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コラム:米トリプル安が始まるのか、注目の米株200日線の攻防=高島修氏

[東京 20日] - 年初来、米株は不安定な値動きとなっており、18日はナスダックが200日移動平均線を下回る下げとなった。約2年前のコロナ危機以降の株価上昇局面では初めてのことだ。

 1月20日、年初来、米株は不安定な値動きとなっており、18日はナスダックが200日移動平均線を下回る下げとなった。写真はニューヨーク証券取引所のトレーダー。19日撮影(2022年 ロイター/Brendan McDermid)

実は小型株指数のラッセル2000は昨年12月に200日線を割り込んでおり、昨年11月に付けた高値からは足元にかけては15%近い下げとなってきている。米国の実体経済の減速不安が台頭し、リスクに敏感なところから売られてきている印象だ。

その背景には米金利上昇、つまり米債価格の下落がある。今年11月の中間選挙を控え、インフレ抑制がバイデン政権の政治的な課題となっており、市場ではパウエル議長率いる米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めに対する警戒感が高まっている。

こうした中で25、26日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)において、次回3月会合での利上げ開始の方針を示すのではないかとの見方が有力となっており、しかも一部では0.5%の利上げになるのではないかとの見方が台頭。最近の米金利上昇(米債下落)と米株安の底流を形づくっていた。

こうした中で年初、116円台に上昇して始まったドル/円は米金利上昇にドル高で反応できず、値崩れ感が出てきている。

この米ドル安が対ユーロなどにも広がってくると、米国市場は米債、米株、米ドルの「トリプル安」の商状を呈することになる。こうした米トリプル安の具体的なリスクは、どれぐらい高まっているのであろうか。

<基本シナリオとリスクシナリオ>

結論を先取りすると、そのリスクは年内を展望した中長期的な観点では高まっているものの、短期的にはまだ、がい然性の高いリスクにはなっていないと筆者は考えている。その理由を説明する前に、ここではまず、筆者の今年のドル/円相場観を示すことにしたい。

2022年の基本シナリオは昨年に引き続き、当面は米ドル高基調が継続する可能性が高いとの想定だ。だが、それでもドル/円の上値余地は比較的限られており、また、リスクシナリオとして米株反落時などに、ドル反落が対円で強く表面化する可能性を同時に念頭に置いて警戒しておきたいと考えている。

ドル/円は年間を通じて118円台への上振れを見込んでおり、基本シナリオで想定されるレンジ下限は110円前後と考えている。

ただ、仮にリスクシナリオに転じた場合には108円前後、場合によっては105円前後への下落となってもおかしくないとにらんでいる。その意味で2022年は、基本シナリオとリスクシナリオの切り替えを例年に比べて柔軟に行うべきだと考えている。

<積み上がるドル買いと円売り>

このように考えている最大の理由は、ポジション調整のリスクだ。米株と米ドルは約2年前のコロナ危機からの回復局面で米株高と米ドル安が同時進行したことに象徴されるように、通常は逆相関の関係にある。

ただ、昨年半ばごろからは米株高の中で米ドル高が進むようになり、コロナ危機後のリスクオン的な米ドル安がリスクオン的な米ドル高へと変貌した。言うまでもなく、その間、米金利上昇が米ドル高を支えたことが大きかったが、その米金利上昇と米ドル高を米株が耐え切ることができたことで米株高、米ドル高が演出されることになった。

ただし、シティグループの通貨ストラテジーチームが独自に国内外の需給環境を集計し、指数化しているフロー・インデックスを見ると、日本国内外の長期投資家(リアルマネー投資家)による累積的な米ドル買い、その反面での円売りとユーロ売りが膨らんできたことがうかがえる。

一方で、ヘッジファンドなど短期筋の動向を見ると、累積的な円売りが膨らんできた。200日累積で見ると、我々のフロー・インデックス上、過去にはこれほどまでに米ドル買いと円売りが同時に溜まったことはない。潜在的な持高調整圧力はドル/円が120円前後から100円前後への下落となった2016年前半を上回るのではないかと分析している。

もちろん、リアルマネー投資家の米ドル買いがキャッシュを使った新規のドル建て資産投資であれば、さほど持高調整的なドル売りを警戒する必要はない。

だが、米国の公式な証券投資統計を見ると、昨年後半以降、海外からの対米投資が急激に減少してきていることが分かる。我々のフロー・インデックスで示唆されている長期投資家による米ドル買いは新規のドル資産投資と言うよりは、何らかのヘッジ取引を反映している可能性が高い。

筆者が察するに、上昇を続ける米株が将来、調整反落した時に生じうる潜在的な損失を相殺するために、そのヘッジ取引として、為替市場で彼らが米ドルのロング・ポジションを造成しているのではないかと思われる。

これが上述したように、筆者がポジション調整のリスクを強く警戒し、2022年は基本シナリオとリスクシナリオの切り替えを柔軟に行うべきだと考えている理由である。

通常は米国など先進国マーケットにおいて、トリプル安はそうそう起こるものではない。金利上昇(債券安)は通貨高を招くことが多く、特に金利上昇が株安を招く場合は、年金など長期の機関投資家によるリバランスと呼ばれる投資ポートフォリオの入れ替えが行われる。その結果、下落したその国の株式を購入する動きが強まり、当該国通貨は買われやすくなるからだ。

<米トリプル安、トリガーは長期金利上昇か>

だが、上記のようなリアルマネー投資家の米ドル買いポジションの大きさを考えると、現在の米国マーケットは潜在的にトリプル安が発生しうる、通常とは異なる特殊な状況にあると思われる。とは言え、実はこうしたポジション調整によるドル/円反落は昨年後半来、筆者が警戒し続づけてきたリスクであるが、現在までのところは実現してこなかった。

緩和的な金融環境に米国など各国の給付金など財政刺激策による実体経済への資金注入、さらにそれを受けたマネーサプライの増加が加わって、市場の流動性環境はかつてなかったほど深みを増している。多少のショックでは本格的なポジション調整は発生しにくくなっているからであろう。

例えば昨年、S&P500指数は何度かすう勢的なサポートとなっていた50日線を割り込み、100日線まで調整下落したことがあったが、それでもドル/円の上昇トレンドは崩れなかった。

この経験を踏まえると、上記のようなリスクシナリオが実現し、持高解消の動きからドル/円に強い下落圧力が加わるようになるには、米株が200日線を割り込んで下落するような、昨年にはなかったようなリスク回避的な変化が必要になってくるだろう。

この観点では、冒頭に書いたように、ナスダックが18日、200日線を割り込んで値崩れしきたのは注意すべき新しい変化だ。だが、S&P500指数はまだ、昨年と同じように100日線で踏みとどまっており、本格的な調整局面に入ったわけではない。

米ドルも金利上昇を好感できずに対円では下落し、気になる値動きになってきているものの、対ユーロではまだ買われており、米ドル・ロングを蓄積し続けている模様だ。その分、来るべき調整局面はより深刻になるだろうが、現段階ではポジション調整が発生せず、持ち高が溜まり続けているとい事実の方を尊重すべきだろう。

米株が押し目なく上昇を続けてきたことで、それに絡んで様々なヘッジ操作が行われ、株式市場、金利、為替相場の相関が今までに経験したことのないような関係を示し、この1年あまりの相場予測を従来にも増して困難にしてきた。

米株が次第に調整色を強めてきていることは、その間にヘッジ操作に絡んで蓄積したポジション調整が発生する可能性が高まってきていることを暗示する。

歴史的に過去、2001年のITバブル崩壊や2008年のリーマン危機、2年前のコロナ危機のように、米株は米10年国債利回りが過去10年平均を上回ってくると、200日線を割り込んで調整してきた経緯がある。

その米10年国債利回りの10年平均は現在、2%前後のところに位置しており、米株市場が次第に上値の重い展開となってきていることと整合的だ。

ただ、米10年国債利回りの2%台乗せは米株調整の十分条件と言うよりは必要条件に過ぎず、今はまだその必要条件さえも満たしていないとも言える。対円のみならず、対ユーロを含めた全般的な米ドル安が蓄積されたロング・ポジションの解消を伴いながら進行し始めるには、もうしばらくの米金利上昇とそれに伴う米ドル高の局面を経る必要があるのではないか。

足元のドル/円で言えば、112円前後は割り込むことなく底入れに向かい、春先にかけては年初に付けた116円台の高値を更新。2016年12月の118円台の高値をレジスタンスに上値を試す可能性があるのではないかと考えている。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

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