for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up
コラム

コラム:コロナ禍中の「強制貯蓄20兆円」、日本の救世主になれない3つの理由

[東京 9日 ロイター] - 新型コロナウイルス禍の中で個人が貯め込んだ約20兆円がワクチン接種の加速とともに消費に回り、好調な輸出と相まって日本経済が回復軌道に乗る──日銀にはそういう目算があったはずだ。しかし、足元では急速な環境変化が起き、そのシナリオを脅かしている。以下に3つの波乱要因を指摘する。

 7月9日、新型コロナウイルス禍の中で個人が貯め込んだ約20兆円がワクチン接種の加速とともに消費に回り、好調な輸出と相まって日本経済が回復軌道に乗る──日銀にはそういう目算があったはずだ。都内で8日撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

<日銀が分析した「強制貯蓄」の構造>

まず、日銀が4月の展望リポートで示したコロナ禍の下でのサービス消費の減退と貯蓄増加のメカニズムについて紹介する。

日銀は、感染症の拡大で外出や都道府県をまたぐ移動が減少し、サービス消費などの機会が減って、半ば強制的に貯蓄に回ったお金を「強制貯蓄」と命名。2020年の1年間に約20兆円に膨れ上がり(特別定額給付金から回った部分は除く)、可処分所得の7%を占める大きな規模になっていると試算した。

この「強制貯蓄」について、日銀は「少しずつ取り崩されていく」という展開をメインシナリオに掲げているが、ワクチン接種の進展などで個人消費が上振れる可能性にも言及している。輸出企業の業績が急回復している中で、もし、今年後半に個人消費が上振れることになれば、日本経済の回復軌道は、想定よりも上振れる可能性があるとの声が、少し前の日銀内にはあった。

<緊急事態宣言のマイナス効果>

だが、足元では急速な外的環境の変化が生じている。1つ目は、政府が8日に決めた東京都などへの緊急事態宣言の再発令だ。「都道府県間の移動は極力控える」ことが求められ、ワクチン接種の拡大で動き出した旅行・宿泊・交通などの関連産業は、期待していた夏休み需要の多くを失うことになる。強制貯蓄の取り崩しで、大きな需要創出が見込まれていた観光関連など対面型サービスのⅤ字回復は水泡に帰すことになりそうだ。

また、飲食店への「禁酒令」がより厳格化した形で再発令され、飲食関連のペントアップ需要(繰り越されてきた需要の取り戻し効果)にも冷や水を浴びせた格好だ。

<ワクチン供給不足の波紋>

2つ目は、ここに来て拡大しているワクチン接種進展への不安感だ。政府は、米モデルナ社のワクチン供給が6月末の段階で、当初予定の4000万回から1370万回に減少していたことを認めた。モデルナワクチンを使用する職域接種の申請は打ち切られ、申請済みの中にも未承認が数多く残り、申請しているのに接種ができなくなるのではないかとの懸念が、中小企業だけでなく大企業の間にも広がってきた。

米ファイザー社のワクチンについても、政府が7─9月の期間中、2週間ごとに1170万回分を全国に配布すると公表したが、各市町村ごとの配分データが正確に伝わっていなかった。一部の自治体ではいったん設定したワクチン接種の予定をキャンセルするケースが相次ぎ、2回目の接種を規定の6週間以内に実施できないのではないかとの懸念が住民の間に浮上。「2回目難民」という新語まで登場している。

このような不安感が収束しなければ、「安心して消費する」という強制貯蓄の取り崩しの前提が崩壊し、サービス消費が消費全体を押し上げるという当初想定していた成功シナリオが霧消する結果になるだろう。

<米経済の先行きに広がる不安感>

3つ目の環境変化は、より深刻な要因かもしれない。先行して経済が上向いてきた米経済の先行きに対し、インドで最初に確認された変異株(デルタ株)が拡大し、米経済の拡大にストップをかけるのではないかとの懸念だ。

実際、8日のニューヨーク株式市場は大幅に下落。9日の東京市場でも日経平均が前日比600円を超える下げとなっている。日本経済は、落ち込むサービス消費を輸出企業の大幅増益でカバーする構図が出来上がっていた。ところが、このままでは輸出にも暗雲が垂れ込め、株価の大幅下落で企業と個人のマインドを冷やすという大きな下押し圧力がかかりかねなくなっている。

以上、指摘してきた3つの要因を1つ1つ解決していかなければ、積み上がった20兆円は有効活用されず、そのまま塩漬けになる可能性が高まる。「救世主」が登場しないまま日本経済V字回復の夢は後退し、株価の上値追いも実現が難しくなるだろう。菅義偉首相はじめ政府の首脳陣から、日本経済の現状や立て直しへの具体的なプランが出てこないのは「寂しい」限りだ。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up