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コラム:不透明なトランプ時代、日本にできること=加藤隆俊氏
2017年5月26日 / 02:55 / 6ヶ月後

コラム:不透明なトランプ時代、日本にできること=加藤隆俊氏

[東京 26日] - 変動相場制移行後の40数年間を振り返って、日本の安全保障を巡る国際情勢の先行き展開がこれほどまでに不安定さを増し、懸念される状況はなかったのではないか。

あえて挙げれば、第4次中東戦争を契機とした1973年の第1次オイルショックである。当時は石油輸入遮断の日本経済への悪影響が深刻に憂慮されたものの、日本の安全保障が物理的に脅かされるとの懸念を要する事態ではなかった。

現在の不安の大本はもちろん北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の出方が読めないことだが、トランプ米政権の北朝鮮対応のボトムライン(落としどころ)がつかみにくいこともある。

万が一の事態では、米軍の出撃や後方支援の拠点になる日本も、紛争に直接的に巻き込まれる可能性は決して低くない。いたずらに不安をかき立てるとの批判は承知の上で、東日本大震災時の対応などを参考にして、コンティンジェンシー・プラン(不測の事態に備える緊急対応策)の細部を各々の立場でいま一度確認をしておく必要があろう。

<米経済の腰折れリスク>

さて、トランプ政権を巡る不透明性は、改めて言うまでもなく、経済分野においても高い。就任100日目直前の4月26日には法人税や個人所得税の減税などを柱とする税制改革案の概要を駆け込みで公表したが、財源などの詳細を欠くことから、そのまま実現するとは政権側も恐らくは思っていないだろう。

ましてや、仮にトランプ政権とロシアとの関係を巡る疑惑が深まるような新たな材料が出た場合には、経済政策に関する議会の審議が大幅に遅れる恐れもある。ロシア問題(米大統領選を巡るトランプ陣営とロシア側との共謀の有無)の独立捜査を指揮する特別検察官が任命されたことを考えると、そうしたリスクシナリオへの警戒が一段と必要になってきたと言えよう。

足元の米経済データに関しては、1―3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率換算で0.7%増まで落ち込む一方、4月の消費者物価の伸び率は予想を下回り、小売り関連でも弱い指標が出始めている。米景気拡大は今年6月で9年目に入る。経験則(戦後の平均拡大期は5年弱)に照らせば、政権が掲げる3%成長目標実現へのハードルは高い。

米連邦準備理事会(FRB)としては、景気後退時の利下げの糊代(のりしろ)として、何としても年内にあと2回の利上げは行っておきたいのではないか。最悪のシナリオは、ロシア疑惑などを巡るトランプ政権の「オウンゴール」が企業や消費者のマインドを予想以上に冷え込ませ、追加利上げもできず、そのまま来秋の中間選挙に向けて「政治の季節」に入ってしまうことではないだろうか。

<日本の役割は重要>

心配なのは、トランプ政権が、議会との関係で目に見えた成果をあげられない内政面での失地挽回を外政面で図ろうとして、大統領の権限で政策イニシアティブを発揮できる安全保障面、例えばシリアへの限定的巡航ミサイル攻撃のように、短絡的に行動を起こすことである。さらには、政権発足当初から懸念されていた通り、保護貿易主義路線をひた走ってしまうことだ。

目下のところ、口ではいろいろと言ったものの、中国の為替操作国認定も関税引き上げも見送っている。1―3月期の米貿易統計を見ても、米中間貿易は輸出入ともに伸びており、保護主義懸念は行き過ぎとの声もある。

ただし、環太平洋連携協定(TPP)離脱で示された通り、あれだけの労苦と時間を費やしてまとめたものを、一遍の大統領令で反故(ほご)にしてしまった政権であることを忘れてはならない。万が一、米国が世界貿易機関(WTO)から脱退するようなことが起これば、世界経済のガバナンスシステム修復は難しくなる。日本を含めて主要国は、米国がそのような行動に走らないように、結束して説得に当たる必要がある。

日本は、自由貿易体制堅持の戦略的価値を共有する主要7カ国(G7)の欧州メンバー諸国、その中でもとりわけ独仏との協働を心掛けるべきである。

5月初めにはアジア開発銀行(ADB)50周年記念総会(横浜開催)がADB史上最大の参加者を得て好評裏に終了した。アジアからの参加者からすれば、経済取引・言論・情報の自由など、これらの国々が目指すべき経済社会の1つの理想形を日本が提供しているのではないか。

東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国からの訪日者のリピーターも少なくないと聞く。日本としては、こうしたモメンタムを活用してASEAN企業・金融機関との協力の範囲を拡大するよう努めるべきではないか。

<AIIB加盟は得策か>

アジア経済の統合深化に関して言い添えれば、日本が主導的に果たせる役割は大きいはずだ。先日、ASEAN加盟国の中銀関係者に会った際に、日本との間で、米ドルを介さない直接為替取引の拡充を図りたいとの意向を聞いた。

ASEAN通貨の多くは米ドルに対して同じような動きとなる傾向があり、域内通貨間でのボラティリティーは低い。そのため、タイ・バーツやマレーシア・リンギ、シンガポール・ドルなどはすでに米ドルや中国人民元を介さない直接交換が可能になっている。完全変動相場制の日本円の場合、ASEAN通貨とのボラティリティーは低くないが、同地に進出している邦銀や日系企業のビジネスニーズを考えれば、直接為替取引の拡充は検討に値するだろう。

同様に、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)との関係についても、改めて是々非々で再検討を試みるのも、タイミングとしてはいいだろう。

日本はこれまで米国と二人三脚でADBを中心に域内のインフラ開発事業に携わってきたが、トランプ政権下でADB増資の行方は不透明になっている。ADBは、今後数年間はギアリングレシオ(負債比率)の天井の制約を受けることはなさそうである。しかし、域内インフラ需要に応えていくためには、ADB・AIIBの戦略的提携は、アジア諸国も期待しているところと思われる。

日本のAIIB加盟に関しては、欧州勢と組んでAIIBの意思決定上、重要な影響力を行使できるためには、日本は2000億円前後の出資金が必要となるのではないだろうか。日中間に横たわる歴史問題の壁を考えた場合、日本のAIIB加盟によってどのような具体的な便益、例えば中国市場における米国企業・金融セクター並みの待遇が期待できそうか具体的な瀬踏みを行うべきではないか。

*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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