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コラム

コラム:ロシア侵攻でインフレ加速・長期化へ、岸田政権に覚悟はあるか

[東京 25日 ロイター] - ロシアのウクライナ侵攻で、世界のパワーバランスが大きく揺らいでいる。同時に世界の経済システムも大きな圧力を受けて、新たな変化が生じ始めた。それは、世界的なインフレの加速と長期化だ。

 2月25日、ロシアのウクライナ侵攻で、世界のパワーバランスが大きく揺らいでいる。写真はウクライナ国旗とロシア国旗、24日撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

長らくデフレ的経済に慣れてインフレへの対応力がぜい弱な日本に、大きな試練がやってくることになる。「平時モード」の岸田文雄政権は、第3次石油危機とも言える非常事態に対応する覚悟があるのだろうか。その力量は直ちに試されるだろう。

<意外と小規模なロシアGDP>

ロシア軍のウクライナ侵攻に対し、米国や欧州連合(EU)、日本などの西側諸国は強い非難と経済制裁の発動を公表したが、ロシア軍の侵攻が止まる気配はない。軍事専門家の一部では、首都キエフをロシア軍が占領し、親ロシア政権を樹立するのがプーチン・ロシア大統領の戦略目的ではないかとの見方が出ている。

仮にそのケースが現実化した場合、米欧日からの経済制裁は格段に強化され、実施期間も長期化することが予想される。「経済制裁は有効性が低い」との指摘が軍事専門家の中から出てくることが多いが、今回は意外に効くかもしれない。

ロイターは24日、ロシア産石油の購入を巡り、西側諸国の銀行が信用状(L/C)の発行を断ったと報道した。この動きが広がれば、ロシアは貿易金融に支障をきたし、石油販売代金の回収が難しくなる可能性が高まる。そもそもロシアの国内総生産(GDP)は2020年で1兆4700億ドル程度と、韓国の1兆6300億ドルを下回って世界で11番目。大国のイメージとは異なって「兵糧攻め」には弱い経済構造となっている。

<原油と同時に上がる小麦や希少金属>

ただ、経済制裁の効果が発揮されるまでには、かなりの時間がかかる。このため西側諸国の制裁は1年を超える可能性がある。その際に問題になるのは、まず、原油価格の高騰だ。

25日の北海ブレント先物は1.99ドル(2%)高の1バレル=101.07ドル。米WTI先物CLc1>は1.89ドル(2%)高の同94.70ドルと上昇中。ブレント先物は24日、2014年以来初めて100ドルを突破していた。欧米投資銀の中には、1バレル=120ドルから150ドルまで上昇するとの予測を公表しているところもある。経済制裁の長期化は、原油価格の高騰が長期化する可能性を強く示唆する現象だ。

また、小麦やトウモロコシなどの生産・輸出の減少にもつながると予想されている。2019年の小麦世界生産を見ると、3位がロシアで7445万トン、7位がウクライナの2837万トン。世界生産の約3割を占めており、輸出ができなくなれば小麦価格の高騰に直結する。2019年の飼料作物のトウモロコシの輸出では、4位のウクライナのシェアが13.3%。8位のロシアが1.3%となっており、牛肉価格の大幅上昇につながる恐れがある。

値上がり懸念は、食料関連だけではない。電気自動車(EV)のバッテリーの原料となるニッケル生産でロシアは世界4位のシェアを持っている。半導体生産に欠かせないパラジウムもロシアが主要生産国であり、これらの鉱物輸出が滞る事態になれば、鉱物価格の値上がりや品不足、EVや半導体の生産停滞につながりかねないインパクトをはらんでいる。

このように世界的な価格押し上げ要因が目白押しであり、インフレは減速する兆しを見せず、加速する方向で推移すると予想する。

実際、米リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は24日、ロシアによるウクライナ侵攻は、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ方針の背景となる論理的裏付けを変えることはないとの見解を表明。ロシア侵攻後に他のFRB幹部からも金融引き締めスタンスの維持が必要との声が出ている。

<日本にも波及しそうなインフレの政治問題化>

このインフレ加速の流れは、当然、日本にも押し寄せてくる。2月の東京都区部CPIの総合指数は前年同月比1.0%上昇で2年2カ月ぶりの高い伸びとなった。携帯電話料金の引き下げ効果分のマイナス1.1%がなければ、2.1%となっていた。エネルギーだけでなく、食料の値上げ幅もじりじりと拡大しており、すでに公表されている調理食品の値上げなどを勘案すると、4月以降に全国CPIで総合指数が2%に達する可能性が高まっている。

また、原油価格の値上がりが一段と高まって1バレル=100ドルから120ドル方向に上昇すれば、コアCPI(除く生鮮食品)でも4─6月のどこかで2%に達する展開があると筆者は予想する。

この時、ウクライナ問題は多くの国民にとって、ガソリンや食料品など「必需品の値上げ」と映るのではないか。政府は1リットル当たり5円の補助金を25円に引き上げる検討を始めたと複数の国内メディアが報道しているが、夏の参院選を前に「政治問題化」する危険性をかぎつけ、ようやく対応に動き出したとように見える。

しかし、岸田政権のこれまでの対応は「平時」との認識に基づいていたと筆者には見えた。ガソリンや食品の値上げが一時的であれば、平時の対応でもよいだろう。だが、原油価格の上昇は、加速化と長期化が同時にやってくる公算が大きい。

さらに脱炭素化の流れの影響で、原油増産の設備投資に欧米の金融機関は融資が事実上、できなくなっている。資金調達が難しい増産投資が進ちょくしないのは当然と言える。需要超過の状況が短期間に改善する構造にはなっておらず、原油価格の上昇を日本は甘受せざるを得ない。

<必要な経済危機宣言>

この状況は、第1次や第2次石油危機に匹敵する第3次石油危機と言っていいほどの緊急事態である。まして日本は原油だけでなく、その他の鉱物資源も輸入に頼り、原材料の高騰は交易条件の悪化に直結し、国内総生産(GDP)を押し下げる。

経済的に危機的な緊急事態であれば、政府がその認識を宣言し、対応策を打つべきだ。コストプッシュ型の「悪い物価上昇」に打つ手は限られる。原材料高による収益悪化を見越した大手企業は、岸田政権の提唱する3%の賃上げに背を向けようとしているとの見方も、一部でささやかれている。賃上げの挫折と物価高の進展は、国民生活にとっては最悪のシナリオだ。賃上げを強力に呼びかけるとともに、新たな支援策の策定がいずれ必要になるだろう。岸田首相に経済的危機への強力な対応を求めたい。

●背景となるニュース

・ 原油先物、一時2ドル高 ウクライナ情勢巡る供給懸念で

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