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コラム:ポストコロナ時代は長期ドル安か、財政支配が変える通貨価値=高島修氏

[東京 9日] - ドル/円は1─3月期の反発で110円台に乗せた。年末年始の時点で我々は1─3月期に106─107円台への反発と予想していたが、それを大きく上回るドル高・円安が進行し、年後半には100円に迫るドル/円下落になるという我々の中期シナリオには、イエローランプが点灯している。

 ドル/円は1─3月期の反発で110円台に乗せた。年末年始の時点で我々は1─3月期に106─107円台への反発と予想していたが、それを大きく上回るドル高・円安が進行し、年後半には100円に迫るドル/円下落になるという我々の中期シナリオには、イエローランプが点灯している。高島修氏のコラム。2020年11月撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

この間、原油・資源高の中、インフレへの警戒感で進んだ米金利上昇が全般的な米ドル高を演出した。昨年8月に0.5%台まで低下した米10年国債利回りは今年3月には1.8%に迫る上昇となった。

ここで注目すべきは、ユーロ/ドルの調整がこれほどの米金利上昇が生じたにもかかわらず、昨春以降の上げ幅38.2%押し(1.17ドル前後)までにとどまったことである。ドル/円だけを見ていると全体感を見誤るが、1─3月の米ドル高の中で我々が感じなければならなかったことは、相対的な米ドルの値動きの弱さである。

この後で述べるように、それは米国による金融財政政策など大規模なマクロ政策の発動を考慮すれば、自然なことだと思われ、米ドルが新型コロナウイルス危機が起こった2020年以降、長期的な下落トレンドに入ったとの我々の見方とも整合的だと考える。

ドル/円に関しても、年後半に全体的な米ドル安に伴い、下値を試す流れに復帰する可能性が高いとの見方を維持したい。

<小さな政府から大きな政府への回帰>

ここで大局観として認識すべきは、コロナ危機を経て、1980年代のレーガン・サッチャー革命以降に支配的なイデオロギーであった新自由主義の下で目指されてきた「小さな政府」から、それ以前の「大きな政府」への揺り戻しが始まっていることではないかと思う。

このことはトランプ政権(共和党)下で既に拡張的だった財政政策が、バイデン政権(民主党)となった後も修正されるどころか、一段と強化されていることに象徴される。左派政党の米民主党や英労働党はクリントン、ブレア時代に採用した「ニューレイバー路線」の修正に動いている。筆者が見るところ、恐らくその背景にあるのは、次の3つの要因だ。

1つ目は2016年の米大統領選とブレグジット国民投票でのトランプ前大統領、ジョンソン現首相の成功で、左派政党が伝統的な支持層である労働者層の離反に歯止めをかける必要に迫られたことだ。

2つ目は金融政策がその限界に直面し、マクロ経済政策で財政政策に頼らざるをえない状況に陥ったことである。新自由主義の下、経済学の領域で主流派の立場を占めることになったのはニューケインジアン・アプローチだが、経済的な問題の解決に関しては中央銀行の金融政策を重視し、相対的に財政政策の活用には懐疑的だった。だが、日本のみならず、世界各国の中央銀行がゼロ金利制約に直面し、金融政策の有効性が乏しくなる中、財政政策の発動に頼らざるをえない状況となった。

2019年春に発表した論文で、オリビエ・ブランシャール元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストは「名目金利が名目成長率を下回る経済では、財政政策の有効性が高い」と主張したが、この経済学の潮流変化を示す象徴的な発言だったと思われる。

3つ目の要素は、過去20年間の中国の経済的な成功だろう。戦後のソ連が一見、成功を収めたかに見えていた時、西側諸国が取ったアプローチは混合経済だった。当時の有力な経済学者だったポール・サミュエルソン氏は、遅くとも1990年代終盤までにはソ連経済は米国経済を追い抜くと予想した。国家の機能に対する信頼が高まっていた時期であり、米国のジョンソン政権(民主党)が掲げた「偉大なる社会」のように、米国のみならず世界的にも大きな政府が志向された。

その後、1980年代のレーガン・サッチャー革命、それに続いたソ連崩壊と東西冷戦の終結を受けて、小さな政府が志向されるようになったが、次第に米国など先進国経済の成長率は低迷するようになり、2008年にはリーマン危機を経験した。この間、驚異的な成長を遂げたのが共産主義の中国経済であり、西側諸国でも新自由主義的な自由放任主義と国家による経済管理のバランスを取ることの重要性が意識されるようになってきたのだろう。この状況は、戦後にソ連の成功が西側諸国で混合経済を生んだ時との類似性を指摘できる。

<金融ドミナンスから財政ドミナンスへ>

このような小さな政府から大きな政府への転向が始まる中、あくまでも長期的な潮流変化だが、経済政策の領域では金融ドミナンス(金融政策が主体的に動く政策)から財政ドミナンス(財政政策が主体的に動く政策)への移行が始まっているのかもしれないと、我々は察している。

基本的な考え方としては、財政政策がリカーディアン型(増税などで将来の収支均衡を目指す政策類型)で、高い規律を有している時には、経済政策における主導権は金融政策が握り、物価への影響力も大きくなる。

一方、本来はテーラールールに象徴されるヴィクセル・レジーム(自然利子率と市場金利との関係で政策を判断する仕組み)で、能動的に動いているはずの金融政策がゼロ金利政策に直面するなどして、その効力を失い、非ヴィクセル・レジームに陥ると、財政政策の物価ひいては通貨価値に及ぼす影響は大きくなる。今回のように財政政策が新型コロナ危機対応で能動的に動き始め、財政規律が弱まった非リカーディアン型となっている場合はなおさらだ。

大きな政府への回帰に伴って、財政政策が大規模化する傾向が強まるのがポスト・パンデミック時代であるならば、同時にそれが通貨価値、さらには為替レートに与える影響も大きくなると言うのが、我々の基本的な考え方だ。

<ポスト・パンデミックの通貨価値>

このような金融ドミナンスから財政ドミナンスへの移行が進む中では、長期金利の上昇は、従来にも増して財政やインフレのリスクプレミアムの織り込みが大きくなってくるだろう。実際、今年の米金利上昇は原油・資源高を背景とする期待インフレ率(BEI)の上昇にけん引され、実質金利(インフレ連動債利回り)は大幅なマイナス圏で低迷を続けている。こうした中では名目金利上昇による通貨押し上げ効果は、従来よりもその持続性は乏しくなるだろう。

しかも、金融政策よりも実体経済の需要の変化を直接的にもたらす財政政策は、輸入増加などを通じて貿易収支を悪化させ、国際収支面から通貨安圧力を高めることにつがる。世界の中でも先行する米国のインフレと貿易収支の悪化は、素直に考えればドル安要因だ。

もちろん、その時々の市場は本質論とは関係のないところで変化する。今年1─3月期は米金利上昇、つまり米金利の予想外の方向的な変化がポジション調整など通じてドル高的に作用した。

だが、4月以降はその金利上昇に一巡感があり、2週間前は米連邦準備理事会(FRB)のクラリダ副議長がテーパリングの可能性に言及したにもかかわらず、米金利の反応が限られた。1─3月期の金利上昇で米債市場が相当な景気回復とインフレリスクを織り込んだことをうかがわわせる。

我々は、米金利の絶対水準の形状が問題になってくるとにらんでいる。つまり、長期金利上昇を経てスティープ化した米国のイールドカーブは、ヘッジ需要に伴う米ドル売りを誘発しやすくなるであろう。折しも米国の貿易赤字は過去最大を更新して拡大を始めている。米国の金融財政政策の大胆な発動が、その本質的な通貨安圧力を生む局面へ向かっていると我々は考えている。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

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