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コラム:自由度増した日銀金融緩和、デフレ脱却よりコロナ禍収束を重視=鈴木明彦氏

[ 6日 Reuters] - 日銀が今年3月の金融緩和の点検で打ち出した対応策の中でも、目玉となるのは発表文でもトップに掲げられた「貸出促進付利制度」の創設だろう。

 4月6日、日銀が今年3月の金融緩和の点検で打ち出した対応策の中でも、目玉となるのは発表文でもトップに掲げられた「貸出促進付利制度」の創設だろう。都内の日銀本店前で2020年5月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

異次元金融緩和を8年続けても2%の物価目標を達成できず、デフレとの戦いは膠着(こうちゃく)状態に入っていたが、新型コロナウイルスとの戦いが始まって状況は一変した。日銀は、新型コロナ対応金融支援特別オペ(特別オペ)という強力な武器を手にしたからだ。

それまではマネタリーベースがいくら増加しても、日銀当座預金に滞留しているだけで、世の中に出回るマネーストックは拡大しなかったが、今は特別オペの効果でバブル期並みのマネーストック拡大を実現している。

貸出促進付利制度ではまず、付利金利を「インセンティブ」と称して、貸し出しを促進する手段に位置付けた。その上で付利のレベルを3つのカテゴリーに分け、基準となるカテゴリーIIの付利を短期政策金利の絶対値とすることによって、特別オペを制度として追認した。

付利の基準金利を政策金利の絶対値とすることで、今後、政策金利を深掘りすることがあっても、付利が上がってくるので、金融仲介機能への悪い影響はかなり軽減されるということになる。

<金利を下げなくても緩和効果拡大>

カテゴリーIIの付利金利(現行0.1%)を基準にして、カテゴリーIではそれより高い金利(同0.2%)、カテゴリーIIIではそれより低い金利(同0%)が付利される。このスキームなら、政策金利を深掘りしなくても、カテゴリーIとIIIの付利を変えることで緩和を強化することができる。

今回、このスキームを導入することによって、金融機関が直接貸し出すプロパー融資については、カテゴリーIとして0.2%の付利が受けられるようになった。これが影響したのか、3月スタートの特別オペは18.7兆円と過去最大となり、オペ残高は65兆円近くに増えている。

なぜこのタイミングで金融緩和の点検を行ったのか。消費者物価が再び低下したことに対応した政策見直しだった、という理解は間違いではないが、オペ残高を拡大させるためには、このタイミングしかなかったことの方が重要ではないか。4月以降のオペについては、満期を迎える10月以降の特別オペの継続がまだ決まっていないため、オペの利用が抑制されそうだ。

制度の対象となる資金供給は今のところコロナ対応の特別オペに限定されており、貸出支援基金や被災地オペによる資金供給は、付利が付かないカテゴリーIIIに入っている。しかし、対象となる資金供給を見直すことによって、貸出促進付利制度はアフターコロナにおいても有効な緩和手段となる。

<物価が上がらなくても動ける余地>

日銀は、強力な緩和手段を手にしたが、それでも物価は上がりそうにない。今月発表される展望レポートでも、2%の物価目標達成は当分無理ということが確認されそうだ。

一方で、強力な金融緩和を行っていれば、たとえ物価が2%上がらなくても、景気の過熱やバブルの懸念が出てくる。日銀としては物価が上がらなくても動ける自由度を確保しておきたいところだ。

今回の点検で、長期金利の変動幅を「プラスマイナス0.25%程度」として明確化したこともその一環であろう。これまでも同0.2%程度の変動幅を示唆していたが、これは黒田東彦総裁が記者会見において口頭で示した非公式なものであった。

今回、政策決定会合で変動幅を正式に決定した意義は大きい。この変動幅内であれば、金融緩和の効果を損なうものではなく、2%の物価目標を達成していなくてもその変動は容認できるというお墨付きを得たことになる。

その意味では0.25%という変動幅は、許容される限界とみていいだろう。0.25%を超えてくるとさすがに政策変更ということになり、その裁量を調節の現場に与えてしまうのは問題だ。もっとも、0.2%と0.25%の差は見た目より大きい。マイナス金利政策導入前の10年金利の水準が0.25%前後であったこと考えれば、この微妙な差はマイナス金利導入前への復帰の道を開くものとなる。

一つ気になるのは、金融緩和の点検についての日銀の発表文を見ると「短期政策金利」という表現が出てきていることだ。政策金利は一つしかないのにわざわざこういう言い方をするのはなぜか。変動幅を明確化した以上、10年金利は誘導金利から実質的な政策金利に格上げされたとも推測できる。

フォワードガイダンスでは、政策金利については、「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」としており、長期金利は10年政策金利の誘導目標であるゼロ%を上回ってプラス領域で推移することを想定しているとも読める。

<ETF購入は当分継続>

ETF(上場投資信託)とJ-REITの購入については、予想されていたように、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するという買い入れの目安が外された。株価が上がっている、あるいは安定している時の購入ペースはかなり低下する一方で、昨年春ごろの新型コロナ感染拡大時のように株価が大きく下落した時には、積極的な買い入れが行われそうだ。

日銀としては、ならして見た増加ペースを低く抑えたいところだが、ETFは国債のような償還がないので、処分しない限り、日銀の株式保有が減少することはない。しかも、これまで臨時措置としていたそれぞれ約12兆円、約1800億円という年間増加ペースを上限とする積極的な買入れを、感染収束後も続けることとした。

ETFの購入を止めて株価が暴落したら、永久に購入を続けなければならなくなる。さりとて購入を続ければ、金融政策正常化の出口はさらに遠のく。日銀としては厄介なジレンマを抱えてしまっているが、官邸(菅義偉政権)との良好な関係を保つためには、アフターコロナでもしばらくはETFの購入を続けざるを得ないと腹をくくったようだ。

<物価は「デフレでない状況」を維持>

今回の金融緩和の点検は、2%の物価安定の目標実現のため、と銘打っているが、これまでの金融政策の変更で打ち出されてきたオーバーシュート型コミットメントやフォワードガイダンスなど、デフレと戦う姿勢をアピールする対応は打ち出されなかった。

確かに、気休めにしかなりそうもないコミットメントやガイダンスを加えるよりは、バブル期以来のマネタリーベースの拡大をもたらしている特別オペを、貸出促進付利制度に衣替えして強力な緩和手段として確立することが、一番のデフレ対策であることはその通りだが、将来の金融政策の自由度を縛るような約束はあえてしないということだろう。

もはや、日銀は2%の物価目標を達成できるとは思っていないのではないか。バブル期以来とも言える強力な金融緩和を行っているのに達成できないのであれば、2%の物価目標は半永久的に達成不可能と言ってもよかろう。

日銀にとって、デフレ脱却よりもコロナ禍の収束の方が大事だ。消費者物価が2%上がらなくても、日本経済がコロナ禍を克服して元気を取り戻すことができれば、金融政策としては成功だ。その時には、2%の物価目標を掲げることに意味があるのかという議論も広がってくるだろう。

今の日銀にとっての物価の現実的な目標は、原油価格の下落や「GoToトラベル」の影響で宿泊費が急低下するといった特別な要因を除いて、物価が下落していない、つまりデフレでない状態を維持することだ。

これが維持できなくなると、いつ内閣府が3度目のデフレ宣言を出すとも限らない。そんなことになったら、いくらコロナとの戦いを収束させても泥沼のデフレ戦争に戻ってしまう。日銀としては、それだけは避けたいところだ。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*鈴木明彦氏はUFJリサーチ&コンサルティング研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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