条約を起草するだけで国際法が成立するわけではない。各国政府が何をやり、何をやらないか。それもやはり法の成立を支えている。違法な主張や行為をだらだらと放置しておけば、それに同意を与えたことになる。十分な数の政府が同意を与えたように見えれば、本来の国際法はついにその効力を失ってしまう。それが中国政府の狙いだ。

そうしてみると、ラッセンの巡航は斬新でも過激でもない。こうした作戦は、海洋の自由を志向する米国の長年にわたる超党派的な政策の一部なのである。実際、連邦政府の「航行の自由プログラム」の発足は、レーガン政権1期目にさかのぼる。UNCLOSそのものと同じくらい古いのだ。

さて、これからどうなるのか。米国が真剣に航路の自由を維持しようとするなら、単発的な力の誇示ではなく、係争中の水域・空域には当然のように艦艇・航空機を派遣することで中国の主張に抗わなければならないだろう。

逆に、今週の示威行為が単発のジェスチャーに終わるならば、米国が支配している海上貿易・商業のシステムを支えている国際法をある国の政府が一方的に制限する(ひょっとしたら無効にする)ことを米国の指導者が認めたことになってしまうだろう。

<プロパガンダ戦>

だが、艦艇・航空機の派遣だけでは十分ではない。米国政府は根拠のない主張に反駁する理由を説明しなければならないし、その説明は素早く、頻繁に行われる必要がある。中国政府がこれまでやってきたように、米海軍の行動をあれこれ定義する暇を与えてはならない。

中国当局は、米国がスビ礁問題など南シナ海における紛争を「軍事化」していると主張してきた。習近平国家主席は9月にワシントンを公式訪問した際、中国が造成した人工島に軍を配備することはないと誓約したが、技術者らが建設した飛行場は、あらゆる種類の軍用機が利用するのに十分な長さを備えている。

なるほど、スビ礁の滑走路は今後も非武装のままだろう。とはいえ、それも最初の軍用機がそこに着陸するまでの話だ。その瞬間に軍用飛行場になる。中国の人工島を非武装と呼べるのは、ロードアイランド州のニューポート海軍基地が非武装であるのと同じ意味においてである。今日では米海軍の軍艦でニューポートを母港とするものはなく、同基地は訓練・教育施設となっている。だが、ナラガンセット湾に1隻でも軍艦が現れたら、ニューポートはあっというまに軍港としての立場を取り戻すのだ。

中国は強引な島嶼政策と無縁ではない。たとえば1974年には、中国軍が、やはり南シナ海にある西沙(英語名パラセル)諸島で南ベトナム(ベトナム共和国)軍を攻撃し、同諸島をベトナム共和国政府から奪い取った。

同じパターンは続いている。2001年には中国軍戦闘機のパイロットが米海軍の偵察機の近くで挑発行動を行い、空中衝突に至った。

さらに近年では、2013年に米ミサイル巡洋艦「カウペンス」が嫌がらせを受けている。関与したのは中国海軍の艦艇だった。2014年には海南島近くを飛行していた米海軍の対潜哨戒機「P8ポセイドン」を、中国空軍の戦闘機が「急襲」した。中国の「J‐11」(中国名「殲撃11」)は、米軍機から20フィート以内に接近した。

要するに中国政府はここ何年にもわたり、急速に軍事的手段を獲得しようとしている。中国の海洋に関する主張に対抗するための艦艇派遣は、東南アジアで成功するために必要ではあるが、十分ではない。今後確実に発生する宣伝戦を戦い、勝利を収めるためには、米軍の広報担当者が法と歴史に関する基本的な事実で理論武装することが必須である。

それ以上に基本的な点がある。海洋法を執行するのは各国海軍であるし、これまでも常にそうだった。他に誰がその任を担うだろう。海運大手のマースクラインにも、クルーズ船運航大手のカーニバルにも、それは不可能なのだ。

*筆者は米国海軍大学教授(戦略論)。2010年に「Atlantic Monthly Best Book」(「アトランティック」誌が選ぶ月間最優秀書籍)に選ばれた「Red Star over the Pacific」共著者。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳・エァクレーレン)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below