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コラム

コラム:対米黒字の8割弱が自動車、「1本足経済」に潜むリスク

[東京 31日 ロイター] - 米国が通商拡大法232条による自動車を対象にした輸入規制を課すかどうか調査中だが、仮に課税された場合、日本経済にはかなりの打撃となる可能性がある。

 8月31日、米国が通商拡大法232条による自動車を対象にした輸入規制を課すかどうか調査中だが、仮に課税された場合、日本経済にはかなりの打撃になる可能性がある。横浜で2016年10月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

日本の貿易黒字に占める自動車の割合が高く、対米に限定すれば、黒字額全体の76%を占めるからだ。自動車に頼る日本経済の「一本足」の構図は大きなリスクであり、貿易戦争を仕掛けられれば、かなりの打撃を覚悟しなければならないだろう。 

<米が重視する自動車問題>

米国とメキシコの間で北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しが行われ、原産地比率が62.5%から75%に引き上げられた。主要なターゲットがメキシコ内で生産される自動車であることは明らか。自動車に関しては、時間当たり賃金が最低16ドルであることを満たしている工場で生産されたものが、40─45%を占めることも決められた。

これで事実上、新たに米国からメキシコに自動車工場をシフトさせることが難しくなったと言える。

このように米国のトランプ政権は、自動車をメインに貿易赤字の縮小を狙う戦術を採用していることが鮮明だ。

一方、日米間の貿易収支をみると、ある特徴的なことが浮き上がってくる。2017年度の日本の貿易収支によると、対米貿易黒字は6兆9999億円。このうち自動車と自動車部品の黒字額は5兆3657億円と貿易黒字額全体の76.7%を占める。

日米貿易不均衡は「日本の自動車輸出が生み出している」と、トランプ政権からは見えるかもしれない。

<狙い撃ちのリスク>

このことはまず、短期的に大きなリスクを発生させるだろう。米政権が現在、調査中としている通商拡大法232条の適用による25%の自動車関税の適用があった場合、日本の自動車メーカーだけでなく、日本経済にも大きな打撃となる。

2017年に日本から米国に輸出された自動車は約174万台。課税された場合、かなりの割合で輸出台数が減るか、もしくは自動車メーカーの収益が激減することになると予想される。

中長期的にも問題は残る。リーマンショックから10年が経過したが、次に大きな危機が世界経済を覆った場合、単一の業態の稼ぐ黒字額が巨額である場合、その業態がショックの直撃を受けると、経済全体が受ける衝撃が増幅されてしまう危険性があることだ。

実際、2017年度の貿易黒字は2兆4491億円だったが、自動車と自動車部品のネット黒字額は13兆6754億円にのぼる。

自動車だけで稼ぐ「一本足」の構図は、日本経済の将来を考えた場合、かなりのリスクがあると言わざるを得ない。

<脱自動車への挑戦>

では、どうするべきか──。「即効薬」はないだろうが、足元で急速に進んでいるビッグデータとAI(人工知能)を駆使し、マクロ的なトレンドを把握してチャンスを獲得するビジネスモデルの周辺で、必要となるあらゆるモノ、サービスでシェアを高める企業が数多く出てくることが必要だ。

関連して起業、大型設備投資、人材の確保などで、政府が総合的にサポートする仕組みを作ることも重要だろう。

自動車だけが黒字を稼ぐという構造を変えることができれなければ、トランプ大統領の仕掛ける貿易戦争を潜り抜けても、日本経済の未来に光明は差し込んでこないと思う。

●背景となるニュース

・〔情報BOX〕NAFTA新合意による勝ち負け [nL3N1VL73S]

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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