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コラム

コラム:ワクチン効果織り込む日本株、緊急事態延長でサービス業は空洞化

[東京 28日 ロイター] - 日本の新型コロナウイルスワクチン接種率が、ようやく上向いてきた。金融・資本市場が注視する人口比10%に接近し、一部では米欧の先行事例にならって日本株買い戻しのタイミングとの期待感も浮上している。だが、東京都などへの緊急事態宣言は6月20日まで延長されることで、2021年4─6月期の国内総生産(GDP)が2期連続のマイナス成長になる可能性が高まってきた。

 5月28日、日本の新型コロナウイルスワクチン接種率が、ようやく上向いてきた。金融・資本市場が注視する人口比10%に接近し、一部では米欧の先行事例にならって日本株買い戻しのタイミングとの期待感も浮上している。だが、東京都などへの緊急事態宣言は6月20日まで延長されることで、2021年4─6月期の国内総生産(GDP)が2期連続のマイナス成長になる可能性が高まってきた。7日、浅草で撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

問題は長引く時短要請や「禁酒のお達し」で、飲食業を中心にした対面型サービス企業が持ちこたえることができず、次々に閉店やビジネス撤退に追い込まれて「空洞化」する危険性が出てきたことだ。多くの雇用の受け皿となり、関連する産業への経済波及効果が大きい対面型サービスで空洞化が進行すれば、仮にワクチン接種の進展で客が戻ってきても、簡単に売上高が復元されることはないだろう。経済対策の検討に着手しない政府・与党の認識は、楽観的に過ぎると指摘したい。

<市場で広がるワクチンへの期待感>

日本のワクチン接種率は、2回接種のうちの1回を実施した場合に1回分とカウントし、100人当たり8.38回となる。英国の93.09回や米国の86.48回(Our World in Data 5月28日現在)に引き離されているが、金融・資本市場が注目する10回に迫ってきた。物事を先取りするマーケット関係者にとって、ワクチン効果を株買い材料として織り込み始めるタイミングは、全人口の10%が接種を終えたあたりという。

今週に入って東京市場でも、にわかに「日本のワクチン接種の進展は好材料」(国内銀行関係者)との声が広がり出したのは、10%の数字が意識されたからだろう。実際に米英の市場では、10%突破後にサービス関連業種の株価が買われ出し、その後の「インフレ懸念相場」への導火線となった。

<迫る景気後退懸念>

だが、日本の状況は、単純に米欧諸国を追いかけるようにはなっていない。まず、コロナ感染者が米英のように減少傾向をたどらず、政府は28日に9都道府県を対象にした緊急事態宣言の発令を6月20日まで延長することを決める。

この結果、個人消費への打撃が大きくなり、民間調査機関の中で4─6月期のGDP見通しを当初のプラス成長からマイナス成長に下方修正するところが続出している。2期連続のマイナス成長は、欧米の経済専門家からは「景気後退」とみなされ、主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)や財務相・中銀総裁会議では「日本経済は大丈夫か」と心配される立場になってしまった。

<飲食業で進む経営危機>

景気回復の遅れが、ワクチン接種の進展でいずれ取り戻せるなら、あまり心配しなくていいかもしれない。しかし、日本経済の現実はさらに厳しいと筆者の目には映る。

昨年4月の1回目の緊急事態宣言から1年以上が経過し、飲食店の経営者の中には預貯金が底をつき、廃業するケースが目立ってきた。商工リサーチによると、2020年度の居酒屋(含むビアホール)の倒産件数(負債1000万円以上)は175件と、2001年度以降で最高を記録した。小規模な居酒屋まで含めると、経営が行き詰ったケースはさらに拡大していると考えられる。

都道府県から飲食店などに支給される「協力金」が「遅配」となっていることも、零細な飲食店の懐事情を直撃している。昨年の1回目の時短要請に応じた協力金が今年になって振り込まれたものの、2回目以降の協力金は振り込まれていないケースも多数に上っているもようだ。自治体のチェックに時間がかかっているのは「正確」「厳正」を優先した結果だが、入金の遅延で倒産に至れば、制度の目的を達成したことにはならないだろう。

<浮上する空洞化懸念>

また、酒類提供の自粛と休業要請は、飲食店への打撃を大きくし、関連する取引業者の売上減を伴って「マイナス効果」のスパイラル的な波及を生じさせている。経産省の調査では、飲食サービス業は400万人から500万人の雇用を生みだしているが、このまま飲食サービス業の落ち込みを「放置」同然にすれば、廃業が急増して大規模な空洞化を招く事態に結びつきかねない。

ワクチン進展に対するマーケットの楽観論は、供給サイドが無傷であることが前提であり、客が戻れば売り上げが復元されるというシナリだ。しかし、現状のような有効な財政的サポートもなく、明確な収束期限も示さずに時短要請をサービス業に続ければ、空洞化の現実は、だれの目にも明らかになるだろう。

実際、都内の主要ターミナルそばのビルに入居するテナントの退去が目立ち始めたのは、その兆候と言えるだろう。空洞化が一定程度を超えて進めば、景気循環論では想定できなかった日本経済の下方屈折が起きかねない。

<早急な経済対策の検討急務>

今のところ、米中の景気回復が急ピッチで進み、旺盛な外需に支えられ、それが安全ネット代わりに作用し、日本経済が内需減少を外需増加でネットアウトして「底割れ」はないと楽観している政府・与党関係者が多い。確かに短期的には底割れを回避できるかもしれないが、対面型サービスの空洞化を放置していては、日本経済の活力は失われるだろう。

今年の秋まで経済対策の検討を先送りするのは、高度が下がっている航空機の操縦かんを上げないのと同じ結果を招く。短期的な対策と中長期の成長政策を組み合わせた経済の再活性化策が喫緊の課題であると主張したい。

●背景となるニュース

・9都道府県の緊急事態宣言延長、分科会が了承 6月20日まで

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