July 22, 2020 / 1:09 AM / 14 days ago

コラム:経済再開と感染拡大のジレンマ、切り札は「限定的制限」=熊野英生氏

[東京 22日] - 「Go Toトラベル」への反対論が強まっている。これは、経済再開と感染リスク防止の両立ができないというジレンマが背景にあるからだ。

7月22日、「Go Toトラベル」への反対論が強まっている。都内で20日撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

日本だけでなく各国でも、強力な感染防止体制を敷いて、いったんは新規感染者数を抑え込んだ。しかし、5、6月にかけて経済再開にかじを切ると、再び新規感染者数が増加することになった。

PCR検査の拡充が、感染者の判明数増加につながった側面はある。それでも、経済活動がより活発化していけば、もっと感染拡大が加速するのではないかという不安は拭えない。

おそらく、従来からの政府の基本的考え方(パラダイム)は、次のようなものだっただろう。

緊急事態宣言で潜在的感染者が減ると、その後に経済を再開しても新規感染者は増えない。なぜなら2週間以上も人と人との接触を断てば、無症状者を含めてコロナ感染した人からウイルスはいなくなる。その間に医療・検査体制を拡充する。経済再開後は検査拡大によって無症状の感染者をあぶり出し、感染阻止を成功させる──。

<政府の誤算>

筆者は、政府が描いたパラダイムに明らかな誤りがあったとは思わない。しかし、その作戦を実行してみると、予想外のことが起きた。2カ月間近くも人と人との接触を極力8割制限してきたのに、隠れた感染者が多く残ってしまった。特に、夜の繁華街では、人出が増えると次々に新規感染者が増えた。

今後、政府は、仮に再び緊急事態宣言を発令するなら、限定されたエリアで実行するだろう。もっと強制力がある形で、完全に潜在的感染者が解消されるような措置を選択すると筆者はみている。それは経済活動への痛みが大きいので、十分な休業補償を用意するはずだ。

ただ、政府にはもう1つの誤算があった。それは4、5月の緊急事態宣言を経験した国民が、もう二度と繰り返したくないと思っていることだ。政府は、内閣支持率を大きく落とすような緊急事態宣言を選択しにくくなっている。この点も、感染阻止が直面するジレンマだ。

<国民に仕方ないと思わせる戦術>

新規感染者数が、検査件数の増加ペースを大きく上回って急増すると、多くの国民が政府は再び緊急事態宣言の発令に追い込まれるのではないかと不安に思うだろう。

政府は、経済再開と感染リスク拡大の間にあるジレンマにどう対処するかを具体的に示すことが望ましいと思う。これは、今までの作戦(プランA)から非常時の腹案(プランB)への移行である。

事前にプランBを示すことは、たとえそれが国民にとって不人気な内容であっても、感染リスクを制御するためだから仕方がないと思わせるだろう。筆者は、地域を限定して、人の移動を制限する期間を明示すれば、政策への納得度は高まるとみている。

<開示情報増やし、分析は民間委託>

経済を再開しても感染リスクを再び高めないようにする方法は、明快には描けない。政府は、全知全能ではないので、その時点で最も良策と考えられる方法を打ち続けるしかない。コロナ対策は、持久戦にならざるを得ないことは誰もが覚悟している。ポイントは、どこまで国民が仕方ないと思うかだ。

現時点で政府がベストな対応を採っているかどうかには、筆者は少し疑問を抱いている。例えば、PCR検査に関して、将来の感染リスクを完全にあぶり出すような対象に実施しているのかが見えない。

東京都は7つの指標を掲げて、感染リスクを評価しているが、今は以前よりも検査件数が増えたために感染者数も増加しており、従来の指標だけでは十分とは言えなくなっている。もっと多種多様なデータを開示して、データ分析は在野の研究者にも広範に行ってもらう方がよいと考える。

政府関係者がよく言うのは、「全国、全世界の英知を結集して」という枕詞である。しかし、いくら賢い人達が集まっても、利用できるデータが限定されていると、よい対応策が出来上がるとは思えない。むしろ、開示される情報量をもっと増やし、データ分析を内外の民間人に任せる方がよいアイデアが生まれるのではないか。

経済と感染のジレンマに対して、何の条件がそろえば、それを克服する糸口になるのか、今は明快な解答がない。その解答は、感染状況をもっと詳細に分析すれば見えてくると筆者は考えるが、どうだろうか。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:田巻一彦

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