for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:バイデン政権、自然体でドル安放置の可能性=高島修氏

[東京 9日] - 来年1月に米大統領就任の見通しである民主党のジョー・バイデン前副大統領は党内中道派で、プラグマティストでもある。トランプ大統領に比べ、日本や欧州など同盟国を中心に国際協調路線を採るとの見方が有力だ。

 来年1月に米大統領就任の見通しである民主党のバイデン前副大統領は党内中道派で、プラグマティストでもある。トランプ大統領に比べ、日本や欧州など同盟国を中心に国際協調路線を採るとの見方が有力だ。高島修氏のコラム。写真はドル紙幣。ソウルで2011年9月撮影(2020年 ロイター/Lee Jae-Won)

財務長官にはイエレン前米連邦準備理事会(FRB)議長の指名が公表された。FRB議長時代、国際金融に関する情報発信は少なかった印象で、当時、その役割はフィッシャー副議長やブレイナード理事が担っていた。

イエレン新財務長官の下で大幅な通貨政策の変更が行われるとは考え難く、米国が明示的に「強いドル政策」を放棄することはなかろう。だが、同時にバイデン政権が強いドル政策を実践することもないと思われる。最近、リスクオン的な米ドル安が進行しているが、そうしたドル安は政治的には放置されよう。

<再び通貨安戦争か>

重要なことは近年、米国に限らず世界各国で通貨安政策を採るインセンティブが従来以上に高まっていることだ。1)金融政策がゼロ金利政策に縛られ、実質金利の引き下げが困難になる中、2)景気・インフレ刺激のためにマネタリー・コンディションを緩めるためには、実質為替レートの下落を促すしかなくなっているからだ。

ただし、3)これまで通貨安誘導の主なツールであった金融政策が機能不全となる中、実際に通貨安に誘導することが難しくなっており、今後は金融政策に加え、通貨政策(介入政策)、財政政策、関税政策などの相対的な重要性が高まるだろう。

また、4)究極的には為替レートはゼロサム・ゲームなので、世界全体で実質為替レートの減価を促すことはできず、ある国が通貨安に成功することができれば、必ずその反面で通貨高に直面する国が出てくる。

つまり、世界的に景気が低迷し、ディスインフレ傾向が強い中で、金融政策が限界に直面している状況では、通貨安戦争が勃発しやすいと言える。

実際、最近の例で言えば、11月に追加緩和に踏み切ったオーストラリア準備銀行(RBA)は、通貨安によって金融緩和効果が補強されることに期待をにじませた。今のところあまり市場の関心は集めていないが、フィリップ・ロウ総裁のように保守的な中央銀行家が率いるRBAでさえ、通貨安誘導に手を染め始めたことは、世界規模で通貨安戦争が再発する兆しとして捉えておく必要があるかもしれないと筆者は感じている。

<米国の強いドル政策>

ここで問われるのが、米国が「強いドル政策」を継続するか否かということであろう。もともと「強いドル政策」は1980年代前半にレーガン共和党政権(81─89年)がインフレ撲滅のために採った政策に起因する。ポール・ボルカー議長率いるFRBが超金融引締め策を実行、ウォール・ストリート出身のドナルド・リーガン財務長官の通貨政策がそれに同調した。

ただ、米国は念願だったインフレ抑制に成功すると、早々に方針を転換。もともと法律家のジェイムズ・ベイカーがリーガンに変わって財務長官に就任すると、双子の赤字(財政赤字と経常赤字)を削減するとため、日本や西ドイツなどとプラザ合意を結び、強いドル政策からドル安政策への劇的な転換が図られた。

表面的には「強いドル政策」は継続し、今日まで明示的に放棄されたことはないが、実態的にはこのプラザ合意をもって、当初の「強いドル政策」は終焉(しゅうえん)したと見るのが適切だろう。

その「強いドル政策」が復活したのが1990年代のクリントン民主党政権(1993─2001年)だ。当初、ロイド・ベンツェン財務長官の下でドル安黙認政策を採っていたクリントン政権だったが、財務長官がウォール・ストリート出身のロバート・ルービンに変わると、ルービンは1995年のワシントンにおける主要7カ国財務相・中銀総裁会議(G7)で「秩序ある反転」を前面に打ち出し、ドル高誘導に転じた。

これら2つの「強いドル政策」を実質金利と実質為替レートの観点(マネタリー・コンディションの観点)からみると、今日の通貨政策を取り巻く金融経済環境との違いが浮き彫りになってくる。

1960年代半ばには2%を下回っていた米国のインフレ率は、71年の金ドル交換停止の前後から劇的に上昇。80年には13%を超えて上昇するに至った。

そのインフレ撲滅のため、カーター民主党政権時に就任したボルカー議長は超金融引締め策を敢行。FF金利を一時的には20%近くまで上昇することを許し、インフレを上回る金利上昇で実質金利を歴史的にも大幅なプラス領域に引き上げた。

その際には長期金利(10年米国債利回り))もインフレ率を上回る15%台に乗せるところまで上昇し、米債投資の魅力が高まった。81年に「強い米国」を標榜するレーガン政権が誕生すると、その高金利に魅せられた海外資金が米国へ流入。急ピッチでの米ドル高が進行した。

実質為替レートも上昇し、実質金利上昇と並んでマネタリー・コンディションはタイト化。米国はインフレ抑制に成功した。インフレ抑制のため実質金利と実質為替レートの双方を上昇させるというマクロ政策が採られたが、強いドル高政策に経済合理性があったということだ。

<変化した強いドル政策>

一方で90年代後半にクリントン政権の下、ルービン財務長官が採った「強いドル政策」は、もう少し複雑だ。この当時、94年にアラン・グリーンスパン議長の下で行われた金融引締めでFF金利は3%から6%へ上昇。10年米国債利回りも5%前後から8%前後まで上昇した。

こうした中でルービンが「強いドル政策」を復活させ、利回り的な魅力を増した米債へ海外からの資金流入を促すことで、長期金利の低下が図られた。その結果、94年に8%前後へ上昇していた10年金利は98年には5%を下回るところまで低下した。マネタリー・コンディション的に解釈するなら、ドル高を甘受することで金利低下を促していったのである。

さて、今日においては世界的にディスインフレ圧力が根強く、金利は歴史的な低水準にまで下がった。ここからの実質金利の大幅な低下は期待し難い状況にあり、景気・インフレ刺激のためにマネタリー・コンディションを緩和するには、実質為替レートの下落が必要だ。

特に米ドルは2010年代前半の通貨高を経て、この数年も高原状態を維持しており、例えば実質実効ドル相場も過去10年平均を大幅に上回っている。逆に言うと、日本円やユーロ、豪ドルの実質実効相場には割安感がある。

国際協調路線を採るバイデン次期政権が強いドル政策を明示的に放棄し、世界的な通貨安戦争の引き金を引くことはないと思われるが、少なくとも米国が強いドル政策を実践するような状況にないことも事実で、各国による通貨安誘導の動きには過敏に反応しよう。

足元ではリスクオン的に全面的な米ドル安が進行しているが、我々は21年もその継続を基本シナリオに据えている。ドル/円は100円を割り込む場面も想定しておきたいと考えている。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています) 

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:田巻一彦

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up