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コラム

コラム:円安逆手に日本企業の国内還流促進すべき、成長押し上げ策に

[東京 22日 ロイター] - 外為市場でドル高・円安が進行中だ。日米金利差の一段の拡大観測や、エネルギー価格上昇による日本の貿易赤字拡大への思惑などから130円突破予想が広がっている。政府は物価高と円安の連動に頭を痛めているが、抜本的な発想の転換が必要だ。円安長期化を逆手に取って、海外に移転した日本企業の生産拠点を国内に還流させる「バックツー・ジャパン」戦略を打ち出すべきだ。

 4月22日、外為市場でドル高・円安が進行中だ。日米金利差の一段の拡大観測や、エネルギー価格上昇による日本の貿易赤字拡大への思惑などから130円突破予想が広がっている。都内で2021年8月撮影(2022年 ロイター/Athit Perawongmetha)

国内で生産拠点が急増すれば、雇用と税収が拡大基調をたどり、円安を利用した輸出増によって「底なしの円安」リスクを回避できる。補助金によるガソリン価格の補てんは「痛み止め」に過ぎず、製造業の国内還流を促進するための投資減税やその他の優遇策こそが、将来の日本経済の成長力強化につながる。新しい資本主義の中のパーツの1つに組み込んでほしい。

<米利上げ加速と円安>

21日にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の利上げについて「検討される」と述べ、米5年債利回りは22日のアジア市場の取引時間帯に3.04%へと上昇した。

5月4日のFOMC後の会見でパウエル議長が、米国におけるインフレ率の高まりに対応し、中立金利かそれ以上の水準に政策金利を引き上げる可能性について言及するのではないかとの観測が市場で高まっている。

他方、日銀は長期金利を0.25%で抑え込む「指し値オペ」の連続実施を通告しており、日米金利差の拡大と円安進展がしばらく続きそうだという市場の思惑は強まるばかりだ。

<外国人観光客の急減、地方の円安メリット消滅>

黒田東彦日銀総裁は、18日の衆院決算行政監視委で「最近1カ月ほどで10円と急速な円安は、企業の事業計画策定に困難を来す可能性がある」と指摘し「大きな円安や急速な円安ではマイナス(の方)が大きくなる」と述べた。ただ、日銀の計量モデルの試算を踏まえ「円安が全体的に日本経済にプラスとの評価は変えていない」、「基本的に円安は全体としてプラス」というスタンスは変えなかった。

確かにマクロ的にトータルすれば、プラスが大きいという試算は成り立つ。しかし、国外で利益を享受できない多くの個人や地方の観光事業者などにとっては、マイナスばかりが目立つ事態になっている。

新型コロナウイルスが拡大する以前は、地方も円安で潤っていた。その大きな項目が海外から来日する観光客の需要だ。日本政府観光局によると、2019年の訪日外国人客数は過去最高の3188万人を記録した。ところが、2021年は24万5900人と19年比で99.2%減。ほぼ「消滅」したと言ってもいい状況になっている。

<痛み止めの政策対応>

こうなると、与党を通じて地方で苦境に直面する人々からの苦情が首相官邸に集まってくるという構図が出来上がることになる。

ガソリンなどの補助金を1リットル当たり25円から35円に引き上げたり、2兆7000億円規模の2022年度補正予算案の今国会中の成立が政府・与党内で検討されているとの報道が出てくるのは、国民の間に充満し出したエネルギー価格などの上昇に対する不満を与党の政治家が敏感に感じ取った証拠とも言える。

ただ、これらの政策対応は「痛み止め」の効果しかない。潜在成長率がゼロ%台に落ち込んだ日本経済の再活性化をにらんだ「前向きの政策展開」が全く見えないのが残念だ。

<海外に出ていった日本企業>

そこで、提案したいのは、円安を頭痛の種と思わず、有効に活用する新しいアプローチだ。日本企業は製造業を中心に「円高は困る」と主張して、中国などの海外に生産設備を移してきた。

国際協力銀行(JBIC)の調査によると、海外展開している965社のうち回答した510社の2021年度の海外売上高比率(見込み)は36.3%。2002年度の27.9%から8.7%ポイント上昇している。中でも自動車が40.5%、電機・電子が47.3%と、かつての輸出産業の両輪が海外にシフトし、日本国内が空洞化している実態が浮かび上がる。

<地政学リスクと採算性>

円高で採算が合わないと海外に出ていったが、足元の円安なら十分に利益が出ると一部の製造業の幹部はみている。特に中国に進出した企業にとって、1)中国人労働者の賃金上昇、2)米中関係の緊張に伴うリスク─の2つは、日本国内に戻る理由として正当化できるようだ。

中でもロシアによるウクライナ侵攻とその後の対ロシア制裁を目の当たりにしたことが、大きな変化をもたらしつつある。もし、中国がロシアに武器などを供与したり、台湾海峡で緊張が高まった場合、日本企業のビジネスに大きなリスクが発生する可能性があり、水面下でシミュレーションする必要性が出てきたのではないか。

コストを最小化する「最適生産」から、経済安全保障上のリスクを勘案して採算性を弾き出す時代に移行しつつある今、円安の時こそ、日本企業の生産設備を国内に呼び戻す絶好のチャンスであると考える。

<国内回帰に財政支援が必要な理由>

海外の設備を処分して国内に帰る場合、処理損や現地での法的紛争によるコストなどが、障害になる可能性がある。そうした点に着目し、日本政府が税法上の特典も含めて支援策を構築し、財政支援するスキームを構築すれば「生きた資金の活用」になるだろう。

台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県への誘致の例を出すまでもなく、製造業の国内還流政策は、地方の雇用を増大させて税収を上げる効果を持つ。また、技術の集積による新たな産業の創造にもつながり得る可能性を秘めている。

岸田文雄首相は新しい資本主義を掲げているが、その中に「製造業の日本回帰」という項目を加え、足元の円安を奇貨として日本経済を浮揚させる反転攻勢に出てほしい。

そのような攻めの発想がなければ、円安に伴う購買力の低下を嘆き、1人当たり国内総生産(GDP)が年々、低下していく「衰退国」が定位置になってしまうだろう。

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