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コラム:住宅バブル問題が急浮上、主要中銀の影の政策目標に=高島修氏

[東京 8日] - 年初来、ドル/円は予想外の反発となり、3月末には110円台に乗せる上昇となった。筆者は1─3月期には107円をめどとした反発局面を迎えると予想していたが、その予想を上回るドル高・円安が進行したことを認めざるとえない。

 4月8日、筆者が最近、感じているのは、住宅バブル問題が水面下で各国中央銀行の金融政策スタンスに影響し始めているのではないかという点だ。写真は完売を告げる住宅の広告、英イングランド南部のバーカムステッドで2013年8月撮影(2021年 ロイター/Eddie Keogh)

だが、我々が国内外の市場参加者のフロー動向を分析したところ、この間、本邦機関投資家から構造的な円買いが入る一方、ヘッジファンドなど海外短期筋は円ショート、米ドルロングを膨らませている。

特に円ショートは2016年11月の米大統領選挙でトランプ前大統領が勝利し、米金利上昇とともにドル高・円安が進んだ時と同じような増加となっている。その後、持ち高調整にけん引されて2017年前半には118円前後から108円前後へとドル/円は反落した。

こうした米金利上昇を要因としたドル/円上昇の揺り戻しが、この4─6月期以降にも生じるのではないかと予想している。半導体不足の影響で低迷している輸出企業のドル売りヘッジも次第に復調してくるだろう。

筆者自身はこの1─3月期の予想外のドル/円反発にかかわらず、1年を通じては、結果的にこの数年来のドル安・円高トレンドが継続していることになるとの中長期ビューを維持している。

<金利上昇の背景とその行方>

今回、筆者を含む多くの市場参加者にとって、予想外のドル高が進んだ1つの理由は米金利の上昇である。例えば、昨年末に0.9%台だった米10年国債利回りは先月末に1.8%近くまで上昇した。

米経済など世界的な景気回復がその背景にあるが、この間、特に原油・資源相場が急ピッチで上昇したことが、インフレのアップサイド・サプライズを生み、米国のみならず世界的に金利上昇を加速させた。米債券市場ではインフレ連動債利回り(実質金利)がマイナス圏で低迷する中、期待インフレ率主体の名目金利上昇となった。

とは言え、先週、OPECプラスが増産(正確には減産幅の縮小)を発表したこともあり、原油価格は伸び悩み始めている。今後、原油・資源相場が大幅に下落することはなく、高原状態を維持したとしても、これまでの原油・資源高のベース効果がはく落するに伴ってインフレ率の押し上げ効果は減退。その結果、金利上昇に歯止めをかけてくることが予想される。金利上昇をメイン・ドライバーとした最近の米ドル高も、変調を来す可能性が出てくるだろう。

この間に興味深かったのが、パウエル議長をはじめとした米連邦準備理事会(FRB)高官が金利上昇を黙認する姿勢を貫いたことだ。誤解いただきたくないが、あくまでもFRB関係者の金融政策スタンスはハト派で徹底されている。

例えば、次期議長や副議長との呼び声もあるブレイナード理事などは、昨年8月に決定された金融政策の長期戦略の変更を引き合いに出し、完全雇用を達成するまでは、多少インフレ率が上振れたとしても金融引き締めは不要だとの考えを繰り返し示している。

ただ、そのブレイナード理事を含めてFRB高官は、最近の金利上昇に関して景気回復に対する市場の期待の表れとの見解で完全に一致しており、特段金利上昇をけん制する発言は行っていない。

<世界的に異なる金利上昇への方針>

対照的なのが欧州中銀(ECB)だ。3月理事会の際、声明文で「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)での資産購入は次の四半期の間、今年最初の数カ月よりも著しく早いペースで行われることが期待される」と明記。金利上昇を抑制する方向へとかじを切った。米金利上昇が続く今年3月の市場で、ドイツなど欧州の長期金利が上昇から横ばい推移に転じる転機となった。

3月に金融政策の検証結果を発表した日銀も、イールドカーブ・コントロール(YCC)で許容する金利変動幅をプラス・マイナス0.25%と声明文に明記した。だが、市場で一時警戒感が強まったようなレンジ幅の目立った拡大は見送り、黒田東彦総裁はYCCの下、長期金利が低位安定することの重要性を強調した。金利上昇を黙認するFRBとは対照的に、日銀とECBは長期金利の上昇を抑制する方針を示したわけだ。

一方、世界にはFRBよりも踏み込んで金融緩和の解除に動き始めた中央銀行もある。その典型例がカナダ中銀である。特に注目されたのが、先月後半のグラベル副総裁の講演であり、住宅市場の熱狂(exuberance)を理由に4月にも資産買い入れの縮小(テーパリング)を開始する意図が示された。

最近、カナダ中銀がよく使うこの住宅市場に関する表現は、1996年にFRBのグリーンスパン議長(当時)が高騰する株式市場をけん制するために行った、かの有名な「根拠なき熱狂」発言に由来すると思われる。

<高まる住宅バブルへの警戒感>

前置きが長くなったが、筆者が最近、感じているのは、住宅バブル問題が水面下で各国中央銀行の金融政策スタンスに影響し始めているのではないかという点だ。

例えば、経済協力開発機構(OECD)が発表している所得に対する住宅価格指数を見ると、昨年末時点で日本が108%に対して、米国は116%、カナダは123%に達している。10年前に比べ、日本が9%上昇しているのに対して、米国は18%、カナダは32%の上昇だ。一方、ユーロ圏は10年前から4%上昇の110%に過ぎない。

ニュージーランドも上昇が著しく、10年前から37%上昇し、昨年末の指数の絶対水準は118%に達した。そのニュージーランドでは、昨年10月の総選挙で圧勝したアーダーン政権が住宅価格の抑制を訴え、3月にはニュージーランド中銀(RBNZ)への権限委託書の中で、金融政策の遂行に当たっては政府の住宅政策を考慮することを求める、という極めて重要な変更を行っている。

隣国のオーストラリアでも住宅価格の上昇が問題となってきているが、OECDの住宅指数は10年前から12%上昇の103%である。オーストラリア中銀(RBA)は3年金利を誘導目標にしたYCCを行っており、今回の金利上昇局面では国債買い入れ額を増やして対応する場面もあった。そのスタンスは日銀やECBに近い。

もちろん、多くの中央銀行は雇用と物価という2つのマンデートを抱えており、住宅など資産価格のコントロールは正式な政策目標ではない。ただ、同じ資産バブルでも株が金融資産であるのに対して、住宅は実物資産であり、その取得に当たっては住宅ローンなど借り入れが必要になることが一般的だ。

その住宅市場でバブルが形成され、その後崩壊することになった場合、2008年のリーマン危機がサブプライム・ローンの焦げ付きから発生したように、金融システムに深刻な影響を及ぼしかねない。雇用と物価というマンデートに加え、金融システムの健全性を維持するという課題を持つ中央銀行にとって、住宅バブルは株価バブルよりも、より真剣に取り組むべき問題なのであろう。

資産バブルへの対処方針には、事前には抑止せず、バブル崩壊後に速やかに対処するとするFEDビューと、中央銀行は事前にバブル抑制を心がけるべきだとするBIS(国際決済銀行)ビューがある。現在、多くの中央銀行はFEDビューに近いところに立ち位置を置くが、2008年のリーマン危機以降、その立ち位置は徐々にBISビューへと移行してきている。足元でもその立ち位置の重要な変化が起こっているのだと思われる。

こうした中で、各国中銀の方向性、それを受けた金利や為替相場、ひいては株式相場の動向を見通すに当たって、住宅価格という要素をより考慮すべき時代に入ってきているのではなかろうか。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

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編集:田巻一彦

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