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コラム:ワクチン加速で景気のV字回復期待できない複数の要因=鈴木明彦氏

[東京 6日] - 日本でもようやくワクチン接種が本格化して、新型コロナウイルスとの戦いに光明が見えてきたが、新規感染者数が首都圏を中心にまた増加するなど、感染再拡大の懸念も広がっている。

 7月6日、日本でもようやくワクチン接種が本格化して、新型コロナウイルスとの戦いに光明が見えてきたが、新規感染者数が首都圏を中心にまた増加するなど、感染再拡大の懸念も広がっている。千葉市内で行われた職域接種会場で6月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

このため、景気の先行きについても、ワクチン接種が進んで集団免疫を実現し景気回復が加速してくるという明るい見方がある一方で、まん延防止等重点措置が延長され、緊急事態宣言が再び出されて景気が失速するという厳しい見方が交錯している。

ここで指摘したいのは、コロナとの戦いが今の日本経済にとって最重要課題であることは間違いないとしても、景気の先行きをコロナ対策と結び付けて予測するのは、必ずしも適切ではないという点だ。

<ワクチン不足の懸念>

ワクチン接種が本格化し、コロナ対策が正しい方向に向かい始めたのは間違いない。これまでは、感染防止に決め手を欠くまま、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を出したり引っ込めたりしながら、感染拡大を引き起こしかねない「Go To キャンペーン」の推進にエネルギを費やしていた。

国民の間には先の見えない自粛に対する不満も高まっていたが、感染防止の実効性が期待できるワクチン接種が進んでくるにつれて、政府に対する批判もやや収まってきた。

しかし、ワクチン接種をばねに、オリンピック・パラリンピックを無事開催させ、さらに国民のムードを一変させて景気もV字回復を図るというのは、楽観的に過ぎるのではないか。

しかも、ここにきてワクチンの量が十分に確保されていないという事実が表面化し、接種加速の原動力となった職域接種の受付を中止するという事態に至ってしまった。ワクチン接種ペースの減速は避けられそうもない。

<オリンピックの感染リスク>

仮に、ワクチン接種が今のハイペースを維持できたとしても、接種効果が出て集団免疫状態になるのは、まだ先の話だ。すでに開催まで3週間を切っている東京オリンピックに間に合うはずがない。

変異株による感染拡大も影響して、世界の新規感染者数は減少が一服し、再び増加する兆しが出ている。一方、これまでの日本の新規感染者数を見ると、海外での感染状況にほぼ連動しており、日本の水際対策がしっかり機能してきたとは言えない。

選手団を中心としたオリンピック・パラリンピック関連の来日者数は、当初想定されていたよりはかなり少なくなったとはいえ、多くの人が日本を訪れることに変わりはない。オリンピック・パラリンピックのために、より厳格な水際対策が取られるとしても、感染拡大を抑え込むことはかなり難しいだろう。

東京など10都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」は今月11日に期限を迎えるが、少なくとも首都圏は延長が濃厚になっており、4度目の緊急事態宣言の可能性も否定できない。ここまで来てオリンピック中止という判断は現実的ではないが、感染拡大を阻止するためには、政府も無観客での開催を視野に入れてきていると思う。景気の先行きに対する懸念が強まってくるのは当然だ。

<景気下押し効果もない緊急事態宣言>

確かに、昨年4月の1回目の緊急事態宣言の時は、景気が大きく落ち込んだ。しかし、それは世界全体で経済活動が停止し、日本からの輸出が急減して、感染を恐れて国内の消費活動が急速に縮小したからだ。そうした状況下で緊急事態宣言が出されたわけであり、経済の失速が全て緊急事態宣言によって生じたとは言えない。

実際、緊急事態宣言は今年1月の2回目、4月の3回目と回を重ねるごとに人流を抑制する効果が弱まってきたと言われている。感染抑制効果が疑われるのであれば、景気を下押しする影響力も弱まっていると考えられる。

もちろん、緊急事態宣言は飲食や旅行など特定の分野で強烈な下押し効果を持つ。事業の継続が困難になる状況に対しては、社会政策上の観点から個別に対応することが必要なことは言うまでもない。しかし、それは日本全体の景気の先行きとは別次元の話だ。

<集団免疫の高い壁>

ワクチン接種が進んで集団免疫状態になれば、これまで控えていた宿泊旅行や宴会も再開してくるだろう。政府が「Go Toキャンペーン」などの対策を再開しなくても、安心感が出てくれば、需要は回復する。

しかし、冒頭でも述べたように、集団免疫状態になるには、まだ時間がかかる。また、感染力が強い新たな変異株の出現が続くようでは、それに対して既存のワクチンがどの程度効果があるのかもはっきりしない状況となる。足元での新規感染者数増加の兆しが感染拡大第5波につながるとすると、波と波の間隔が短くなっているようにも考えられる。

ワクチン接種を進めることは新型コロナ対策として重要であり、いずれ感染が抑えられ安心感が広がることは、人々の行動にも影響してくる。しかし、そのプラス効果は、これまで抑制された宿泊旅行や宴会需要などに局所的かつ一時的に現れてくるものであり、経済全体の成長率を持続的に高める効果までは期待できない。

ワクチン接種によって世の中のムードが一変するかもしれないが、それによって経済全体がⅤ字回復すると期待するのは過大だ。

<80%終わったV字回復>

そもそも、V字回復はそうとは気づかぬうちに終わってしまったのではないか。景気は厳しい状況にあると政府が判断しているうちに、輸出や生産など景気に敏感な指標は、新型コロナショックで大きく落ち込んだ昨年5月を底にかなり回復してきた。景気の山・谷を判断する材料となる景気動向指数(一致系列)の推移を見ても、昨年5月前後が景気の谷といずれ認定される可能性が高まっている。

そこをボトムに半年ほどの間に多くの指標が上昇した。個人消費など外出抑制の影響を受けやすい指標を中心に、まだ新型コロナ感染拡大前の水準を回復していない指標もあるが、コロナショックによる落ち込みからの急ピッチな回復がもたらすV字回復は、すでに8割方終わったと考えた方がよさそうだ。

ショックからの回復が一巡したことを背景に、景気は昨年秋から踊り場に入ったようだ。ワクチン接種を促進する政府の対策は正しく、集団免疫状態への移行は景気再加速のきっかけになりうる。

だが、景気を押し上げる効果を過大に評価してはいけない。すでにコロナショックからの回復が多くの分野で進んでしまった以上、残念ながら高い成長率が続くV字回復は、もう期待できないと覚悟した方がよさそうだ。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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