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コラム:賢明だった日銀の政策維持、景気拡大は企業の決断に
March 15, 2016 / 10:41 AM / 2 years ago

コラム:賢明だった日銀の政策維持、景気拡大は企業の決断に

田巻 一彦

 3月15日、日銀は、現行のマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策(QQE)を維持した。これは賢明な判断だったと考える。名古屋で2013年7月撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 15日 ロイター] - 日銀は15日、現行のマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策(QQE)を維持した。これは賢明な判断だったと考える。金融面からのサポートは強力に実行されており、景気拡大のカギは企業が握っている。企業が設備投資や賃上げに動き出さない限り、経済の好循環メカニズムは回らない。

いつまでも金融緩和頼みでリスクを取らないなら、日本の潜在成長率がマイナスに転落する日が、そう遠くない時期に到来するかも知れない。

<マイナス金利効果、見極めが必要>

日銀が追加緩和を見送ったのは、極めて適切な対応だった。市場の一部には、3月期期末を前に、追加緩和があれば株価が上昇し、安心感が広がってその先の株高観測が高まるとの期待感があった。  

だが、黒田総裁が15日の会見で述べたように、日本で初めてのマイナス金利には様々な意見が噴出。「金融機関からの評判はかなり悪く、その見方が取引企業に伝播する動きもあった」(国内金融関係者)との見方もある。

評価が定まり、一定の効果がだれの目にも明らかになるには時間がかかる。追加緩和が必要かどうかを判断するのは、それからでも遅くないと日銀は判断したのであれば、それは極めて「真っ当な」スタンスだと思う。

<新興国減速、変わる世界経済の構造>

2008年9月のリーマンショック以来、米欧日をはじめ世界の主要な中銀は、超金融緩和の道をばく進した。非伝統的手段として量的緩和政策も採用し、国債を筆頭に各種の金融資産を購入。その甲斐があって「百年に一度」の世界的危機は、恐慌に陥ることなく収束したかに見えた。

だが、世界の需要不足は明らかだ。日銀の黒田総裁もこの日の会見で指摘したように、2000年から10年ごろまでの世界経済をリードしてきた新興国の景気減速が、足元で顕著になっている。

先進国の成長率が高めに推移していると言っても、2%台の伸びがせいぜいであり、新興国の減速が長期化するなら、世界経済の成長率は足元の3%前半から3%ギリギリか、それを割り込むような低迷に直面することも否定できない。

<注目されるラジャン・インド中銀総裁の提案>

この大きな構造的変化を前に、財政・金融のカンフル剤を打ち続けるだけで果たして本質的なマクロ経済政策と言えるのかどうか。この辺で立ち止まり、真剣に考え直すことも必要なのではないか。

その意味で、インド準備銀行のラジャン総裁が12日、世界の中銀に対し、現在の非伝統的政策も含めた政策措置の広範な影響について評価するシステムを採用するよう呼びかけたのは、極めて重要な動きであると指摘したい。

ラジャン総裁は、金融政策の波及効果について、学者らも参加して評価し、その度合いを青・黄・赤の信号システムで示すことを提案した。

こういう「大ぶり」の提案を真正面から受け止める機運が、先進国の政策当局者には弱いが、年初からの予想外の市場変動に揺さぶられている現状は、金融政策を取り巻く環境を含め、全体状況を見直す絶好のチャンスでもあるはずだ。

<ベア半減と積み上がる手元資金、日本企業の退嬰ぶり>

そこで私が指摘したいのは、日本の企業経営者の「退嬰ぶり」だ。日銀は批判を受けつつもマイナス金利を採用する決断をしたが、企業サイドにそれだけの勇気を持って、新しい分野に挑戦する気概が低下している。

政府・日銀は最近、企業業績は過去最高水準であることを強調する。しかし、あす16日に集中回答日を迎える春闘では、昨年のベースアップ水準を維持することは到底無理な状況だ。大手企業のベア回答水準は、軒並み昨年比50%かそれ以下になりそうだ。

「世界経済の不透明さ」を理由を挙げる企業が多数だが、積み上げた手元流動性355兆円(2015年10─12月期の法人企業統計ベース)という数字が、経営者の後ろ向きなスタンスを明確に示している。

1─3月期の法人企業統計における企業の手元流動性が355兆円を大きく上回っていた場合、日銀がマイナス金利に込めた経済活性化の決意は、企業サイドには十分伝わっていないことの明確な証拠になるだろう。

<求められる戦略分野への積極投資>

日本企業が、最先端の米国企業に後れを取っている典型的な分野が、人工知能(AI)だと言われている。

最近、注目されたのは人工知能(AI)開発会社・ディープマインドが開発した囲碁のAI「アルファ碁」が、韓国のプロ棋士・李世ドル(イ・セドル)九段(33)を4勝1敗で破った五番勝負だった。

AIがプロに勝つのは困難と長く言われてきたが、米グーグル傘下のディープマインドは、その難関を突破するソフトを開発。この分野での進歩の速さを見せつけた。

戦略的な分野への積極投資を、355兆円を駆使して、今年こそ始めるべきだ。そのミクロベースの努力の成果が、マクロの生産性向上に結び付き、潜在成長率の底上げを実現する。

もし、多くの企業が更新投資や目先の株価上昇を目当てに自社株買いに奔走し、それで満足するようなら、日本の潜在成長率は、生産労働人口の減少とともに低下が止まらず、いずれマイナス成長に転落するだろう。

経営者のアニマルスピリットが目覚めるのかどうか。この点が日本経済の先行きを大きく変えることになるだろう。

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