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コラム

コラム:ドル安なのに円高にならない4つの理由 背景に「衰退する日本」

[東京 11日 ロイター] - ドル/円だけを見ているとよくわからないが、主要通貨に対してドルは足元で緩やかに下落している。かつての円は、ドル売りの受け皿となって円高になるケースが多かったが、実は円も対主要通貨では売られ、ドル/円が均衡しているのが実態だ。では、なぜ円が売られているのか。以下に4つの主要な要因を挙げる。

 6月11日、ドル/円だけを見ているとよくわからないが、主要通貨に対してドルは足元で緩やかに下落している。写真は米ドルと日本円紙幣。2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White)

<年初から6%の円安>

ドル指数は3月末に93.23付近で推移していたが、足元では90付近まで低下している。低下幅は3.5%程度で、米バイデン政権が推し進める財政拡張的な経済政策で物価が上がり、財政赤字と貿易赤字が膨らむとの市場コンセンサスがドルの水準をじわじわと切り下げることにつながっているようだ。

一方、円の名目実行為替レートは、今年1月6日から6月9日までに約6.3%低下した。3月30日と比べても約3%水準を切り下げている。なぜ、円が下落しているかと言えば、主に海外勢が以前のようにドルを売って買う通貨として、円を選択しなくなったことが主因のようだ。

<ワクチン敗戦>

その理由の1番目に挙げられるのは、やはり新型コロナワクチンの接種競争で「敗北」したことだ。英国や米国が接種を加速させていた今年4月上旬、日本の接種回数は約160万回と全人口の1%強にとどまり、日本政府のコロナ対策の脆弱さを海外勢に印象付けてしまった。

足元では急速に接種回数が増加し、6月9日の段階で2038万回まで伸びてきたが、集団免疫を獲得するとされる60%の人々に2回の接種を終了させるには、なお相当の時間がかかる可能性がある。海外勢は、足元でのワクチン接種加速を円買い材料とは捉えていないようだ。

実際、京都大学の西浦博教授(感染免疫学)らのチームがまとめた試算では、高齢者のワクチン接種率が60%から90%になる4つの仮定のいずれでも、今年8月上旬に東京都で緊急事態宣言の発令が回避できない重症者用のベッド使用率になるという。新型コロナの感染拡大「5波」が来る可能性が高いという情報が今後、内外の市場で広がれば、円売りが継続する可能性もある。

<資源価格上昇と富の流出>

2番目の要因は、米国や中国での景気回復を背景にした世界的な資源価格の上昇だ。主要な商品で構成されているCRB商品指数は今年1月初めから現在まで約25%も上昇している。国内資源の乏しい日本にとって、資源価格の高騰は「富の流出」となり、海外の為替プレーヤーにとっては円売り材料と映る。

また、小麦や食用油、輸入牛肉・豚肉などの食料品価格の上昇は、消費者の「財布のひも」を堅くさせ、個人消費を圧迫する要因にもなる。これは、次に指摘する日本経済全体の足を引っ張る大きな要因にもなる。

<景気後退のサイン>

3番目が長引く緊急事態宣言の発令の「副反応」とも言える日本経済の下方屈折リスクだ。8日に発表された2021年1─3月期の国内総生産(GDP)の2次速報は、1次速報から上方修正されたもののマイナス3.9%だった。

4─6月期は緊急事態宣言による対面型ビジネスの不振が予想され、かなり多くのシンクタンクがマイナス成長を予想している。仮にマイナスが確定すれば2期連続となり、欧米流の思考アプローチを駆使する海外勢は、「景気後退」と判断するだろう。足元では海外勢による「日本経済の停滞イメージ」は、かなり浸透してきているように見える。

<政治の弱点>

4つ目の要因は、迅速な景気対策を打つことができない日本の政治を取り巻く環境への「失望」がある。菅義偉首相はワクチン接種を最優先の政策課題に掲げ、失速の兆しが見える日本経済をサポートするための経済対策の作成指示を出していない。

与党関係者の一部には、大型の経済対策を求める声があるものの、東京五輪・パラリンピック後のどこかのタイミングで衆院を解散し、補正予算の編成は衆院選後の10月後半か11月というのが与党内の「相場観」になっているらしい。海外勢の中には「遅過ぎる」との声が出ており、「衆院選で円買い・株買い」という観測は広がりを見せていない。

<逃避通貨からの転落>

このように見てくると、日本の政治・経済体制が持っている活力がじわじわとむしばまれ、リスクオフ時に買う「避難通貨」の地位から、すでに滑り落ちている可能性があると言わざるを得ない。「衰退する日本」を映しているのが、足元での円安と見るべきだろう。

ただ、すぐに円が暴落することもないと指摘しておきたい。なぜなら、2020年末の対外純資産額は356兆円と30年連続で世界一の規模を誇っているからだ。この「アンカー」が存在している限り、投機筋の円売りによる大幅な切り下げの現実性は低いだろう。

だからと言って、ゆっくりと進む国力低下を放置していいということにはならない。今秋とみられる衆院選で「日本経済復活への処方せん」が論争点の1つになることを望みたい。

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