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コラム

コラム:米CPIショックが突き付けた日本経済の弱点、内需失速の瀬戸際

[東京 17日 ロイター] - 米消費者物価指数(CPI)上昇後に米欧日など主要国の株価が急落したいわゆる「米CPIショック」は、日本経済の構造的な弱さを露呈した。新型コロナウイルスの感染拡大やワクチン接種の遅れで内需が弱く、もし米国がインフレ懸念に直面して経済変調をきたすと頼みの外需も打撃を受け、総崩れになってしまう可能性を実験した格好だ。

  5月17日、米消費者物価指数(CPI)上昇後に米欧日など主要国の株価が急落したいわゆる「米CPIショック」は、日本経済の構造的な弱さを露呈した。都内で14日撮影(2021年 ロイター/Naoki Ogura)

政府は早急に内需のてこ入れを図るため、経済対策の検討に入るべきだが、ワクチン接種や東京五輪の開催準備などに忙殺され、優先順位は低いままのようだ。5月31日までの緊急事態宣言が延長される事態になるなら、内需失速によって日本経済が「緊急事態」に陥りかねない。

<外需に打撃なら影響深刻に>

4月米CPI(12日発表)は前年比4.2%上昇と予想の同3.6%を大きく上回り、市場では米国のインフレ懸念が台頭。米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めが予想より前倒しされるとの市場観測が広がってダウは一時、高値から5%下落した。

ところが、市場の動揺は「震源地」のニューヨークよりも東京の方が大きく、日経平均は一時、2日間で8%近く急落する場面があった。日米ともにその後の市場では平静さを取り戻して株価は反発したが、「米CPIショック」の投げかけた波紋は大きかった。

日本株の動揺が大きかった背景には、コロナ禍の日本経済が外需だけを頼りにする「一本足」打法的な構造になってしまったことが大きく作用している。

コロナの感染者数がいち早く急減した中国や、ワクチン接種が順調に進展している米国向けに、日本の半導体や自動車、機械メーカーは輸出を急加速させた。自動車は半導体不足の影響で生産が足元で停滞しているものの、半導体や関連する製造装置メーカー、機械メーカーの中には、フル生産しても受注をさばききれないところまで出てきた。

だが、米国での需要過多によるインフレ懸念の高まりでFRBを引き締めに走らせれば、需要が急減してこの活況が消滅するのではないか──。「米CPIショック」は日米の市場関係者に、米経済がインフレに直面するというシナリオでは、米国以上に日本が打撃を受けかけないというリスクに目を向けさせたと言えるだろう。

<コロナに手足縛られる内需>

一方、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の対象拡大は、日本の内需の先行きに暗い影を落としている。

4月の景気ウォッチャー調査(13日発表)は、景気の現状判断DIが3カ月ぶりに悪化。さらに前月から9.9ポイントも低下したことが重大だ。東京都や関西圏での緊急事態宣言の発令で、小売や飲食関連が大きく落ち込んだのが響いているが、コロナの感染拡大が続いている中では、5月に一段と悪化する可能性が出てきている。

18日発表の2021年1─3月期の国内総生産(GDP)は、3期ぶりのマイナス成長となる公算が大きい。当初はその反動で4─6月期はプラスに転じるとの予想が民間エコノミストの中で多かった。だが、ここに来てコロナ感染拡大のマイナス効果で内需の打撃が大きくなり、2四半期連続のマイナス成長になりそうだとの予想も、一部のエコノミストから出ている。筆者もその可能性が高まっていると指摘したい。

<放置される追加経済対策>

そうした中で、政府は高齢者向けのワクチン接種を7月中に終了させるよう地方自治体に「大号令」をかけ、主要7カ国(G7)で最も遅れている現状の挽回に躍起のようだ。群馬県太田市では、総務省の課長が7月中の終了を果たすように市長に電話をかけてきたとの報道もあった。政府の最優先課題が「ワクチン接種」であることは間違いないようだ。

だが、疲弊している内需へのてこ入れを放置しているのが得策であるとは思えない。公明党の竹内譲政調会長は16日、NHK番組の中で、雇用調整助成金の特例措置について、7月以降も継続することが必要との見解を示したが、それだけでは不十分だろう。コロナ対応が長期化することを前提にした消費を下支えする総合的な政策パッケージの検討が不可欠だと指摘したい。

政府は2021年度予算の中の5兆円の予備費で機動的に対応すると繰り返し説明しているが、具体的な新手の政策は出てきていない。もし、GDPが2期連続でマイナスになれば、G7で唯一の景気後退国というらく印を国際的に押されてしまうだろう。それを回避するには、早急な財政出動が不可欠だ。

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