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コラム:バイデン氏勝利ならドル安、米財政赤字に注目集まるリスク=高島修氏

[東京 13日] - この1週間、米株が改めて騰勢を強めてきた。市場での一般的な解釈は、新型コロナウイルスに感染したトランプ大統領が早期に復帰したことが好感されたというものだろう。だが、筆者の見方は違う。むしろ市場はこの間、11月3日の米大統領選でバイデン前副大統領の勝利を確信し、その前提の下で動き始めたのだと見ている。

 この1週間、米株が改めて騰勢を強めてきた。市場での一般的な解釈は、新型コロナウイルスに感染したトランプ大統領が早期に復帰したことが好感されたというものだろう。だが、筆者の見方は違う。むしろ市場はこの間、11月3日の米大統領選でバイデン前副大統領の勝利を確信し、その前提の下で動き始めたのだと見ている。写真はドル紙幣。2016年11月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

今回、米株高だけではなく、米金利がやや目につく上昇となっていることに注目すべきだ。これはバイデン氏の勝利とともに、大統領選と同時に実施される連邦議会選挙で民主党が下院のみならず上院でも多数派を奪還することで、大統領(行政)と議会(立法)のねじれが解消。その結果、経済対策がバイデン政権の下で、より大規模化することを市場が織り込み始めたことを感じさせる。

こうした中で米株高が再開し、為替市場は改めてリスクオン的に米ドルが対ユーロなどを中心に全般的に値下がりし始めている。だが、この米金利上昇はいずれかのタイミングで、一時的にせよ、米株などリスク資産の調整をもたらす可能性が高いのではないか。

その場合、為替市場はリスクオフ的な円高の様相を呈そう。年内にもドル/円は3月安値である101─102円のレンジへ続落。ユーロ/円などクロス円の調整はドル/円より深くなる可能性があると考えている。

<トランプ氏逆転はあるか>

以上のような考えに基づく場合、市場にとって重要だったのは、トランプ大統領が今月5日に早々に退院したとのニュースではなく、その週末に流れたホワイトハウスでのクラスター発生のニュースであり、それによってトランプ大統領と共和党が、11月3日の大統領選と議会選で劣勢を挽回することが決定的に困難になったと、市場が確信したことにあったと思われる。

この数カ月、欧米系投資家の間では、大統領選が接戦となった場合にトランプ大統領が選挙結果を認めないことで生じる、コンスティテューショナル・クライシス(憲法的危機)が発生することへの警戒感が強まっていた。

2000年の大統領選では共和党のジョージ・W・ブッシュ候補が民主党のゴア候補を破り、第43代大統領に就任することになったが、選挙後、フロリダ州の投票結果の集計が迷走し、ブッシュ候補の勝利が確定するのに1カ月余りを要した。その時、米株安、米金利低下、米ドル安が進んだ記憶が市場には残っているからだ。

だが、今回のトランプ大統領のウイルス感染と、それに伴う支持率のもう一段階の低下で、11月の大統領選が接戦となる可能性が下がり、その結果、コンスティテューショナル・クライシスが発生するリスクも後退したと市場は見ているのだろう。

今年、世論調査では、民主党候補者(バイデン候補)の支持率は共和党候補者(トランプ候補)を6─8%ほど上回ってきた。4年前の2016年選挙におけるクリントン候補のトランプ候補に対する上振れ幅を安定的に超えており、選挙直前にかけて3─4%ほどまで縮小したとしても、まだ、バイデン候補が当選する可能性が高いと言われている。

最近では接戦州の情勢も一段とバイデン氏有利に傾いてきているようであり、2000年選挙でもつれた因縁のフロリダ州を獲れなければ、トランプ大統領は勝利できる可能性が決定的に低下すると言われる。米議会選挙でも共和党は不利になってきており、民主党が現在、過半数を超えている下院に加え、上院も奪還するとの見方が浮上している。

<バイデン氏勝利シナリオと上がり出した米長期金利>

市場にとって気がかりなのは近年、サンダース議員やウォーレン議員の躍進に象徴的なように、民主党の左傾化が進んでいることだ。我々も年初から今年のどこかでバイデン前副大統領など民主党候補が優勢となり、市場が米国の経済政策の左傾化を織り込む段階で、リスク回避志向が強まり、為替市場では円高が進行するとの見方を示してきた。

だが、最近の市場動向から察するに、そうしたバイデン・ショックを経ることなく、上記の通り、市場はバイデン勝利を政治的なメインシナリオに据えることに成功したようだ。これはバイデン前副大統領自身が中道派のプラグマティストだと見られることや、その政策提言の中に含まれる4年間で2兆ドル(約211兆円)の気候変動対策のように、コロナ危機で需要不足の状況下、市場にとって歓迎すべき内容も含んでいることが理由だと思われる。

とは言え、米債市場では今後、民主党のバイデン体制の下で財政刺激規模が共和党のトランプ体制の時よりもさらに大規模化することへの警戒感が強まり出している出していると見られ、この1週間、金利上昇が目立つ。10年米国債利回りUS10YT=RRがこのまま6月に付けた0.9%台の高水準を超えて1%台に乗せてきた場合、米連邦準備理事会(FRB)による金利コントロール力への警戒感が強まり、米株などリスク資産の調整につながる可能性があるのではないかと思われる。

市場はいったん値崩れが始まると、従来無視してきた弱気材料ににわかに注目し始めるものだ。そのような場合には、党内左派であるエリザベス・ウォーレン議員の財務長官就任の可能性や、将来的なデジタル課税、GAFA規制の強化などへの懸念が取りざたされよう。

また、バイデン候補のエネルギー政策も重要で、トランプ政権で締め付けが強化されたイラン政策が緩和に向かうとの見方が強まれば、イラン産原油が国際市況に復帰し、需給が緩むことで原油安が再燃。それに伴って米国のクレジット市場が緊迫し、米株も反落するリスクが浮上しよう。この場合も、為替市場は円高の様相を呈するだろう。

<政権交代ならドル安進展か>

より長期的には米国の財政刺激が大規模化することが、米ドルに及ぼす影響に注意が必要だ。通常、米ドルの通貨指数はあくまでもすう勢的にではあるが、米国の財政収支と方向性を一致させる傾向にある。つまり、財政収支の改善期には米ドル高が、悪化期には米ドル安が進む傾向にある。これは1つには財政のリスクプレミアムの影響もあるだろう。

だが、より重要なのは、今回のように、景気減速局面を迎えた場合、景気対策と税収減で財政事情が悪化。米国債の需給環境も悪化する時に、FRBが低金利政策を採るため、海外投資家が需給環境の悪い米国債を低利回りで購入することに躊躇(ちゅうちょ)し、その結果、経常赤字のファイナンス環境が悪化することで米ドル安が進むというメカニズムが働くことではないかと考えられる。 

財政政策の方針は政権ごとに変わり、景気の過熱や減速に対する対応も政権ごとに異なってくる。こうしたこともあり、米ドルの長期的なトレンドの転換点が、米国における政権交代のタイミングと一致することが多い。

2008年のリーマン危機後の景気回復期に重なったという幸運もあったかもしれないが、保守的な財政政策運営を行ったオバマ政権ですう趨勢的な米ドル高が進行。対照的に攻撃的な減税政策で財政収支を悪化させたトランプ政権が誕生した2017年に、そのオバマ時代の米ドル高が終えんする格好となった。

その後も米ドルはこれまで4年間、高原状態を維持してきたが、今回のコロナ危機でFRBが果敢な金融緩和を断行した後、バイデン前副大統領の下で米国の財政政策が一段と大規模化する可能性が浮上。トランプ政権下で生まれた長期的な米ドル安トレンドが、一段と明確になってきたのではないかと思われる。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

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編集:田巻一彦

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