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コラム

コラム:コロナ抑止と景気浮揚、迷走する岸田政権に求心力低下の横風

[東京 24日 ロイター] - 岸田文雄政権が新型コロナウイルスの感染者増加と経済再浮揚との間で、板挟みの格好となっている。24日の岸田首相の政策表明では、入国者数の上限引き上げなどの「目玉策」は出なかった。優先する政策は何かをはっきり示さなかったことで、岸田政権の迷走ぶりが際立ったと言える。世界経済の減速が年末に向けて鮮明になる中で、決められない政治が継続すれば、日本経済の失速が現実化しかねない。

 8月24日、 岸田文雄政権が新型コロナウイルスの感染者増加と経済再浮揚との間で、板挟みの格好となっている。都内で7月撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

<明示されなかった入国数上限の引き上げ>

コロナに感染した岸田首相が24日午後1時半から記者の取材に応じることになって、コロナ対応を巡って何を決断したのか、注目度は高まっていた。だが、出てきたのは、ワクチンを3回接種済みの入国者に対し、9月7日から出国前72時間以内の陰性証明の提出を免除することや、コロナ感染者の全数把握について全国一律ではなく各自治体の判断で見直しを行うことなどが表明されただけだった。

1日当たりの入国者数の上限を2万人から引き上げることに関しては「検疫体制の整備を進め、感染状況を踏まえて速やかに公表したい」と述べるにとどまった。速やかに公表とはいつなのか、引き上げ上限は何万人になるのかには全く言及がなかった。

複数の国内メディアは5万人に引き上げると報道していただけに、国際的なビジネス再開を期待する経済界や、インバウンド復活によってV字回復を目指している観光業界からは、落胆の声が上ったのではないか。

<令和の鎖国、短期滞在にビザ取得義務>

もともと岸田首相が自ら8月10日の会見で「他の主要7カ国(G7)諸国並みに円滑な入国が可能となるよう緩和の方向で進めていきたい」と述べていた。経済界からは、コロナ以前のように、短期滞在の外国人へのビザ取得を義務付けるルールの撤廃が強く求められていた。このルールを維持しているのは、G7では日本だけだからだ。

また、1日当たり2万人の入国者数の上限設定も海外からのビジネス、旅行需要にとって大きな障害になっていた。

その結果、2022年7月の訪日外国人客数は19年7月比95.2%減の14万4500人にとどまっている。「令和の鎖国」が経済に及ぼす悪影響に対し、幅広い方面からの危機感が官邸に伝わり、8月10日の岸田首相の会見につながったはずだ。しかし、2週間が経過しても、大きな進展がないのはどうしたことか。

<回復しない国内旅行数>

スピードアップした政策対応がなければ、日本経済は失速しかねないピンチに立たされているとの自覚が、もしかして岸田首相やその周辺には足りないのかもしれない。

3年ぶりに行動規制がなかった今年の旧盆休暇の人の動きは、コロナ前の水準には遠く及ばなかった。JR東日本によると、8月10日から17日までの新幹線・特急の利用者は237万4000人と2018年比で59%にとどまった。8月6日から16日までの日本航空の総旅客数は国内線が前年比206.9%、国際線が同457.5%だった。しかし、19年比では、それぞれ86.0%、41.2%にとどまった。

海外からの訪問客なしで旅行、宿泊、レジャー、交通などのサービス消費を増やすことは、とても難しい現状と言える。だから、水際規制の早急な緩和が必要なのだ。

<高水準のコロナ感染者数>

一方で、国内におけるコロナ感染者は減少の兆しが見えず、全国の感染者数は20万人台で推移し、死者数は23日に過去最多の343人となった。「国民の生命の安全を揺るがせにするのか」「過酷な医療現場を見捨てるのか」という声も官邸に届いており、コロナ感染の抑制と経済支援との狭間で、岸田政権が苦悩していると思われる。

しかし、何が優先なのかは岸田首相が判断するしかない。判断したらその理由を明快に説明して、国民の理解を得るのがリーダーシップの王道だろう。

<支持率と求心力の低下>

ところが、 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と岸田内閣の閣僚、自民党役員との密接な関係が相次いで報道され、内閣改造後の世論調査では岸田政権の支持率が大幅に低下。岸田首相の求心力低下がささやかれ出した。

他方、世界経済は大幅利上げで米経済の先行きが懸念され、欧州経済はウクライナ戦争による打撃で失速が現実化してきた。今年後半の世界経済は、日本がこれまで得意としてきた輸出で稼ぐ外部環境ではなくなっている。

国内経済は7月の景気ウォッチャー調査が大幅に悪化したことに見られるとおり、街角における景況感が悪化してきた。その大きな要因は、日本にも波及したインフレの波だろう。賃金や消費の実質値を算出する際に使用する持ち家の帰属家賃を除いた消費者物価総合は、7月に前年比3.1%増となった。外貨建て資産を持たない勤労者にとっては、実質購買力が3%低下するわけで、個人消費にとっては脅威だ。

経済的な危機と言ってもいい状況に直面している日本にとって、何が最優先されるべき政策なのか──。それを的確に示し、国民を安心させるのが首相の果たす大きな役割のはずだが、24日の会見を見ていると、懸案の先送り感がどうしても否めない。

岸田首相らしい真摯(しんし)な議論の積み重ねによる危機対応策が示されれば、支持率は回復するかもしれない。しかし、今のところはその兆しが感じられない。

●背景となるニュース

・UPDATE 1-岸田首相、コロナ水際対策緩和を表明 入国者上限は「速やかに公表」

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